第23話 つまり、みんな友達ってこと

 ポツンとわざとらしく置かれた宝箱。怪しい。いかにも怪しい。ラギオスから言われなくても、あれは何かの罠だと思うのが普通だろう。


「レナードお兄様、あの宝箱、ものすごく怪しいです」

「そうだな。だが、敵意は感じられない」


 どうやらレナードお兄様が持つ剣聖スキルには相手の敵意を察知する能力があるようだ。これはお兄様に殺意を向けない方がいいな。たぶん、筒抜けになってる。

 しかし敵意がないトラップボックスか。それではなんのためにあそこに置かれているのかな?


「お兄様、どうします?」

「そうだな、とりあえず近づいてみよう。ルーファスは離れておくように」

「分かりました」


 ジリジリと怪しげな宝箱に近づくレナードお兄様。俺はラギオスを抱き、ベアードの後ろに隠れた。

 思ったんだけどさ、こんな危険な任務を第二王子がするのはどうかと思うんだけど。もしかすると、それだけすごい力を剣聖スキルが持っているのかもしれない。


 護衛騎士はいつでも攻撃できるようにすでに剣を抜いている。それに対して、レナードお兄様はまだ剣に手さえかけていない。その余裕のある様子に、スキルによる優劣の差を感じずにはいられなかった。


 スキルの使い手次第でいくらでも差が埋められるとはいえ、圧倒的なスキル性能差の前には無力なのかもしれない。

 レナードお兄様が宝箱に迫ったとき、プルプルと宝箱が震え出した。


『ボク、悪いトラップボックスじゃないよ!』

「うお! しゃべるのか、こいつ」


 さすがのレナードお兄様もしゃべる宝箱にはビックリしたようだ。足を止めて、剣の柄に手をかけていた。

 それにしても、悪くないトラップボックスとはこれいかに。冒険者を罠にかけて、悪い笑い方をするのがトラップボックスの流儀なのではなかろうか。それこそがプロフェッショナルのあかし。


「どうやら魔法生物のようですね。図鑑で見たことがありませんから。レナードお兄様はどうですか?」

「俺も見たことはないな」


 困ったように頭をかくレナードお兄様。それに対して、俺はそのトラップボックスにだんだんと興味が湧いてきた。つまり、かつての王族の中に、召喚スキルを持っていた人がいたってこと。


「トラップボックスさん、お話しませんか? お友達をたくさん連れてきたよ」


 ラギオスたちを連れて前に出た。恐る恐るといった様子で、トラップボックスのフタが少しだけ開いた。まっくらで箱の中はよく見えない。でも見られているような気配を感じる。


『ほ、本当だ! こんなにたくさん。もしかして、あなたがボクの新しいマスターですか?』

「マスター? どういうことなの」


 俺と目が合ったレナードお兄様が両手をあげている。お兄様にも分からないみたいだな。これは困った。どうやら直接、本人に聞くしかないようだ。


「トラップボックスさん、もしかして、マスターを探しているのですか?」

『そうです。ボクのマスターになってくれる人を探しています』

「どうしたらキミのマスターになれるのか教えてもらえませんか?」

『ボクに名前をつけることができたら、その人がマスターです』

「なるほど。ラギオス、他人が呼び出した魔法生物を自分のものにすることはできるの?」

『呼び出した人物がこの世界にいない場合であれば可能かもしれません』


 この部屋は長い間、だれも知らなかったみたいだし、おそらくこのトラップボックスを召喚した人物はすでにこの世を去っているのだろう。そうなると、ずっとこの子は一人ぼっちでここにいたことになる。なんだか悲しくなってきた。俺がこの子を救ってあげるんだ。


「よし、それじゃ、俺が名前をつけてあげるよ。そうだな、トラップボックスだから、トラえもん? はちょっとまずそうなので、トラちゃんにしよう。どうかな……って、どうしたの、トラちゃん? めっちゃ光ってるんだけど!」

『マスターの再登録が完了しました。今日からボクはマスターの下僕です』

「下僕……いや、俺は魔法生物を下僕だなんて思ってないよ。呼び出すときはかっこつけて、ラギオスのことをしもべって言っちゃったけど、今はそんなこと思ってないからね~」


 そう言ってラギオスをギュッと抱きしめた。どちらかと言えば、今では俺の方がラギオスのしもべだろう。このモフモフのためなら、俺はなんでもラギオスに貢ぐぞ。


「今はみんな友達だよ。だからトラちゃんも友達だ」

『うん、友達!』


 トラちゃんがカタカタと器用に箱を交互に傾けながら駆け寄ってきた。トラップボックスってそんな走り方をするんだ。フタもパカパカと開け閉めしており、とってもうれしそうである。


 召喚スキルって、無形の魔法生物も呼び出せるんだ。そうなると、石のゴーレムはもちろん、巨大ロボットだって呼び出せちゃうのかもしれない。うは、夢が広がるな。そんな俺たちの様子を、レナードお兄様たちが見守ってくれていた。


「まさか魔法生物を隠すためだけにこの隠し部屋が存在していたとはな。そのトラちゃんに、何か秘密があったりするのかな?」


 レナードお兄様が首をかしげている。確かにそうだな。大事な魔法生物を隠しておいたということも十分に考えられるけど、それにしては厳重だよね? もしかして、トラップボックスの中に、何か入っているのかな。


「ねえ、トラちゃんは何ができるのかな?」

『物をたくさん収納することができます』

「なるほど、マジックボックスの代わりってわけね」

「マジックボックス?」

「あー、こっちの話です。それじゃ、トラちゃんの中には何か物が入っているのかな?」

『たくさん物が入ってます!』


 パカパカと元気よく答えた。んー、なんだか判断に困るような物が入っている可能性があるな。厄介事の香りがプンプンするぞ。でも確かめてみたい気もする。

 レナードお兄様も期待しているのか、その目が怪しく輝いていた。


「レナードお兄様、どうします?」

「そうだな、試しにトラップボックスの中に入っている一番いい剣を出してもらおう」

「分かりました」


 そう言えばレナードお兄様の趣味は剣集めだったな。これでもし、トラちゃんの中から歴史的な価値のある剣が出てきたら、間違いなく大喜びするだろう。


「トラちゃん、一番いい剣を出してもらえないかな?」

『分かりました!』

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