第18話 つまり、キミに決めたってこと

 せっかくなので、ピーちゃんとおチュンにポーズをとってもらい、ララのスケッチに貢献してもらった。


 どれどれ……? ララ、絵が下手! これは時間がかかりそうだぞ。前途多難だが、いつかきっと召喚できるようになる。俺はそう信じているよ。

 俺が温かい目でララを見守っていると、セルブスがララの絵を見て眉をハの字に曲げていた。


「セルブス、どうかした?」

「いえ、その、ルーファス王子が立て続けに新しい魔法生物を生み出したので、その登録をせねばならないと思案していたところです」

「なるほど、確かにそうだね。俺たちだけじゃなくて、後世にも伝えていく必要があるからね。どうすればいいの?」

「説明文章と……魔法生物の絵が必要になりますね」

「あー」


 そういえば魔法生物の本にはかなり詳細な絵が描かれていたな。まるで写真かのような精密さだった。あれ、だれが描いたのかな? ララじゃないのは間違いないだろうけどさ。


 そして歯切れの悪い答えから、セルブスも絵には自信がないようだ。

 奇遇だな、セルブス。俺も絵には自信がないんだ。困ったな、どうしよう。バルトとレイが描けたりしないかな?


「バルト、レイ、念のため聞くけど、絵が得意だったりしないよね?」

「えっと、さすがにそれは……」

「描けません」


 申し訳なさそうに頭をかくバルトに対し、レイはキッパリと宣言した。曇りなき目をしている。レイの絵心もララと同じように絶望的なのかもしれないな。どうしたものか。

 まずは最初からダメだとは考えないで、俺も絵を描いてみるべきだろう。


 ララの横に座って、俺もピーちゃんとおチュンの絵を描いてみた。どんな絵を描いているのか気になるのか、ラギオスとカイエンが俺の手元をのぞいている。これならラギオスを描いてもよかったかな? もしうまく描ければ、そのまま挿絵として使えたかもしれない。


『これは……!』

『若様、これはひどい!』

「ちょっとカイエン! そこまで言う?」


 二人の反応が気になったのか、バルトとレイ、セルブス、ララが俺の手元をのぞいてきた。

 笑いたいなら笑うといいさ。みんな肩がプルプルと震えているぞ。


「ルーファス王子、宮廷画家にお頼みするのがよろしいかと思います」

「そうかもしれない。でも、なんか悔しい。負けたような気がする。そうだ! 召喚した魔法生物に描かせればいいんだよ。何にしようかな?」


 ピカソは人間だから召喚するのはまずい。それなら青いクマの姿をした筋肉モリモリの先生なら……やっぱ無理だよね。でもなぁ。クマかぁ。クマ。よし。キミに決めた!


「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、アートグマ!」

『ベアー! ベアッ』

「ぬおぉ!?」

「キャー!」


 突如現れた黄色いクマに、セルブスが後ろへ飛びのき、ララがイスごと倒れた。どうやらララは転び慣れたようで、頭を打つようなことはなかった。もちろんすぐに助け起こした。

 ごめんね、ララ。驚かせるつもりはなかったんだよ。


「これは……クマですな?」

「うん。クマだね。お絵かき専用のクマだよ」

『ベア、ベアベア』

「うーん、どうやら”ベア”としか話せないみたいだな。謎だ。名前はそうだな、盾役として定評がありそうなベアードにしよう。俺をしっかり守ってね」

『ベアッ!』


 まずはベアードの触り心地の確認だな。大きさは動物園にいるクマと同じくらいである。違いはやはり色。黄色い色をしているので、どこかファンシーな雰囲気を醸し出している。

 これなら怖くないと思うんだけど。


 まずはおなか周りの毛を確認する。ラギオスとは違い、短い毛並みではあるが、ほどよい弾力があって気持ちがいい。ベアードの上で寝たら、とっても気持ちよさそうだな。

 どうやら全身の毛が短めのようである。お風呂に入れてもすぐに乾きそうだな。


「みんなも触ってみる? とっても気持ちいいよ」

「そ、それでは触らせていただきます」

「私も触らせてもらいます。あっ、これは……」


 おなか周りの毛を気持ちよさそうになでている二人。そういえば二人にはラギオスを触らせていなかったな。ついでなので、ラギオスも触ってもらう。

 恐る恐るではあったが、ラギオスの毛並みを確認するその顔は、どこかヘブン状態に見えた。恐るべし、ラギオスの毛並み。


 新入りのベアードに、ラギオス、ピーちゃん、カイエン、おチュンを紹介する。モフモフや、スベスベが集まって、今この空間は最高の空間になっている。

 召喚スキル最高。ありがとう、創造神様。俺は今、モフモフハーレムを満喫してます。


「ベアード、さっそくだけど、キミの力を見せてもらえないかな?」

『ベアッ!』


 ベアードはそう言うと、自分の胸をドンとたたいた。まかせんしゃい! ということなのだろう。頼もしいぞ、ベアード。


「それじゃ、まずはラギオスの絵を描いてもらえないかな」

「ベア」


 紙と鉛筆をベアードに渡すと、サラサラとラギオスをスケッチし始めた。ラギオスはツンとすましたようなポーズをとっている。これなら威厳のある絵が完成しそうだね。できあがりが楽しみだ。

 そんなベアードが描いている絵を見て、セルブスとララが目を輝かせていた。


「これはすごいですね。この絵を見れば、宮廷画家も真っ青になることでしょう」

「すごく上手です。私もベアード先生に習った方がいいのでしょうか?」

「ララ、人には得意、不得意があるからね。ララは絵の上手、下手は気にせずに、しっかりとピーちゃんとおチュンを観察すればいいんだよ。絵を描くのは、想像力を高めるための儀式の一つだと思ってほしい」

「分かりました」


 ちょっと安心したような表情になったララ。ララはそのまま素直に大きくなってほしい。

 俺の励ましを受けて、二羽のスケッチを再開したララ。そうそう、その調子。これならそう時間をかけずに、二羽を召喚することができるようになるだろう。


『ベア』

「もう完成したの? どれどれ……って、うまっ! そっくりだよ、ベアード。これはすごい」


 他のみんなにも見せてあげると、満場一致でこれはすごいという意見だった。これなら魔法生物の絵をベアードに任せることができるぞ。さすがは俺が召喚した魔法生物。その性能は折り紙付きだな。


 ラギオスを描き終わったベアードに次はカイエンの絵をお願いする。ベアードもお絵かきをするのが好きなのか、口笛を吹きながらカイエンの肖像画を描いている。口笛!?

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