第21話 つまり、ビビってないってこと
レイと一緒におとなしく召喚ギルドで待っていると、間もなくバルトが戻ってきた。その後ろには、なぜかレナードお兄様の姿もあった。
これはあれだな。許可をもらう代わりに、レナードお兄様も一緒に連れていくようにと国王陛下から言われたようだな。
「聴いたよ、ルーファス。地下室へ行きたいんだって? 怖がりのルーファスにしては珍しいね」
そう言ってクスクス笑うレナードお兄様。
まさか、地下室にお化けがいたりするのかな? そんな話、聴いてないよ。地下室と言えば、秘密の部屋と宝物庫、それから……怪談話だー!
「ルーファス様?」
「いや、えっとぉ……」
「ほら、ルーファス、せっかく国王陛下から許可をもらったのだから、行こう。地下室へ」
レナードお兄様がうれしそうな顔をしている。俺がビビっているのがそんなにうれしいのか。だれにだって苦手なものの一つや二つくらいあるものさ。
どうしよう。お断りするか?
「もしかして、怖くなったから行かないのかい?」
「い、行きますよ! 行くよ、ラギオス、ベアード、カイエン。ピーちゃんとおチュンはララのモデルになってあげていてね」
『ピーちゃん!』
『チュンチューン!』
大丈夫。俺にはお供たちがついているからね。お化けが出ても、必ず守ってくれるはずだ。イヌのようなラギオスにサルのようなベアード。そしてトカゲのようなカイエン。もしかして、カイエンとおチュンを交換した方がバランスがよかった?
レナードお兄様に連れられてお城の中を進んでいく。場所は俺たち王族がプライベートで使っている区画である。この区画に入ることができる貴族はいない。もちろん、一般人もいない。
「レ、レナードお兄様、一体、どこに?」
「この先だよ。ほら、扉が見えてきた」
視線の先にはなんだか古めかしい扉が見えてきた。黒くすすけたその扉は、どうやら金属でできているようだ。
木製の扉が主流の時代に金属の扉は大変、珍しい。まるで何かヤバイ物でも封印しているかのようである。よく見ると、何やら文字のようなものが刻まれているな。大丈夫?
「レナードお兄様?」
「この先が地下室へ続いているんだよ。ここまで来る人はめったにいないからな。長年、城で働いている者でも、知らない人は多いだろう」
マジかよ。それならなんで、だれも来ないはずの扉を兵士が守っているのかな? 絶対にこの先に何かあるよね。封印されし何かがあったりするのかな。思わずギュッとラギオスを抱きしめる。
『主様、何やらこの先から感じるものがあります』
「やめてよね、ラギオス。お化けじゃないよね?」
『違うような気がしますが、ハッキリとは分かりませんね』
「なんだい、ルーファス。まだ扉を開けてもいないのに、もう帰るのかい?」
「ぐぬぬ」
ここで帰ったら、あとで国王陛下に笑われる。知っているんだぞ。レナードお兄様が国王陛下の間者であることは。それならやるしかねぇ。ラギオスを抱きしめ、カイエンは肩に。ベアードは俺の後ろを守るんだ。
いや、ディフェンスに定評がありそうなベアードは前の方がいいのか?
「それじゃ行くよ。扉を開けてもらえるかな? 許可は国王陛下からもらっている」
そう言って、扉を見張っている兵士にレナードお兄様が一枚の紙を見せた。それを見た兵士は敬礼してから扉を開けてくれた。半分くらい。
どうして全開にしないんだ。怖いんですけど。
「あの、レナードお兄様、この先には何があるのですか?」
「行けば分かるよ」
フフフと笑うレナードお兄様。ケチ! 心の準備くらいさせてもらってもいいじゃない。
先頭を行くレナードお兄様が使ったライトの魔法が、扉の向こうへ続いている真っ黒な通路を照らした。当然のことながら、通路に明かりはない。ところどころに燭台らしきものがあるので、明かりをともすことはできるみたいだ。
足下が暗くてとても不安だ。俺もレナードお兄様のように、ライトの魔法が使えたらよかったのに。
そうだ、ライトの魔法の代わりになる魔法生物を呼び出せばいいんだ! ナイスアイデア。
「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、ライトモス!」
俺の手のひらの上に光るマリモが出現した。色は緑だが、放つ光は無色透明である。ライトモスは俺の思惑通りに周囲を明るく照らしてくれた。これなら怖くないぞ。
突如後方が明るくなり、驚いて振り返ったレナードお兄様にドヤ顔をキメた。
「今のが召喚スキルかい? 見たかったなぁ、ルーファスが魔法生物を呼び出す瞬間を」
「そうですか? それならもう一回、やってみせますね」
今度はレナードお兄様の前でライトモスを出現させた。先ほどまで手の上にいたライトモスがフッと消えると、新しいライトモスが現れた。
なるほど、どうやら一人が同じ種類の魔法生物を複数体呼び出すことはできないみたいだな。
それもそうか。俺がラギオスを大量に召喚したら、国一つ滅ぼすことができるかもしれないからね。さすがにそうなると、召喚スキルが危険視されることになるだろう。まあ、消費魔力の都合上、それはムリだろうけどね。あくまでも仮にの話である。もちろん俺はそんなことをするつもりは最初からないけどね。
「すごいね。呼び出した魔法生物はずっと出現したままなのかい?」
「その場に残るように命令しない限りは、寝るときに還ってしまうみたいです。もちろん、命令して還ってもらうこともできますよ」
「なるほど。それは意識を失うと魔法生物は還るってことでいいのかな? フムフム」
どうやらレナードお兄様は敵として召喚スキル持ちが現れたときのことを想定しているようだ。強力な魔法生物が現れても、召喚スキルを持つ人を倒せば対応できる。そう思っているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。