第20話 つまり、退屈ってこと
国王陛下を含めたみんなに今朝の夢の話をすると、国王陛下とお母様が両手で頭を抱えた。
まさかお母様まで頭を抱えるとは思わなかった。他のみんなは驚きのあまり止まっているようだった。
言わない方がよかったかな? でも、ラギオスが言ったように、秘密にしておく方がまずいと思うんだよね。
「みな、よく聞くように。今の話はだれにも話すな。いいな?」
お父様の威圧が室内を重苦しく包み込んだ。
結局その日、国王陛下とお母様はそれ以上、何も言わずに戻っていった。だが、翌日には国王陛下も頭の整理ができたのか、”しばらくおとなしくするように、頼む”と俺に頼み込んできた。
どうやら国王陛下のライフポイントがゼロになりかけているようである。
追加でお母様からも同じようなことを言われたので、しばらくはおとなしくしておくことにした。
セルブスがその間に魔法生物図鑑に載せるための文言を考えておいてくれるらしい。それが完成したら、”よしなに”と言って作業を進めさせることにしよう。
丸投げではない。俺は召喚ギルドの副ギルド長、セルブス・ティアンを信じているだけだ。頼んだぞ。
召喚ギルドに到着した俺は、ララのスケッチのために、ピーちゃんとおチュンを呼び出した。
「ララ、調子はどうかな?」
「おかげさまで、バードンとファイヤーバードの特徴がつかめてきたような気がします。少しずつですが、なんだか呼び出せるような気がしてきました」
二羽のスケッチはムダにはなっていないようだな。その後も何度か召喚してみたが、まだまだ想像力が足りていなかったようである。呼び出すまでにはいたらなかった。
もしかして、召喚するのってかなり難易度が高かったりするのかな? 失敗したことがないからよく分からないや。
引き続き、ララには二羽をスケッチしてもらうことにした。スケッチを続けていれば、そのうち召喚できるようになるだろう。
さてそうなると、ララに教えることはなくなるし、かと言ってセルブスの邪魔をするわけにはいかない。暇になってしまったな。
「うーん、どうしよう。国王陛下からはおとなしくしておくように言われているしなぁ」
天気もいいし、みんなでお昼寝でもするか? それはそれでいいかもしれないな。ラギオスのモフモフは最高だし、カイエンのスベスベ感もいい。ベアードのフワフワな感じもいいな。
ああ、みんなの手触りを想像していたら、ヒツジを召喚したくなってきたな。モコモコのヒツジとか、よくない?
「ルーファス様、さすがにこの時間から寝るのはまずいのではないでしょうか?」
ソファーでみんなと寝転んでいると、バルトが遠慮勝ちにそう言った。バルトとレイは俺の護衛役と共に、監視役と教育役も兼ねているんだよね。それもあって、俺がソファーで昼寝するのを止めたかったようである。でもなー。
「バルト、城の中を探検するのはどうかな?」
「やめた方がよろしいかと思います。また問題になるかと……」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ。ほら、ラギオスたちに城の中を案内してあげてもいいじゃない」
それを聞いたラギオスが尻尾を振ってこちらを見ている。うれしそうだな。これはぜひともやらねばなるまい。
カイエンとベアードも期待に満ちた目をこちらへ向けている。
「申し訳ありませんが、ラギオス様たちを連れて歩くと目立ちすぎます。王城には多くの貴族たちが訪れておりますからね。貴族に目を向けられると大変です」
「それなら、普通の人が入れない区画ならどう? 地下室とかさ」
「地下室ですか? そのようなところに行ってもつまらないと思いますが……」
「ダメならここでお昼寝する」
俺のお昼寝宣言にバルトが考え始めた。今までその存在は知っていたけど、一度も行ったことがなかったんだよね、地下室。
レナードお兄様の話では、この城の地下室は相当古いということだった。城ができる前からあったんじゃないかとも言っていたな。
悩むバルト。もう一押しかな? 国王陛下はおとなしくしておくように言っていたけど、部屋から出るなとは言われてないからね。実際に、召喚ギルドへ行くことも禁止されていなかったからね。
「レナードお兄様も昔、お城の地下を探検したことがあるみたいなんだよね。そのときに何か問題があったって話は聞いていないよね?」
そう言うと、バルトとレイが顔を見合わせた。二人ともまだ若いから、レナードお兄様が地下探検をした当時はまだこの城で働いていなかったかもしれない。
だが、俺の護衛騎士になっているからには、立ち入り禁止区画についてはしっかりと教えられているはずである。そして二人の反応を見るに、立ち入り禁止区画にはなっていないのだろう。
一体、地下には何があるのだろうか。結局、レナードお兄様は何があるのか教えてくれなかったんだよね。ニヤニヤしてたけどさ。
いつか地下室に行ってみろ。そこにすべてを置いてきたということなのだろう。なんだかワクワクしてきたぞ。
「分かりました。ですがその前に、地下室へ行く許可を国王陛下にいただいて参ります」
「バルト、真面目すぎ」
ネットリとした目でバルトを見たが、どうやら効果はなかったようである。レイにこの場を任せると、足早に部屋から出ていった。
もしかすると、俺の知らないところでお父様からきつく言われているのかもしれないな。二人には申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。
「レイ、もしかして、俺が原因で国王陛下に怒られた?」
「いえ、そのようなことはありませんが、ルーファス様が何かいつもとは違う行動を起こそうとしているときは報告するようにときつく言われました」
「なんかごめん」
「ルーファス様が謝ることなど何もありません。ルーファス様のご意向を最大限かなえるのが、我々の仕事ですから」
忠義に厚いレイは雲一つない青空のような澄んだ目で俺を見つめながらそう言った。
うーん、レイ目線ではそういう解釈になるのか。さすがは俺の信者だ。バルトは俺が思っている以上に苦労しているのかもしれないな。今度、胃薬をプレゼントしておこう。
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