第22話 つまり、隠し扉ってこと

 レナードお兄様を先頭に、通路を進んで行く。ライトモスによって照らされた通路は、レンガのようなものを積み上げられて作られていた。入り口の扉の劣化具合に比べると、こちらは劣化が見られない。


 なんだか不思議な感じだな。壊れないレンガとか、この世界に存在するんだ。試しに触ってみたが、ヒンヤリとした手触り以外には特に得られる情報はなかった。たぶん石だと思う。


「不思議だろう? このレンガは昔からずっとこのままみたいなんだよね」

「昔って、どのくらいですか?」

「聞いた話だと、この城ができる前からみたいだよ」


 ちょっと、一体、なんの上にお城を建てちゃってるの!? レナードお兄様の話が本当なら、ここって古代遺跡かなんかだよね。大丈夫なのかな。そのままズンズンと先に進むと、何やら円形の広場に出た。中央には台座があり、その上には何も置かれていなかった。


 なんだか寂しい光景だな。一体、なんの部屋なのだろうか。そしてどうやら、この円形の広場で行き止まりのようである。隠し部屋でもあるのかな。なんだかそんな気がする。


「レナードお兄様、この部屋は?」

「見ての通り、何もない部屋、と言いたいところだけど、ちょっとした秘密があるんだよ」


 そう言って部屋の中央にある台座へと向かうレナードお兄様。遅れずにその後ろについて行く。もちろんラギオスを抱えたままである。

 レナードお兄様がナイフで自分の指を切り、台座の上に一滴の血をたらした。


「お兄様?」

「大丈夫だよ。俺は回復魔法も使えるからね。ヒール! ほら、この通り」


 先ほどまでの傷口が完全に塞がっていた。いいな、魔法。使えないと分かっていてもやっぱり憧れてしまう。

 そんなことを思っていると、部屋に変化が現れた。部屋の一部にポッカリと入り口が現れたのだ。


「この台座に王族の血をたらすことで現れる特別な扉さ。基本的には王族しか入れないようになっているよ」

「中には何が?」

「フフフ、入って見れば分かるよ」


 ドキドキしならが、レナードお兄様について行く。そこは宝物庫になっていた。壁や棚の上には色んな武器や鎧なんかが置かれており、テーブルや床の上には色とりどりの宝石と、箱に詰まった金貨が置かれていた。すごい、宝物庫は実在したんだ。


「すごいです! こんなところに隠されていたのですね」

「この地下はとても頑丈に作られているみたいなんだよ。だから非常用の蓄えとして使われているんだ」

「このことはみんな知っているんですか?」

「家族はみんな知っていると思うよ。ルーファスも今、知ったからね」


 どうやら俺がスキルを継承するまで黙っていたようである。スキル継承の儀式を行って、初めて一人前だと認められるのだろう。これで俺も正式に王族の仲間入りか。ちょっとプレッシャーだな。


「ラギオス、どうしたの? さっきから同じ場所ばかり見ているけど」


 どうも先ほどからラギオスが壁の方をジッと見つめているんだよね。ラギオスだけじゃない。よく見ると、カイエンもベアードも同じ場所を見ている。

 なんか怖いんですけど。ホラー要素ならやめてよね。


『あの壁の向こうに仲間の気配を感じます』

「仲間の気配? それって、ラギオスたちと同じ魔法生物がいるってこと?」

『おそらくは』

「ん? どうしたんだい、ルーファス?」


 俺たちがザワザワしていることに気がついたのだろう。レナードお兄様がこちらへとやってきた。どうしようかな。今の話、するべきかな? した方がいいんだろうな。きっと俺に何か関係があるはず。


「レナードお兄様、あの壁の向こうにも何かあるのですか?」

「いや、ないと思うよ。この部屋で行き止まりのはずさ」


 そう言って、その壁の方へと向かって行った。勇気があるな、レナードお兄様。俺は怖くて無理だぞ。

 コンコンと壁をたたき、確認するレナードお兄様。確かにその向こうには空間などはなく、詰まっているようだった。


 俺たちも近づいて確認することにした。うん。どこからどう見ても、ただのレンガの壁だな。このレンガのどれか一つをつついたら隠し扉が開かれるとかいう、ベタな展開があったりするのかな?


「ラギオス、何か分かった」

『先ほどよりも気配が強くなりました。この先に何かいますね』

「こわっ! 帰りたい」

『主よ、壁に手を置いてもらえませんか?』

「ヤダよ、怖い……」

「ルーファス、せっかくだからやってみてもらえないか? 俺ではなんの反応もないみたいだからね。きっと、召喚スキルを持った者が触らないとダメなんだよ」


 どうしてそんなにいい顔をしているんですかね、レナードお兄様? 何か起こって怒られるのはレナードお兄様なんですよ?

 だがしかし、ここまで連れてきてもらった手前、断るわけにはいかないだろう。恐る恐るその壁を触った。


 その瞬間、溝に光がユルユルと走り始めた。慌てて壁から手を離したが、光はそのまま走り続けた。そして消えた。なんだ、今のは。見間違いかな?


「壁が動いてるぞ!」

「ひゃあ!」


 思わずレナードお兄様にしがみつく。中身は大人でも、怖いものは怖い。間に挟まれたラギオスが苦しそうにしているが、ちょっと我慢してほしい。

 だって壁が音もなくヌルヌルと動くんだよ? 気持ち悪いよね?


 壁の動きが止まった。そこに現れたのは小さな小部屋だった。そこには見るからに怪しげな宝箱がポツンと一つだけ置いてあった。

 ラギオスたちが感知した魔法生物ってあれだよね? あれってもしかして、トラップボックス? 宝箱にしか見えないな。

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