第16話 つまり、お母様は怖いってこと
念のため、カイエンのことを説明し、トカゲ型のサラマンダーという種類であることを話す。そしてカイエンには火を扱う力があることを告げた。
「なるほど。そのカイエンちゃんの力を火種として利用するということなのね。よく考えたわね、ルーファス。それならもしかして、どんな魔法でも使えるようになれるのかしら?」
「その可能性はあると思います。もちろん、その魔法に対応した魔法生物を呼び出せるかどうかで変わってくるとは思いますが」
「すごいわ! 召喚スキルってすごいスキルだったのね。いいえ、召喚スキルもすごいけど、ルーファスはもっとすごいわ!」
「グェ」
感極まったお母様が俺を思いっきり抱きしめた。そしてスッポリとお母様の胸の谷間に収まる俺。俺は抵抗する暇もなく、カエルが潰れたような声を出すことしかできなかった。
まずい……く、苦しい……死ぬ……。
『主!』
『ピーちゃん!』
そのとき、頼れる相棒のラギオスとピーちゃんが俺とお母様との間に割って入ってくれた。ハッと我に返ったお母様が俺を胸の谷間から解放してくれた。危なかった。危うく三途の川を渡るところだった。川の向こうで手招きする、前世の両親の姿が見えたぞ。
俺がもう少し大人だったらしっかり堪能したのだが、まだ子供であるがゆえに、俺のケルベロスはチワワのままだった。
心配そうな表情をしている二人をなでてあげる。カイエンは俺の命令を守って、テーブルの上で待機しているようだ。
だが、今にもこちらへ飛びかかりそうな姿勢で、テーブルから身を乗り出している。
本当は二人と一緒に俺のところへ来たかったんだね。よく我慢したよ、カイエン。あとでなでてあげないといけないな。
「コホン。ルーファス、さっきの子を連れてきてちょうだい。もう大丈夫だから」
「分かりました」
今にもテーブルから落ちそうになっていたカイエンを手に乗せて、お母様のところへと連れて行く。今度は驚かせないように、両手でカイエンを包み、見えないようにしている。
「お母様、こちらがカイエンです」
『先ほどは驚かせてしまって申し訳ありませぬ、母君どの。かくなる上は、切腹して……』
「そんなことしなくていいからね!」
「ああ、ええと、カイエンちゃん、顔を見せてもらえるかしら?」
俺の手のすきまから恐る恐るカイエンが顔をのぞかせた。切腹って……武士かよ!
しばらく見つめ合うお母様とカイエン。
どうなるんだ? やっぱり切腹を申しつけちゃったりするのか?
「あら、よく見るとかわいい顔をしているわね。今までこんなにじっくりと見たことがないから、恐ろしい生き物だと思い込んでしまっていたわ」
セーフ! どうやらカイエンを介錯せずにすみそうだ。危なかった。この調子でララもカイエンに慣れてくれればいいんだけど、難しいかな?
お母様とカイエンが見つめ合ったところで、その力を見せてあげることにした。カイエンが無事に火種としての役割を果たしてくれれば、お母様の心配も吹き飛ぶことだろう。
そうなれば、お母様や、この場にいる使用人、護衛騎士たちにも召喚スキルと魔法生物たちのすごさと、素晴らしさと、有用性と、美しさと、かわいさを知ってもらえたはずだ。
そして召喚スキルが優れたスキルであるとみんなから認知されるようになれば、知名度アップにつながるはずである。ウホ、いい展開!
「お母様、こちらへどうぞ。これからカイエンの素晴らしい力をお見せしますよ」
「分かったわ。見せてもらおうかしら。その、カイエンちゃんの素晴らしい力とやらを」
お母様を連れてテーブルへと向かう。そこにはすでに、先ほどの容器の中に紙が用意されていた。バルトが笑顔を浮かべ、レイがツンとしているところを見ると、どうやらレイが準備してくれたようである。
レイはツンデレなので、ツンとした顔をしているときは、間違いなく彼が動いたときである。
そんなレイの表情を確認しながら、しっかりとその動きをねぎらっておく。これはレイとの信頼関係の構築に欠かせない儀式なのだ。ちょっと面倒くさい?
「さすがはレイだね。おかげでお母様を待たせなくてすんだよ」
「レイ、いつもルーファスがお世話になっているわね」
「もったいないお言葉です」
レイが深々と頭を下げた。ちょっとその肩が震えている。もしかして泣いているのか、レイ? 感極まりすぎ!
だがしかし、レイがツンデレであることを知っているお母様は笑顔を崩すことはなかった。さすがである。
「それでは今から、この容器の上に置いてある紙に火をつけます。カイエン、さっきと同じように火をつけてもらえないかな?」
『御意に!』
ゴワッ! と勢いよくカイエンが火を噴くと、あら不思議。容器とテーブルの一部が灰になってしまったぞ。
やったねカイエン! 炎の威力が上がったぞ! って、ナンデ!?
「ルーファス?」
「いや、ちょっと待って下さいお母様。違うんですこれは。カイエンサン!?」
『申し訳ありませぬ。どうやら名前をいただいてから、身分が上がったようでして……』
「身分が上がる!?」
『はい。足軽から侍大将へ昇格したようでして……』
「それ、本当?」
サッと目をそらすカイエン。どうやらウソのようである。だが、カイエンなりに俺の窮地を救おうとしているのだろう。俺の知らないところで格のようなものが上がっていることにすれば、俺が原因ではなくなるのだから。
乗るしかねぇ。この波に乗るしかねぇ。なぜなら先ほどから目を細くしてこちらを見つめるお母様が怖いから。おしっこちびりそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。