第8話 つまり、国王陛下が再び頭を抱えたってこと
執務室内にいた護衛騎士たちに導かれて、部屋の中央にある革張りのソファーへ座る。強い光沢のある、こげ茶色をした高そうなソファーである。ラギオスが爪でひっかくことがないように気をつけないとね。
ラギオスを抱きかかえ、膝の上に載せる。左肩にはピーちゃんを搭載し、こちらは万全の体勢である。
俺の目の前のソファーに座った国王陛下は、まだ目の前の現実を受け入れられないのか、俺とラギオスを交互に見ていた。
「ルーファス、一体何があったのだ?」
「国王陛下、こちらが私が先ほど召喚スキルを使って召喚した、レッドアイズ・ホワイトフェザードラゴンのラギオスです。そして肩に止まっているのが、同じく私が召喚したバードンのピーちゃんです。呼び出したときのラギオスが大きすぎて召喚ギルドの部屋を壊しそうになったので、今は小さくなってもらっています。ラギオス、ピーちゃん、国王陛下にご挨拶して」
『お初にお目にかかります。我が主のお父上殿。主の守護者、ラギオスです。以後、お見知りおき下さい。主に害をなすようでしたら容赦しませんからね?』
『ピーちゃん! 俺、参上!』
「情報量が多い!」
お父様が再び頭を抱えた。どうやら混乱の極みにあるようだ。もう、しょうがないな。お父様が落ち着くまで、使用人が出してくれたお茶を飲むことにしよう。
そうして待っていると、お父様がゆっくりと頭を上げた。
「ルーファス、順を追って説明してくれないか? それから、ラギオス殿に、私に敵意がないことをしっかりと伝えてくれ」
「分かりました。ラギオス、俺が命令するまでお父様を攻撃しちゃダメだからね?」
「違う、そうじゃない」
また頭を抱えたお父様に、召喚ギルドであったことを事細かに話した。ここでお父様との関係がこじれるのは嫌だからね。この世界での成人である十五歳になるまでは、俺はお父様の保護下にあるのだから。
「なるほど、よく分かった。セルブスを副ギルド長に任命する可能性については考慮していた。だが、まさか初めて召喚スキルを使っただけでこんなことになるとは思わなかったぞ」
「セルブスの教え方がよかったからですよ」
笑顔でそう言った俺をお父様が白い目で見てる。あの目は知っているぞ。人を信じていない目だ。さすがは国王陛下。人を見極める目だけは確かなようである。
だがしかし、それを否定する証拠がないのも確かなので、これ以上は何も言うことはできないだろう。
「一体どんな風に教わればそうなるのだ」
「心の中に思い浮かべる姿が大事だと教わったので、その通りにしただけですよ」
「それでドラゴンを呼び出したと言うのか?」
「そうです。ちょっと調子に乗ったところは否定しませんけど」
「ちょっと?」
ジロリとお父様がこちらへにらみを利かせてきた。そして俺の代わりににらみ返したラギオスを見て、お父様が視線をそらせた。完全勝利。うわ、ラギオス強い。
お父様が大きなため息をついた。
「召喚してしまったものはしょうがない。それについてはあとでちゃんと報告書をまとめるように。召喚スキルについての貴重な情報であることは確かだからな」
「分かりました。近々、報告書をまとめて提出します」
俺ではなくてセルブスが、だけどね。だがここでそんなことを言うつもりはまったくない。またお父様からにらまれるだけだろう。
その後はいくつかの確認事項を話し合い、無事に無罪放免となった。もちろんラギオスとピーちゃんを飼う許可はもらっている。
これでモフモフを飼うという夢がかなったぞ。この世界にペットを飼う習慣がないことを知ったときには膝から崩れ落ちたけど、別の方法でなら飼うことができる。そう、召喚スキルならね!
「ラギオスとピーちゃんに俺の部屋を案内しないといけないな。でも、ここからちょっと遠いんだよね。そうだ! ラギオスに乗って移動すればいいんだ。ラギオス、もうちょっと大きくなってよ」
『えっと、こんなものでしょうか?』
そう言ってラギオスがズモモモモと二回りほど大きくなった。すごい! これなら金太郎みたいにラギオスの背中に乗ることができるぞ。
よっこいしょとラギオスの背中に乗ると、手元の高級ダウンのような毛をつかんだ。ハッキリ言って、至高だな。抱きついて体を固定するのもいいかもしれない。
「それじゃ、出発進行! まずはまっすぐに走ってよ」
『飛ぶのはダメなのですか?』
「飛んだらみんなが驚くかもしれないからね。廊下を走ることにしよう」
いや、待てよ。廊下を走るのもまずいか? そう思っていたところでラギオスがグンと加速して走り出した。ちょ、速い! 毛をつかむ手が思わず強くなる。このスピードはまずい。だれかにぶつかったりしたら大変だ。
「ラ、ラギオス、ストップ、止まってラギオス!」
俺の指示を受けて急制動するラギオス。前に飛び出しそうになった体を、ラギオスの首にしがみつくことでなんとか回避する。
危なかった。モフモフがなければ即死だった。今度から止まってもらうときには、ゆっくりと止まるように指示を出そう。
ラギオスは俺が思っているよりも、融通が利かない性格なのかもしれないな。
ホッとしたのもつかの間、俺たちが廊下を走ったことで、周囲がちょっとした騒ぎになっていた。これはまずい。この失態がお母様に知られたら大変なことになるぞ。お母様はマナー違反に特に厳しいからね。どうか見つかりませんように。
だがしかし、俺の願いは神様には届かなかったようである。
「ルーファス、これは一体なんの騒ぎかしら?」
「ヒッ、お母様!」
「なんですかその反応は。オーガを見るような目で私を見るのはやめなさい」
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