第14話 つまり、どんな魔法も使えるってこと

「それではさっそくやってみるとしよう。まずは火種の魔法の代わりになる魔法生物を呼び出そう。ぐふふ、何にしようかな? 火と言えば、やっぱりあれだよね」

「あの、ルーファス王子を疑うようではありませんが、大丈夫なのですか?」

「大丈夫だ、問題ない。俺、失敗しませんから」


 セルブスとララの顔が引きつっている。だが俺の頼もしき相棒であるラギオスとピーちゃんは両手をたたいて喜んでいる。俺のことを疑っていないその目。これは期待を裏切れないぞ。

 ちなみにラギオスに頼めば、火くらい簡単につけてくれるだろう。だがそれはそれ、これはこれである。俺は新しい魔法生物を呼び出したいのだ。


「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、サラマンダー!」

『若様、お呼びですかな?』

「うひゃあ!」


 テーブルの上に現れたサラマンダーの姿に驚いて、ララがイスごと後ろに転げた。ララのパンツ見えとるがな。

 頭、打たなかったかな? 慌ててララに駆け寄る。どうやら頭は打っていないようである。だがしかし、かなり動揺しているようだ。やっぱりハ虫類は生理的にダメだった? こんなにかわいいのに。


「ごめんね、ララ。脅かしちゃって。サラマンダーもごめんね。驚いたでしょう?」

『そのようなことはありませぬ。慣れておりますからな。それよりも、それがしを呼んでいただき、ありがとうございまする』


 そう言うと、サラマンダーが深々と頭を下げた。なんだろう、なんで武士なの?

 テーブルの上でキュルンとした瞳でこちらを見つめるサラマンダー。ハ虫類が苦手な人もいるとは思うけど、俺は結構、いや、かなりかわいいと思うんだよね。


 両手に乗るほどのその体をそっと手ですくい上げる。ウホ、滑らかな肌触り。どうやら体を覆っている赤色の鱗がこのスベスベ感を出しているようである。


「あの、ギルド長、熱くないのですか?」


 俺の手の中に収まっているサラマンダーをチラチラと見ながらララが尋ねてきた。やっぱり苦手みたいだな。これだと、ララがサラマンダーを召喚するのは無理そうだぞ。別の魔法生物を考えないと。


「それが全然熱くないんだよね。この額にあるのはたぶん炎だよね?」


 サラマンダーの額のところで燃えている小さな炎を触ってみるが、まったく温度を感じなかった。強いて言うなら、ぬくい感じかな。どうなってるの? もしかして、ハリボテ?


『若様、熱くなくて当然ですぞ。何せ、攻撃状態ではありませんからな』

「なるほど。攻撃する、しないを選択できるのか。そういえばそうだよね。動物だって、いつも爪を出しているわけじゃないし」


 俺はそう納得したのだが、どうやら他の人たちはそうは思わなかったようである。その場にいた俺以外の全員が腕を組んで首を傾けていた。

 魔法生物は未知な部分の方が多い。みんなが納得するまでにはかなりの時間がかかりそうである。


「無事に召喚できたし、見せてもらおうか、サラマンダーの性能とやらを」

『お任せあれ!』


 ずいぶんと自信があるようである。これは期待できそうだぞ。俺はバルトに頼んで、燃やしても大丈夫な物を持ってきてもらった。

 バルトが持ってきたのは紙と金属製のタライだった。確かにこれなら大丈夫だろう。


「サラマンダー、この容器の中に入れてある紙に火をつけてもらえないかな?」

『御意に』


 サラマンダーが口から火種を吐き出すと、いともたやすく紙が燃えた。

 成功だ。間接的ではあるが、俺も火種を作り出す魔法が使えるようになったと言えるだろう。

 その様子を見て、セルブスとララが目を輝かせながら驚いていた。

 召喚スキルの新時代、始まったな。召喚師王に俺はなる!


「計算通り。これで召喚スキル持ちは想像力次第で色んな魔法が使えることを証明することができたぞ」

「ルーファス王子、お見事です。まさか召喚スキルにこのような可能性が秘められていたとは。このセルブス、ルーファス王子に感服するしかありません」

「わ、私も副ギルド長と同じ気持ちです」


 サッと俺の前にセルブスとララが並ぶと、片膝をついて頭を下げながらそう言った。どうやら心から感激しているようである。


 なんとなくその気持ちは分かるような気がする。これまでは召喚できる魔法生物の種類も少ないし、おそらく命令できる指示にも限界があったのだろう。かみつけ、とか、つつけ、ひっかけ、くらいしかなかったのかもしれない。


 そこへ俺が登場したことで、まるで自らが魔法を使うかのように火種をつけることができるようになった。そのことで召喚スキルに無限の可能性を感じ始めたのだろう。

 ションボリスキルからドヤ顔スキルへと早変わりだ。


「二人とも顔を上げてよ。二人にはこれから俺と一緒に、召喚スキルの有用性を多くの人たちに伝える役目を担ってもらわないといけないんだからさ」

「もちろんですとも。どこまでもお供いたしましょう」

「が、頑張ります!」


 よしよし、いい感じにまとまったぞ。これで召喚ギルド内の結束も固くなったはずだ。

 ここからだ。ここから俺の召喚スキルでモフモフハーレム無双が始まるのだ!


「それじゃ、ララはまずバードンを呼び出すところから練習を始めようか」


 その間に別の火種用魔法生物を呼び出しておかないといけないな。そうでなければララが火種の魔法を使うことができない。

 そんなことを考えていると、先ほどから静かにしていたラギオスとピーちゃんが、新しい仲間を気にし始めた。


「ラギオス、ピーちゃん、カイエンと仲良くするんだよ」

『カイエン? まさか、それがしの名前ですか!』

「そうだよ。気に入らなかった?」

『いえ、そのようなことはありませぬ。よきお名前をありがとうございまする』


 今にも涙を流しそうな勢いのカイエン。どうやらこの名前を気に入ってくれたようである。カッコイイ名前だもんね。

 新しくサラマンダーのカイエンが仲間に加わったぞ。テッテレー!

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