第17話 つまり、ハズレスキルだったってこと

「お母様、どうやらカイエンという名前をつけたことで、魔法生物の格のようなものが上昇したみたいです。それで、力の制御を誤ったようです」

「格が上がる……そんなことがあるの?」

「召喚スキルはまだまだ未知な部分が多いのですからね。これから少しずつ解明されていくことになると思いますが、どうやらそのようです」


 ひとまず納得してくれたようである。お母様からそそがれる目力が弱まった。ホッ。

 だが、このままでは終われないぞ。俺はもう一度、容器と紙を用意してもらった。

 先ほどの失敗があったのでもう大丈夫なはず。今度こそ頼むぞ、カイエン。


「それでは改めて。カイエン、ちゃんと手加減してよね」

『お任せあれ!』


 フッっと今度は小さな火種が飛び、紙だけをキレイに燃やした。

 なかなかやるじゃない。というか、最初からこれをやってほしかった。そうすれば、お母様からにらまれることはなかったのに。


「よくやったぞ、カイエン。どうですか、お母様? これなら私でも火種の魔法を使えることになりますよね」

「ええ、そうね。火種どころか、もっと危険な魔法も使えるようになっているみたいですけどね」


 笑顔のお母様。お分かりいただけたようである。

 今度から命令するときは、言葉を慎重に選ばなくてはいけないな。何をどうしたいのか、しっかりと伝えないと。

 以心伝心なんてものはなかった。言葉にしなければ、いつだって大事なことは伝わらない。


 そこからの時間は、召喚スキルの練習の時間になった。俺が元気になったことを確認したお母様は、”やりすぎないように”と俺に釘を刺してから足早にこの部屋を去っていった。


 これはあれだな、これから国王陛下へ告げ口に行くつもりだな。カイエンは汚名返上したことだし、許されたと思ったのだが、そんなことはなかったようである。

 夕食のときに怒られるかな? それとも、血相を変えた国王陛下がこの部屋にやって来ることになる? どちらにしても、一言、言われることにはなりそうだ。


 まあ、ちょうどいいか。国王陛下に話しておきたいことがあったからね。それはもちろん、創造神からのご神託の件である。


「ララの名において命じます。顕現せよ、バードン! ……んー、ダメですね。何がダメなのでしょうか」


 またしてもバードンの召喚に失敗したララ。ガックリと肩を落としている。おそらくバードンのイメージ力が足りないのだと思う。そこでララには一つの課題を与えることにした。


「バルト、紙と鉛筆を持ってきて。ララにはこれからピーちゃんのスケッチをしてもらう。ピーちゃんを見なくても描けるようになってもらうからね」

「わ、分かりました」


 すぐにバルトが紙と鉛筆を持ってくれた。ピーちゃんは俺が指示するまでもなく、ララの目の前でポーズを取っている。

 別にどんなポーズでも構わないんだけど、サイドチェストはやめてほしい。まずは普通の羽を閉じたポーズでいいんじゃないかな?


 そんなピーちゃんの姿を真剣な表情でスケッチするララ。サイドチェストのポーズを描いてしているのでとても複雑な気分になるけど、どちらも真面目にやっているみたいなのでヨシ。


 それじゃ、そんな頑張るララのために、火種として使える魔法生物をサラマンダー以外にも呼び出しておこう。


 ピーちゃんの姿を真剣にスケッチしているところを見ると、鳥系なら大丈夫そうだな。それじゃ、鳥系の魔法生物にしよう。念のため、すでに存在していないかを魔法生物図鑑で確認する。


 うん、いない。それどころか、物理攻撃をする魔法生物しか存在していないようだ。

 認めよう。召喚スキルはハズレスキルだった。だが今、その召喚スキルは不死鳥のようによみがえったのだ!

 つまり、さっきまでは死んでたってこと。


「よし、新しい魔法生物は火の鳥にしようかな」

「ルーファス王子?」

「セルブス、ララのためにサラマンダーに代わる魔法生物が必要だと思わないか?」

「いや、それは、その……」


 目をさまよわせるセルブス。そんなことができるのかと不安そうだな。大丈夫、できるんです。そう、創造神から使命を受けた俺ならね!


「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、ファイヤーバード!」

『チュンチューン!』


 うーん、どう見ても羽を赤く染めたスズメだな。大きさもそのまんまスズメサイズだ。これならみんな驚かないだろうし、ララとも仲良くやっていけるはずだ。

 どうかな、と思ってララの方を見ると、口が大きく開きっぱなしになっていた。


 ふむ、サラマンダーのときのように、パンツ丸見えでイスごと後ろに倒れることはなかったみたいだな。まずはつかみはオッケーといったところか。

 だがしかし、ピーちゃんとファイヤーバードはそういうわけにはいかなかったようだ。


『ピーちゃん!』

『チュンチューン!』

「ちょ、二人とも、やめなさーい!」


 激しく戦い始めた二羽を両手で引きはがす。これがウワサに聞く、同族嫌悪か。厄介なことになってしまったな。取りあえずみんなに説明するべく、ファイヤーバードを両手でつかんだ。


「このファイヤーバードはサラマンダーの代わりだよ。ララはサラマンダーが苦手みたいだったからね」


 俺がララに説明している間に、レイが容器に紙を準備してくれていた。グッジョブ、レイ。レイに笑顔を向けると、プイと目を背けた。ツンデレか。

 まあいいや。遠慮なく試させてもらうじゃないか。ファイヤーバードの力をね。


「ファイヤーバード、この紙を燃やすんだ」

『チュン!』


 ボッとファイヤーバードが火種をはいて紙に火をつけた。成功だ。さすが俺。計算通りである。ピーちゃんが嫉妬するのは計算外だったけどね。


 ドヤ顔をしながら二人を見ると、パチパチパチと拍手をしてくれた。ファイヤーバードもドヤ顔でピーちゃんを見ていた。

 こら、ピーちゃんをあおるんじゃない。ぐぬぬみたいな表情にピーちゃんがなっているじゃないか。ピーちゃんも、そんなに簡単にあおられるんじゃない。


「さて、それじゃ名前はどうしようかな? スズメ、スズメ……おチュンだな」

『チュン!』


 どうやらおチュンは”チュン”としか話すことができないみたいだ。性能の違いなのかな? 詳しくはよく分からない。これからの召喚スキルの研究に期待だな。

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