第19話 つまり、恥ずかしいってこと
口笛を吹くクマという衝撃的な光景から目を背けるべくララが描く絵を見ていると、なんだか扉の向こうが騒がしくなってきた。
何かあったのかな? 俺は部屋の中にいるし、今回は廊下で騒いではいないぞ。
そんなことを思っていると、部屋の扉がノックされることもなく開かれた。
こんなことをして許されるのはこの国の国王陛下くらいだろう。つまり、この部屋にお父様が来たというわけだ。扉の方向を見ると、その後ろにはお母様の姿も見える。
はは~ん、なるほどね。予想通り、お母様がこの部屋で見たことを国王陛下に話したようである。そしてそれを聞いた国王陛下が慌ててこの部屋へやって来たというわけだ。そりゃ扉の向こうが騒がしくもなるか。
やっぱりお母様を卒倒させたうえに、テーブルの一部を灰にしたのはまずかったようである。不可抗力であったとしてもだ。どうしよう。めちゃくちゃ怒られるかな?
「ルーファス、話は聞いたぞ。何やらまた新しい魔法生物を呼び出したそうだな。一体、どれだ? ああ、もう、どうしてこんなことになるんだ。召喚スキルがこんなに厄介なスキルだなんて聞いてないぞ」
「……あら? ルーファス、さっきよりも増えてないかしら?」
「あ、気がつかれました? さすがはお母様。よく見ていますね」
「ルーファス」
「はい」
国王陛下ににらまれた。そんな俺をかばうべく、俺のかわいいモフモフたちが、俺と国王陛下との間に割って入ってくれた。大なり小なりあるが、結構、迫力があるな。特にベアード。小さくなるように言っておけばよかったかな。
「おおう、よしよし。私は友好的な話し合いにきただけだからな? だからルーファス、みんなの誤解を解いてくれ。特にその黄色いクマが爪を出し入れしているので、やめさせてくれ」
「分かりました。ベアード、まだダメだよ」
「違う、そうじゃない」
額に手を当てて大きく頭を振った国王陛下を護衛騎士たちがテーブルへと連れていった。もちろん厳重警戒している。そんなことしないのに。もしかして、俺ってあんまり信用されてない?
「ルーファス、なぜテーブルの一部がすすけているのだ?」
「それはサラマンダーのカイエンが火力の目算を謝ったからですよ。国王陛下はトカゲは大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「これがカイエンです」
『お初にお目にかかります。殿』
「あ、ああ、今後ともよろしく頼む」
顔が引きつっている国王陛下。どうやら手乗りトカゲがテーブルを灰にするとは思ってもみなかったようである。
カイエンがラギオスと同じ性質を持っているのなら、おそらく命令すれば大きくなることもできるのだろう。それをやると、お母様とララがひっくり返りそうなのでやらないけど。さすがにお母様のパンチラはまずい。
「ルーファス、こっちのかわいい赤い鳥はどんな魔法生物なのかしら?」
「こちらはファイヤーバードのおチュンです。ララがサラマンダーが苦手みたいだったので、その代わりになる魔法生物を呼び出したのです」
「そうなのね」
そうは言ったものの、その目は最初からこちらを呼び出していればよかったのでは? という目をしていた。いいじゃない。だってサラマンダーはカッコイイカワイイからね。
おチュンはチュンチュンとお母様にあいさつをしていた。
それを見たお母様がおチュンを持って帰りたそうにしてるけど、それ、俺のだからね? 飼うなら鳥かごを用意して、野生の鳥を飼って下さい。
この際、それを提案してみようかな? この世界にペットを飼うという習慣が芽生えるかもしれないぞ。
「えっと、ルーファス、それではこのクマの魔法生物も紹介してくれないか?」
「この子はアートグマのベアードです。魔法生物図鑑を作るのに必要な、魔法生物たちの絵を描いてもらっています。見て下さい、この絵。すごいでしょう?」
そう言ってから、先ほどベアードに描いてもらった絵を国王陛下とお母様に見せた。それを見た二人がうーんとうなっている。
「確かにそっくりだな。だが、別に自分たちで描いてもよかったのではないか?」
「それが、みんな絵心がなくてですね……」
「あら、ルーファスも描いたの? 見せてちょうだい」
う、断りたい。断固として断りたい。でも先ほどお母様を気絶させてしまった手前、非常に断りにくい。
俺は覚悟を決めて、先ほど描いた絵をお母様に手渡した。それを横からのぞき込んだ国王陛下が、必死に笑いをこらえている。笑ってよ、お父様。その方がこちらも笑い話にできるからさ。
「なかなか個性的で素敵な絵じゃない。私はいいと思うけど、魔法生物図鑑に載せるのにはちょっと向かないかもしれないわね」
眉をハの字に曲げ、目を細くしてほほに手を当てるお母様。そのままその紙を専属使用人に手渡した。
その絵、どうするつもりですかお母様! まさか、額縁に入れて部屋に飾ろうだなんて思ってないよね?
だがしかし、今さら取り戻せそうにない。こうしてまた一つ、俺の黒歴史が生まれたのであった。描かなきゃよかったが、後の祭りである。トホホ。
「宮廷画家顔負けの絵を描く魔法生物か。もはやなんでもありだな」
「召喚スキルは想像力次第でどんなことでもできるのですよ。ベアードだって絵を描く以外にも、飛び出す爪で攻撃することができそうですからね」
「だからと言って私で試そうとしないように。ハァ、スキル継承の儀式からたったの二日で、よくこれだけの騒ぎを起こせるな」
「それはもちろん。お父様の子供ですからね」
俺が会心の笑みを浮かべてそう言うと、国王陛下が再び大きなため息をはいた。
ギリアムお兄様とレナードお兄様に聞いても、きっと俺はお父様にそっくりだと言うはずだ。お母様も苦笑いしているし、間違いない。
「そうでした。国王陛下に話しておかなければならないことがあったのでした」
「すごく悪い予感がするのだが、聞こう」
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