第27話 つまり、兄弟そろって残念ってこと
レイに絵の具を持ってきてもらうと、待ってましたとばかりにベアードが絵の具を使って絵を描き始めた。
分かっていたけど、めっちゃうまいやん。色がついたら、さらにすごいことになったぞ。どうやら鉛筆デッサンだけでは気がすまなかったようである。
「色つきの魔法生物図鑑とかもよさそうだけど、複製するのが大変そうだな。まあ、ベアードに大量に描いてもらえばいいんだけどさ。さてと、みんながライトモスの絵を描いている間に、魔法生物の紹介文を書かないといけないな」
まずは名前と特徴だな。あとは使える能力。他のページを参考にするとしても、能力についてはあまり書かれていないんだよね。爪でひっかくとか、歯でかみつくとかしか書かれていない。
その代わりに、身長がどのくらいとか、手の長さがどのくらいとかがしっかりと書かれている。これはみんなの身体測定が必要なのかもしれないな。
でも待てよ。俺が召喚した魔法生物たちは、たぶん命令すれば大きさを自由に変えることができるんだよね。
「ピーちゃん、ベアードくらいに大きくなって」
『ピーちゃん! ひかえおろう!』
何そのかけ声。まあ、別にいいんだけどさ。文鳥サイズのピーちゃんがズモモモモとクマのサイズになった。これはどう見ても巨大怪鳥だな。こんなのが街中を歩いていたらビビるわ。
「うーん、これは困ったぞ。おチュンも大きくなれる?」
『チュン!』
これまたズモモモモと大きくなったおチュン。すごいな。モフりがいがありそうだ。とりあえずその胸に飛び込んでみた。あったけぇ。だがしかし、これは困ったぞ。
「セルブス、どうしよう。大きさが書けないよ」
「困りましたな。こうなったら、ルーファス王子のお気に入りの大きさで書くことにしましょう」
「分かったよ。そうする。なんといっても、ここでは俺が規則だからね!」
それじゃ、どうしようかな。おチュンはバードンと同じサイズにしよう。かわいい小鳥サイズにして、みんなに召喚してもらうんだ。
ラギオスはやっぱり大きい方がいいよね? そう簡単には呼び出せないと思うけど、もし呼び出すことができたら大変なことになりそうな気がする。
「そういえば、魔法生物図鑑にトラップボックスのページはなかったよね? もしかして、秘密裏に召喚されている魔法生物が結構いたりするのかな」
「その可能性はあるかもしれません。ただ、これまでは一種類を召喚するだけでもかなりの時間がかかっておりましたので、他を試す余裕などなかったと思います」
「なるほどね。ラギオスはどうしようかなー。やっぱり保留にしておくべきかな」
膝の上にいる子犬型のラギオスと目が合った。別に差別するつもりはないんだけど、ヤバイ魔法生物は区別しておいた方がいいような気がする。
なるべく巨大な力を持った魔法生物は呼び出さない方がよさそうだ。召喚スキル持ちがデストロイヤーだとみんなから認識されるのはさすがに困る。
『私のことを書いても構わないと思いますよ? おそらく他の人では私を呼び出すことはできないでしょうからね』
「そうなの?」
『私たちはこの世界へ無理やり呼び出されているわけではないのですよ。しっかりと主を見極めて、この主なら、と思ってこの世界へ降り立っているのです』
「そうだったんだ。それじゃラギオスは、俺が呼んだから来てくれたんだね!」
かわいいやつめ。俺は仕事も忘れてラギオスをなでくり回した。フサフサでサラサラの毛が気持ちいい。そのまま仕事をほっぽり出してラギオス吸いをしていると、再び扉がノックされた。だれだ、俺のモフモフタイムを妨げるやつは。
バルトが確認し、扉から入ってきたのはギリアムお兄様だった。
何その満面の笑み。ギリアムお兄様は国王陛下から命令されて、トラちゃんの中身を調べるためのリストを作成しているはずだよね?
「ル~ファ~ス!」
「ちょ、ギリアムお兄様、やめて!」
ギリアムお兄様が俺とラギオスを抱きしめて、チュッチュしてきた。やめて、本当にやめて。残念なギリアムお兄様になってるから! ほら、ララが若干引き気味になってるじゃないか。
「聞いたよ。ものすごい魔法生物を手に入れたみたいだね。話によると、なんでも古代の遺物がたくさん入っているとか? 気になるよ、とっても気になるよ!」
「ソウデスカ」
どうやら学者魂に火がついたようである。学者って、古代遺跡とか、そこから発掘された出土品とか好きそうだもんね。国王陛下から話を聞いて、自分を抑えきれなくなったのだろう。
大丈夫か、この国の将来。ギリアムお兄様が次期国王になるんだよね? レナードお兄様はムリだよ? そして俺もムリである。オワタ、オワタよボブ。
「国王陛下からは目録を作るようにと頼まれたけど、私が直接、聞いた方が早いよね? ね!」
「ソウデスネ」
アカン。完全に残念なギリアムお兄様になっている。殴ったら正気に戻るかな? でもさすがにそれはまずいだろう。そうなると、お母様を召喚するしかないわけで。
俺はそれとなくバルトに視線を送った。バルトがうなずいた。頼んだぞ、バルト。キミに決めた。
「さっそく中身を調べたいところだけど、その前に、召喚スキルを持っていたご先祖様の話をしよう」
「知っているのですか、ギリアムお兄様!」
「ああ、もちろんだよ。あれは確か、千二百年ほど前の話になるな」
「千二百年!? トラちゃんってそんなに昔から、ずっとあの場所に一人でいたの?」
なんてことだ。そんなに長い時間、一人で過ごしていただなんて。よく精神崩壊を起こさなかったな。俺はそんなトラちゃんを抱きしめた。
『えっと、扉が開かれるまで寝ていたので、そんなに時間が経過していたのかと驚きですね。どうりでお城の様子がガラリと変わっているわけです』
カクッと転びそうになったのをなんとか堪えた。トラちゃんが寂しい思いをしていなかったようなのでヨシ! とりあえず、トラちゃんもなでておこう。ついでに吸っておこう。
む、木の香りがするな。これはこれで癒やされそうだ。
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