第28話 つまり、俺でも再現可能ってこと

 俺がトラちゃんをスーハーしてると、ギリアムお兄様が残念な物を見るような目で俺を見ていた。何その顔。その顔、俺がする顔だからね。


「続きを話してもいいかな?」

「どうぞ」

「えっと、ルーファスは千二百年くらい前に何があったか知っているよね?」


 千二百年に何があったのか。ギリアムお兄様と違い、歴史マニアではない俺が知っているはずがないと思う。だが、あえてギリアムお兄様が質問してきたのだから、歴史の授業で学ぶ範囲なのだろう。それはすなわち、だれでも知っているような出来事が起こったということだ。


「確か、神魔大戦が終結したのがそのくらいの時期ではなかったでしょうか?」

「その通り! さすがはルーファスだね。よく勉強している」


 よかった。合ってた。確かそれ以前の世界では、神と魔族が争っていたんだよね。でも千二百年ほど前に、双方が相打ちのような形になり、神も魔族も地上から消えた。

 どうして相打ちになったかと言うと、劣勢だった神が人間に神が鍛えし武器を与えて味方につけたからである。神が敗れたのち、残された人間が魔族を退治したのだ。


「トラちゃんを召喚したご先祖様はそんな時代の人だったのですね。荒れた国土の復興とか、大変だったのでしょうね」

「そうみたいだね。その時代のことは記録としてしっかりと残っているよ。それで、その召喚スキルを持っていた人物の名前はルーウェン。第五王子で放浪癖があったみたいだよ」


 その時代の記録が現代にも残っているとは驚きだな。俺も一度くらいは歴代国王の記録を読んでおいた方がいいのかもしれない。でも千二百年分の記録になると、間違いなく膨大な量になるよね? もしかしなくても、ギリアムお兄様はそれを全部、読んだのだろう。恐るべし歴史マニア。


「それでは、その放浪していたときに伝説の武器を集めたということになりますね」

「私もルーファスと同じ意見だよ。ただ、各地に散らばった伝説の武器をなぜ集めようとしたのか、どうやって見つけ出したのか、さらにはどうやって手に入れたのかが、一切、分からないんだ。もちろんお金は使っただろうけど、あの時代に大金を使う余裕はなかったはずなんだよね」


 ギリアムお兄様が腕を組んで考え込んでいる。俺と同じ結論にはなったけど、どうやってそれを成し遂げることができたのか、理解できないようだった。その一方で、俺は召喚スキルをうまく使えば、それも可能だと思っていた。


「うーん、見つけるだけなら、そういった能力を持った魔法生物を呼び出せばいいので、なんとかなると思いますよ。どうやって手に入れたのかは……これも盗みが得意な魔法生物を呼び出せばなんとかなるかもしれません」


 伝説の武器を探すなら、ドラ○ンレーダーのような探知能力を持つ魔法生物を呼べばいいし、盗みなら、怪盗ル○ンの能力を持った魔法生物を呼び出せばいい。うん、俺にもできそうだぞ。


「ルーファス……もしかして、再現できたりしないよね?」


 ギリアムお兄様がご令嬢に囲まれたときに見せる作り笑いを浮かべた。俺じゃなきゃ見逃してたね。危ない、危ない。君子危うきに近寄らずだな。俺は何も思いついていないことにしよう。


「もちろん私にはムリですよ。ご先祖様はすごいなー、憧れちゃうなー」


 俺の反応をいぶかしむギリアムお兄様。だが実際に俺が召喚しなければ証拠は得られない。これはますます、召喚できないぞ。少なくとも、ギリアムお兄様の前ではやめておいた方がよさそうだ。


 それにしても、そんな能力を思いつき、かつ、実現するのはこの世界の住人ではムリなような気がする。ノーヒントでレーダーを思いつくとかあり得ない。

 人物の気配を察知する人はいるけど、それでも近くに限った話である。


 そうなると、ご先祖様はやっぱり俺と同じ転生者だったのだろう。もしそうなら、創造神にも会っているはず。伝説の武器を集めたのは創造神から頼まれたのかもしれないな。役目を終えた武器を回収してくれってね。うん、これならつじつまが合うな。


「まあ、いいや。それで、トラちゃんの中に入っている物は、その年代以前の物だと推測しているよ。当時の物は今ではものすごく貴重で、どれも価値のある物になっているからね。どんな物が入っているのか、とても楽しみだよ」


 今度は曇り一つない、実にイイ笑顔を浮かべるギリアムお兄様。どうやら本当の戦いはここからになるようである。

 昼食の時間までには終わるかな? なんだか終わらなそうな気がするんだけど。もしかして、今日は昼食、抜きですか? そんなバカな。


 ギリアムお兄様が提示した名前の物をトラちゃんに確認して、あればそれを取り出すという作業を繰り返す。

 その結果、分かってきたことがあった。その当時、貴重であった物はなんでも入っている。どうやって手に入れたのだろうか。


 放浪癖のある人物がこれだけの貴重品を手に入れるだけのお金を持っていたとは思えない。もしかしてその当時、”怪盗ルーウェン”とか名乗っていなかったよね?


「まさか、完全な形の物が現存していただなんて。これは間違いなくムクベの壺だ!」


 俺がせっせとトラちゃんの中から物を出していると、ギリアムお兄様の悲鳴が上がった。どうやらスーパースペシャルレアな一品を取り出してしまったようである。あ、ギリアムお兄様がほおずりしているな。レナードお兄様も似たようなことをしていたぞ。


「ルーファス、これ、もらってもいいかな?」

「いいんじゃないですか? あと十個入ってるみたいですから」

「十個も! それならルーファス、あと一つ、いや、あと二つくらい……」


 そう言いながらギリアムお兄様が俺の頭をなで始めた。セットが乱れるからやめて! だがしかし、どうやらその壺は考古学的にも大変貴重な品であったようで、ギリアムお兄様の動きは止まらなかった。だれか止めてくれ。


「ギリアム、ずいぶんと騒々しいわね」


 ギリアムお兄様の後ろから声がかかった。その途端、ギリアムお兄様の動きが、メデューサににらまれて、ギリシャ彫刻になったかのように止まった。お母様だ。これぞ天の助け。


「お母様!」

「もう大丈夫よ、ルーファス。お母様が来たわ」


 思わず歓喜の声を上げると、お母様がこちらを見てニッコリとほほ笑んだ。

 よかった。これで昼食抜きは避けられたぞ。よくやった、バルト。あとでご褒美をあげないといけないな。

 魔剣デュランダルとかどうかな? それを渡すとやっぱり国王陛下に怒られちゃう?

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