第26話 つまり、パンドラの箱ってこと
スウ、ハァと深呼吸した国王陛下が、眉間のシワをほぐしている。どうやら荒ぶる心を静めようと頑張っているみたいである。それもそうか。今一番、身の危険を感じているだろうからね。ラギオスもいつの間にかベアードくらいの大きさになってるしさ。さすがに迫力があるな。
そんな中で、国王陛下が笑顔を作った。あの笑顔は作り笑いだな。俺には分かる、分かるッス。
「ルーファス、先ほどレナードから聞いたのだが、今、レナードが持っている剣を、その箱の中から取り出したそうだな?」
「はい、そうです。こちらはトラップボックスのトラちゃんです。どうやらその昔、私と同じく召喚スキルを持ったご先祖様がいたようなのですよ。トラちゃんはその方が残した魔法生物ですね」
「ルーファスと同じく召喚スキルを持った人物か。後で調べてみるとしよう。それで、他にも似たような武器を持っているのかな?」
国王陛下がさらにほほ笑みを深くした。どうやら聞きたかったことの本命はこちらのようである。そういえば確かにそうだな。あのときは一番いい剣を出してくれと頼んだだけで、他に何がトラちゃんの中に入っているのかまでは詳しく聞いていなかった。
「どうなのでしょうか? トラちゃん、他にもすごい武器が入っていたりするの?」
『すごい武器、とはどのようなものでしょうか?』
まるで首をかしげるかのように箱を傾けたトラちゃん。なんだか人間味があふれていて親近感を覚えるな。そんなトラちゃんの仕草にほっこりしながら、どうやらトラちゃんは中に入っている物の希少性をあまり知らないようだと見当をつけた。
どうしよう。伝説の武器の名前を一つずつ上げてみるか?
「えっと、それじゃ、魔剣デュランダルはある?」
『ありますね』
「聖槍グングニルは?」
『ありますね』
「魔槍ロンギヌスは?」
『ありますね』
「なんでもあるじゃん!」
思わずトラちゃんにツッコミを入れてしまった。ハッとして国王陛下を見ると、見事に頭を抱えていた。どうしてこうなった、と今にも言いたそうである。そしてその隣ではレナードお兄様が目をランランと輝かせて俺の方を見ていた。
懲りてないよね、レナードお兄様? レナードお兄様のおかげで国王陛下が追い詰められているんだけど、そこのところ分かっているのかな? 分かっていないんだろうな。
レナードお兄様は決して脳筋タイプではないけど、剣に関わることになると、途端に残念な感じになるよね。
「ルーファス、トラちゃん殿の中に入っているものの一覧を紙に書き出してもらうことはできるだろうか?」
「えっと、それは……トラちゃん、どのくらいの数の物が入っているの?」
『たくさんです!』
「なるほど。国王陛下、ムリです!」
早々にあきらめた俺はイイ笑顔でそう言った。だって、いくつ入っているのか分からないんだよ? ゴールが分からないマラソンほど過酷なものはないぞ。下手すれば、一ヶ月とかかかるかもしれないんだから。
「どうしてそう簡単にあきらめるんだ。ハァ……それならば、これから調べてほしいものの一覧を書いた目録をギリアムとレナードが作る。それを元に、トラちゃん殿の中に入っているかどうかを調べてくれ。それくらいはできるよな?」
「え、私もですか!?」
「レナード」
「はい。分かりました」
この時点でレナードお兄様の敗北が決まった。剣聖スキルを持っていても、越えられない壁があったようだ。それが国王陛下だ。あ、たぶん、お母様も越えられないと思う。俺も越えられそうな気がしないし。
「分かりました。その条件でなら、お引き受けいたします」
ここは引き受ける一択だな。ここでごねると、国王陛下がお母様を召喚してくるかもしれない。それだけは全力で回避しなければならない。
話は決まった。国王陛下はレナードお兄様を連れて部屋から去っていった。
レナードお兄様はこれから国王陛下から説教されるんだろうな。いや、もうすでにされているのかもしれない。ここからは第二ラウンドというわけだ。頑張れ、レナードお兄様。自業自得だぞ。
「やれやれ、ようやく静かになりそうだね。それじゃ、セルブスとララにはライトモスを召喚できるようになってもらおうかな?」
「ルーファス王子、大変、ありがたいお話なのですが、まずは魔法生物図鑑を完成させたいと思います」
「おっと、そうだったね。んー、セルブスばかりにやらせるのはちょっと心苦しいから、俺も手伝うよ。交代でやろう。だからセルブスも練習して……って、セルブスー!」
あああ、セルブスが天井を見上げて涙を流している。そんなに感動するシーンだった? 俺にはそんな風には思えなかったんだけど。あ、ララがそれにつられて涙ぐんでる。なんだかよく分からないけど、俺ってアイドルみたいな存在になってる?
「ルーファス王子、私は今、猛烈に感動しておりますぞ。どこまでもついて行く所存です」
「私も副ギルド長と同じ気持ちです」
「ああ、うん、ありがとう。二人の気持ちはよく分かったよ。さあ、練習をしよう。ライトモスはスケッチも簡単だから、きっとすぐに使えるようになるよ。どうせだから、絵の具も用意してもらおうかな?」
なんとか二人をなだめて、ライトモスの召喚準備に入ってもらった。ちなみに壁の花になっていたバルトやレイ、そして部屋にいた使用人たちもなぜか涙ぐんでいたことをここに記録しておく。
どうしちゃったのみんな。なんだか不良だった生徒がいいことをしたみたいな雰囲気になってない? 俺、元からいい子だからね?
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