第15話 つまり、俺の魔法生物はみんなかわいいってこと
名前をつけてあげただけでグッと距離が近づいたような気がする。これこそペットを飼ったときの醍醐味だよね。名前を考えるのは大変だけど、それにあまりあるほどの充足感を得ることができるのだ。セルブスとララも名前をつけてあげればいいのに。
「最初は何にからにしようかな? そうだな、まずは一度、ララにバードンを召喚してもらおう」
テーブルの上で鼻と鼻をこすりつけ合っているラギオスとカイエンをグヘヘと見守ったのちに、ララの顔を見てそう言った。一瞬、動きを止めたララだったが、すぐにいい返事が聞こえてきた。俺の顔、そんなにヤバかった?
「はい。よろしくお願いします!」
そんなことを思っていると、部屋の扉がノックされた。だれだろう? 召喚ギルドに用がある人なんて、そんなにはいないと思うんだけど。
セルブスとララと三人で顔を見合わせていると、こちらの返事を待たずに扉が開かれた。
こんなことが許されるのは王族のみ。お兄様たちが俺の様子を見にきたのかな? もう、過保護なんだから。
ちょっとほほ笑ましく思いながら振り向くと、そこにいたのはお母様だった。
セルブスとララがメデューサににらまれて石になったかのようにカチンコチンと固まった。ちなみにお母様はメデューサでもなんでもない。もしそんなことを言おうものならぶっ飛ばされることだろう。おおこわや。
「ごきげんよう、お母様。何かご用でしょうか?」
「ルーファスが元気そうで何よりだわ。ほら、今朝のことがあったでしょう? だから、あなたが落ち込んでいるのではないかと思って、心配になって様子を見にきたのよ」
「心配をおかけして申し訳ありません。ですが、今はすべてが解決しましたよ!」
俺の勢いに、お母様が半歩後ろに下がった。どうやらちょっとがっつき過ぎたようである。鎮めなきゃ。大きく深呼吸をしてから笑顔を作った。
しかしお母様は”訳が分からないよ”といった顔をしている。それもそうか。ついさっき編み出した方法だからね。
俺はその必殺の方法をお母様に報告しようと、机の上にいたカイエンを手の上に載せた。
「お母様、これが火種の魔法の代わりになる、サラマンダーのカイエンです。かわいいでしょ?」
「サラマンダー? ヒ……トカゲ!」
「お母様!」
白目になったお母様が後ろに倒れた。それをすかさず、お母様専属の使用人たちが両側から支える。ナイスチームワーク。まるで最初からお母様が倒れることを予見していたかのようである。さすがやでぇ。だてにつき合いが長くないな。
さてどうしたものか。これまでのお母様の傾向からすると、数分もすれば目を覚ますことだろう。どのみちお母様には謝らないといけないことにはなるし、今回はお母様の部屋まで連れて行かずに、この部屋のソファーに寝かせてもらうことにしよう。
「お母様をソファーに寝かせてくれないかな? すぐに目を覚ますと思うからさ。念のため、何か毛布を持ってきてよ」
「承知いたしました」
使用人たちは静かにお母様をソファーに横たえると部屋を出て行った。お母様の近くにはもちろん護衛騎士がついている。だが、さすがの護衛騎士も、俺がお母様に何かしでかすとは思っていなかったようだ。今も困惑した表情で俺のことを監視している。
護衛騎士たちに目をつけられちゃったかな? しょうがないね。お母様にハ虫類を見せてはいけない。いい勉強になったと思うことにしておこう。
「カイエンはお母様の視界に入れない方がいいみたいだね。せっかくお母様に紹介してあげようと思ったのに」
「だれにでも苦手なものの一つや二つ、あるものですよ。そうだ、ちょうどよい機会です。ルーファス王子に、”召喚した魔法生物を還す方法”をお教えしましょう。本来なら、昨日、教える予定だったのですけどね」
「そういえばまだ教わっていなかったね」
セルブスが笑顔を硬くしている。最初に教えるべきことを俺に教えられなくて、申し訳なく思っているようだ。そんなこと気にしなくていいのに。昨日は俺もみんなも、慌ただしいことになってしまったからね。うっかり忘れていてもしょうがないと思う。
「呼び出した魔法生物は、元の自分の魔力として取り戻すことができるのです。もちろん、すべてではありませんけどね」
おお、それはすごいな。てっきり消費した魔力は自然回復でしか回復しないと思っていた。おそらくは召喚スキル持ちだけの特徴なんじゃないかな。放った火魔法を吸収して魔力を回復した、なんて話は聞いたことがないからね。俺が知らないだけかもしれないけど。
「どうやってやるの?」
「それではお見せしましょう。セルブス・ティアンの名において命じます。顕現せよ、マーモット」
セルブスの足下に、昨日見たマーモットが出現した。主の命令待ちなのか、微動だにしない。
思ったんだけど、俺が魔法生物を召喚したときと、なんだか魔法生物の雰囲気が違うよね? 意志がないというかなんというか。
「ルーファス王子、還すときはこのように命令するのです。戻れ、マーモット」
マーモットが小さな光の粒になった。そしてそれはセルブスの体に触れると消えていった。あんな感じで吸収するのか。なるほど、大体分かった。
「よし、それじゃ俺も試してみよう。カイエン」
手のひらの上にいるカイエンと目があった。うるうるした瞳でこちらを見ている。まるで”もう戻しちゃうの”とでも言っているかのようである。
こんな顔をしている、俺のかわいい魔法生物を戻すことができるだろうか。いやできない。
俺が困っていると、どうやらお母様が目を覚ましたようである。ソファー付近が騒がしくなった。とりあえず、またお母様を驚かせないように、カイエンをテーブルの上に置いた。
「カイエンはここで待っててね。お母様、大丈夫ですか? 申し訳ありません。新しく呼び出した魔法生物がかわいすぎて、我を失っていました」
「ルーファス、それってさっきの子のことよね? いいのよ、気にしないでちょうだい。いきなりでちょっと驚いただけだから。いいこと? 今度からは事前にどんな魔法生物なのかを私に教えてから、見せてちょうだい」
「分かりました」
さすがはお母様。理解力があって優しい。そして包容力も大きいのだ。ついでに胸も大きいぞ。
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