第7話 つまり、国王陛下が頭を抱えたってこと
俺の目の前には今、子犬サイズのモフモフがいる。これだけの逸材が目の前にいるというのに、モフモフらずにいられようか。いや、いられない。
そんなわけで、俺は子犬サイズになったラギオスを抱きかかえた。
「フォォォオ……!」
んんー、素晴らしい! なんという素晴らしい抱き心地と手触りなんだ。見た目からフワフワしているのは分かっていたが、実際に触ってみると、俺が想像していた以上のフワフワのモフモフ具合だった。柔らかい。高級羽毛布団をはるかに超えている。
毛並みに指を通すと、スルリとなんの引っかかりもなく通っていく。絹よりも滑らかな触り心地である。これはすごい。もう何度でも触っていられる。
俺は本能に逆らうことができず、ラギオスをほっぺたでスリスリした。
しゅごいぃぃぃいー!
「あの、ルーファス王子?」
セルブスの声で我に返った。どうやら別世界へと旅立って行ってしまっていたようだ。そして困惑したセルブスの声からして、相当ヤバイ顔をしていたのだろう。鎮めなきゃ。
「あ、えっと、ララ、お茶を入れてもらえるかな?」
「はい。直ちに準備いたします!」
みんなを落ち着かせるために、一度、テーブル席へと戻った。俺の膝の上にはラギオスが、肩にはピーちゃんがいる。どうやらバードンはピーちゃんとして登録されてしまったようである。実害はないのでまあ問題はないだろう。
「は~、お茶がおいしい。あり……ララはお茶を入れるのが上手だね」
「ありがとうございます。いつも入れておりますので」
はにかむララたん。その姿はとっても可憐でかわいらしいが、年齢が気になるところである。
そんなララたんを観察していると、お茶で喉を潤していたセルブスがティーカップをテーブルの上に置いた。
「ルーファス王子、これは大変なことになりましたぞ」
「そ、そうだね。頑張ってね、セルブス?」
俺の言葉に、鬼を見るような目でこちらを見つめるセルブス。
頑張れセルブス。お前が召喚ギルドでナンバーワンだ。……ダメ?
「やっぱり俺が報告しないとダメかな?」
「……さすがにダメだと思います。ルーファス王子はギルド長であられますし、実際に召喚を成功させたのもまた、ルーファス王子なのですから」
「それじゃ、セルブスとララも成功させれば三人で報告に行けるね!」
あ、ララがフリーズした。これはダメだな。魔法生物の召喚を成功させるのには詳細なイメージも必要だが、俺は”絶対に召喚する”という強い意志も必要だと思う。
そうなると、すでに心がポッキリと折れているララが召喚を成功させるのは無理だろう。
セルブスはまだマシな顔をしているので可能性はあると思うのだが……。
結果、無理だった。正確に言うと、”今日は無理だった”と言った方が正しいだろう。これから練習を続けて自信をつければ、いずれできるようになる可能性は十分にあると思う。
「まずはしゃべるマーモットを呼び出すところからだね」
「それが可能だとはとても思えませんが、実際にしゃべる魔法生物をルーファス王子が呼び出しておりますからね。きっと呼び出すことができるのでしょう」
なんとか自らを納得させようと、そう自分に言い聞かせているセルブス。ちなみにララはまだフリーズしたままである。そんなに国王陛下と会話するのが嫌なのか。嫌われちゃったな、お父様。
「ルーファス王子はマーモットを召喚しないのですか?」
「今日はもうやめておこうかな? もうツーアウトだからね」
「ツーアウト?」
「いや、こっちの話だよ」
ここでしゃべるマーモットまで召喚したら、スリーアウトになってしまうことだろう。
それでもまだ一回の裏が終わっただけなので許されるとは思うが、保険をかけておきたいところである。
お茶を飲み終えた俺は、バルトとレイに促されて父である国王陛下へ報告に行くことになった。別に今日行く必要ないよね? と散々粘ったのだが、”問題を起こしたときはすぐに報告するべきです”と言われて見逃してもらえなかった。
どうやらバルトとレイも、俺がやらかしたという意見で一致しているようである。奇遇だな。俺もだよ。
トホホのホ。なんでこうなるの。俺は召喚スキルの可能性を試しただけなのに。
『そのようなお顔をされなくても大丈夫です。我が主はこのラギオスが絶対に守ります。出会い頭に炎のブレスでいいですよね?』
「やめてよね。ラギオスは俺が命令するまで待機」
どうやら俺の頼もしき相棒は過激派のようである。早いところステイを教え込んだ方がよさそうだな。ピーちゃんは……なんかくちばしを素早く出す練習をしているな。これ、出会い頭につつくやつだ!
「ピーちゃんも俺が命令するまで待機ね」
『ピーちゃん……』
どうしてそんなにガッカリした顔をするんだ。そしてどうして俺が召喚した魔法生物たちは過激派なんだ。
そうこうしているうちに、国王陛下の執務室の前までやってきた。道中、色んな人から二度見、三度見された。これじゃラギオスを子犬に偽装するのは無理そうだな。金色に輝く二本の巻角がついているから、最初から無理だったのかもしれないけど。
「国王陛下、ルーファスです。緊急事態が発生したので報告にきました!」
数秒後、執務室の扉が国王陛下の護衛騎士によって開かれた。ギョッと目を見開く護衛騎士。そんな護衛騎士に笑顔を向けて、執務室の中へと入る。そして国王陛下と目があった。
その目は素早く俺とラギオスの間を三往復した。
「どうしてこんなことになってしまったんだ」
国王陛下が頭を抱えた。お父様、戦わなくちゃ、現実と!
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