第6話 つまり、調子に乗りすぎたってこと

 さてどうしたものか。俺が召喚したバードンがしゃべってしまった。そしてセルブスとララの反応を見る限り、どうやら魔法生物がしゃべるのはアウツだったようである。

 魔法生物がしゃべったのはアウト。でもまだ、ワンナウトだ。


「バードン、これからよろしくね!」

『ピーちゃん、ピーちゃん!』


 あくまでも自分はピーちゃんだと主張するバードン。どうやら俺の妄想が色濃く反映されてしまったようである。どうしてこうなった。

 ……もしかして、強いイメージがあればこの本に描いてある魔法生物以外のものでも呼び出すことができるのかな?


 思い立ったが吉日ならば、それ以外は凶日。どこかの食いしん坊ヒーローがそう言っていた。まことに同感である。

 思いついたときに一歩を踏み出さなければ、いつまでたっても前に進むことはできない。

 やり始めるのに都合のよい日など、一生、向こうからやって来ることなどないのだ。


 それに、お父様から召喚スキルの謎を解明するようにとの使命を俺は受けている。つまり、何をやらかしても”国王陛下から使命を受けたので”ですませることができるのだ。

 これは素晴らしい。まさかここまで計算して、お父様が俺を召喚ギルド長に任命してくれていたとは。


 ありがたや、ありがたや。それではさっそく、その使命を果たそうではないか。

 今回の議題は、”イメージすればどんなものでも魔法生物として生み出すことができるのか”である。


 これができれば、召喚スキル持ちはやりたい放題だ! ハズレスキルから、一気に神スキルへとワープ進化することができるぞ。

 俺はやるぞ。召喚スキル、ひいては召喚ギルドの未来のために!


「あの、ルーファス王子?」

「セルブスとララに面白い物を見せてあげよう」

「はい?」

「えっと、それは?」


 困惑する二人に笑顔を向ける。一度、やってみたかったんだよね、これ。中二病と言われようが、男女問わず、みんな一度は言ってみたいセリフのはずである。

 もちろん俺も例外ではない。俺だって叫んでみたい。たとえ失敗したとしても。七歳児の今なら許される。やるなら今しかねぇ。


 そこにモフモフを召喚できる可能性がある限り、俺はあきらめることはできないだろう。

 できるできる絶対できる気持ちの問題だって。もっと強くイメージしろ。為せば成る。ルーファス・エラドリアは男の子!


「いでよ、我がしもべ。レッドアイズ・ホワイトフェザードラゴン!」


 俺の体からまばゆい光が放たれた。うお、まぶし、とか言っている場合ではない。まるでこの部屋に太陽が出現したかのようである。


『ピーちゃん!』

「ルーファス様!」


 うわ、一気に力が抜けて足にきた。ごっそりと魔力を持っていかれたようである。さすがは我がしもべ。強い。どうやら調子に乗りすぎてしまったようである。てへ。失敗、失敗。


 先ほどまで壁に飾られている花のようになっていたバルトとレイが慌てて俺のところに駆けつけてきた。このまぶしさの中で俺のところまで来ることができるとは。二人の空間認識能力、マジパネェな。


「あ、あああ……」

「な……ああ……」


 セルブスとララがうめき声をあげる目の前で、俺の体から放たれた光が部屋の中央で徐々に形になっていく。

 だがしかし、部屋が狭すぎたようである。光が収まりきらず、なんだかギュウギュウといった感じに詰まっている。密です!


 そうこうしているうちに、部屋一杯に詰まったホワイトフェザードラゴンが現れた。目の色はもちろん赤。俺のイメージ通りである。フワフワのモフモフであるところまで。

 唯一、誤算だったのが、大きすぎたことである。これじゃ部屋で飼えないね。なんとかしなきゃ。


『あの、狭いんで壁をぶち抜いてもいいですかね?』

「ダメ、絶対! そんなことしたら、俺のお小遣いがなくなっちゃう!」

「ルーファス様、そのようなことを言っている場合ではありませんよ。どうするおつもりですか!」

「落ち着けバルト。俺にいい考えがある」


 みんなの注目が俺に集まった。突然現れた巨大な白い竜にララは涙目である。なんだろう、俺がララに悪いことをしているような気分になってしまう。そんなことないよね?

 いや、それよりも。


「ねえ、もっと小さくなれない?」

『人、それを丸投げという』


 にべもなくレッドアイズ・ホワイトフェザードラゴンがそう言った。そんなこと言わずに、なんとかなりませんかね? 俺はお願いするようにジッと見つめた。

 大きなため息をつくレッドアイズ・ホワイトフェザードラゴン。どうやら、いたいけな七歳児のお願い光線に折れたようである。


『それでは私に名前をつけて下さい。それで私は主専用のレッドアイズ・ホワイトフェザードラゴンになることができます。そうなれば、主の命令で自由に大きさを変えることができるようになるでしょう。たぶん』

「そこはたぶんなんだ」

『はい。やったことありませんので、たぶんです』


 つまりそれはレッドアイズ・ホワイトフェザードラゴンを俺がペットとして飼うということになるよね? やってやるぜ! というか、ぜひやらせて下さい!


「それじゃ、キミの名前は今日からラギオスだ。どうかな? かっこいい名前だと思うんだけど?」

『大変、よいお名前だと思います。今日から私はラギオスと名乗ります。それでは我が主よ、ご命令下さい』

「ラギオス、小さくなって。ピーちゃんくらいのサイズに」

『ピーちゃん!』


 おおお! ラギオスがどんどん小さくなっていく。成功だ、成功したぞ! これで部屋の壁をぶち壊す必要がなくなったぞ。そんなことをする勇気もパワーもなかったけどね。

 だがしかし、小さくなるのには限界があったようである。子犬くらいのサイズになったところで止まってしまった。


『どうやらここが限界のようです。主のご命令をかなえることができませんでした。消えよう』

「うわー! 待った、待った! 子犬サイズで十分だから。というか、むしろ子犬サイズの方がいいから!」


 妙なことを言い始めたラギオスを全力で止める。どうやら俺のしもべは忠義に厚すぎるようである。

 ……毎回、こんなことになるのなら、下手に命令することができないな。こんな素晴らしいモフモフを手放すだなんて、とんでもない!

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