第29話 つまり、似た者どうしってこと
お母様の登場によって沈黙したギリアムお兄様を連れて、王族専用のプライベートサロンへとやってきた。
このサロンは王城にあるいくつものサロンの中でも、比較的、装飾品がおとなしいものになっている。
アメ色の縦長のテーブルに、同じくセットのイス。置かれているソファーは落ち着いた色合いをしており、ゆっくりと落ち着いて座ることができる。窓からは明るい光が降り注ぎ、中庭に咲く花が風に揺れているのが見えた。個人的にはお気入りのサロンの一つである。
肩肘張る必要がないからね。
どうやら今日の昼食はこの部屋で食べるみたいだ。料理人たちが次々と料理をテーブルへと運び込んでいる。俺がソファーでラギオスたちと戯れている間に、お母様とギリアムお兄様が先に席に座った。
「ギリアム、あなたが骨董品をこよなく愛していることはよく知っているわ。でもそれは、自分の部屋の中だけにしておきなさい。そう何度も言ったでしょう?」
「しかし母上、ムクベの壺ですよ? それがどれだけ……」
「ギリアム」
「申し訳ございませんでした」
ギロリとお母様がギリアムお兄様をにらんだ。おお怖い。秒でギリアムお兄様に完全勝利するお母様。さすがやで。敵にだけは絶対に回したくないな。
俺も席に座ったところで、レナードお兄様がサロンへと入ってきた。どうやらレナードお兄様もお母様に呼ばれていたみたいだ。
「お兄様も一緒だったのですね。急に母上から呼び出されたので何かあったのかと……何かあったのですか?」
「やあ、レナード。レナードもほどほどにしておいた方がいいよ」
「は、はぁ……?」
困惑するレナードお兄様。確かにレナードお兄様は”第二のギリアムお兄様”になりかねないからね。レナードお兄様の前で伝説の武器をトラちゃんから出した暁には、きっと狂喜乱舞することだろう。これはあらかじめお母様を呼んでおいた方がいいのかもしれない。
「ルーファス、聞くところによるとトラちゃんの中に色々な物が入っているみたいね?」
「はい。神話の時代の遺物が多数、入っています。今、ギリアムお兄様の力を借りて調べていますが、先ほどのような状態でして……」
「ギリアム、国王陛下に言われた通り、目録だけを提出しなさい」
「そんな! ……分かりました」
反論を試みたギリアムお兄様だったが、お母様にひとにらみされて即座に撃沈。あまりにも早い撃沈。俺じゃなきゃ見逃してたね。
でもそうでもしないと、ギリアムお兄様は自分の仕事そっちのけで、トラちゃんの中身を調べるだろうからなー。それにつき合わされる俺も徹夜で作業することになりかねない。
「それからレナード、あなたも目録だけをルーファスに渡すように」
「そんな! ……分かりました」
反論を試みたレナードお兄様だったが、お母様にひとにらみされて即座に撃沈。あまりにも早い撃沈。俺じゃなきゃ見逃してたね。
ん? なんだろう、この既視感。つい先ほど、同じことを体験したような気がするぞ。
どうやらお母様はこうなることを予見してレナードお兄様をここへ呼んだようである。さすがはお母様。分かってる。
「お母様、トラちゃんの中に入っているのもはどうしたらいいのでしょうか?」
「まだなんとも言えないわね。中の物が出そろい次第、国王陛下からなんらかのお達しがあると思うわ。それまでは中から出さないようにしてちょうだい」
「分かりました」
「そんな!」
「そんな!」
悲鳴を上げる二人の兄。そんな兄二人にお母様が非常な宣告を突きつけた。現実は実に残酷である。
「そういうわけだから、先ほどのムクベの壺も、聖剣エクスカリバーも、トラちゃんの中にしまっておくように」
涙目になる兄二人。どうしよう。いつもの頼れる兄が、なんだかダメダメな兄に見えてきた。だがここで俺が二人をかばうと、俺にまで火の粉が飛んでくることになる。ここは沈黙を貫くべきだな。
すまねぇ、お兄様たち。力になれなくて、本当にすまねぇ。
悲しみに包まれた昼食はそのまま静かに終わりを告げた。もちろん終わり際に、レナードお兄様が持っていた聖剣エクスカリバーを回収した。レナードお兄様の震える手がとても印象的だった。そこまでか。
午後からは勉強の時間である。ギルド長としての仕事もあるが、まだまだ勉強をしなければならないお年頃なのだ。まあ、歴史や経済の授業以外は必要ないんだけどね。国語や数学は前世の記憶があるおかげで必要ないのだ。もちろん、化学や物理なんかもね。
「ルーファス王子は優秀ですな」
「そんなことはないですよ。先生の教え方が上手なだけです。ところで先生、聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
「もちろんですよ。私が知っていることならなんでもお答えいたしましょう」
授業中に気になっていたことがある。それはもちろん、千二百年頃の話だ。
トラちゃんの中にはそれ以前に使われていた物が入っている。その時代の文明は一体どのくらい発展していたのだろうか。
それ次第では、今の時代に革命を起こすことになりかねない。もし今の時代よりも高度な文明を築いていたなら、そのまま見なかったことにして封印した方がいいだろう。
「千二百年前はどんな時代だったのですか?」
「おや、ルーファス王子も超古代文明に興味がおありでしたか。その時代に憧れる人は実に多いですからね。もちろん私もその一人ですよ。端的に言うと、今よりもはるかに文明が進んでいた時代です。それは現代まで残された記録によって明らかです」
オーマイガッ! 超古代文明という単語が出てきた時点で嫌な予感がしたんだよね。
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