第9話 つまり、お母様に目をつけられたってこと
王城の廊下を爆走していたら、今一番会いたくなかった人ナンバーワンのお母様にエンカウントしてしまった。
どうする? 今すぐにでも逃げ出したいところだけど、大魔王からは逃げられなさそうだぞ。
「ルーファス?」
「お、お母様、なんでもありませんよ。ハハハ……」
「ウソおっしゃい。なんでもないのなら、こんな騒ぎにはなりません。……ところで、あなたは一体何に乗っているのかしら?」
お母様は今さらながら俺がまたがっている生き物に気がついたようである。どうやらこの場に来たのも、ただ単に騒ぎを鎮圧しに来ただけのようだった。運が悪いな、俺。タイミングさえずれていればお母様と会わなくてすんだのに。
「えっと、これはレッドアイズ・ホワイトフェザードラゴンの……」
「ド、ドラゴン!」
「王妃様!」
左右にいたお母様専属の使用人が後ろへと倒れ込んだお母様を支えた。ナイスキャッチ。
危なかった。もう少しでお母様の頭にたんこぶができるところだった。そうなると間違いなく、俺の頭にもたんこぶができていたことだろう。
お母様は家族の中で一番強い権限を持っているが、中身はごく普通の深窓のお嬢様なのだ。ちょっと刺激的で見慣れない光景を見ると、今回のようにすぐに気を失ってしまうほどの筋金入りである。
これは逃げ出す絶好の機会である。だがそれをやると、あとで三倍になって怒られることになるだろう。ここはおとなしくお母様に怒られるべきだ。俺はそう判断した。
「お母様を早くお部屋に運んであげて。俺も一緒についていくから。ラギオス、お母様が驚かないように、小さくなって」
『かしこまりました』
ラギオスが子犬サイズになった。これなら先ほどまでのクマのような姿ではないので驚かないだろう。ぬいぐるみだと言っても通用するくらいの愛くるしさだからね。
使用人たちと一緒にお母様の寝室へ向かう。こんなことになるのなら、自分の足で歩けばよかった。
ベッドにお母様を寝かせると、その衝撃でお母様が目を覚ました。お母様は倒れるのも早いが、目が覚めるのも早いのだ。倒れてからのリカバリーが早いのは実によいことである。これが一日、意識不明になるとかだったら、今頃お父様に怒られていたはずだ。
「お母様、目が覚めましたか?」
「えっと、ルーファス、ここは……私の部屋よね?」
「そうです。脅かしてしまって申し訳ありません。先ほどのドラゴンは私が召喚スキルで呼び出した魔法生物なのです」
「あれが魔法生物なのね。ウワサには聞いていたけど、初めて見たわ」
納得したのか、ウンウンとうなずいているお母様。現在ラギオスはお母様の視界に入らないように俺の後ろに隠してある。ちゃんと話してから、ラギオスと対面させよう。その方が安全だろう。
「お母様に私が呼び出したラギオスを紹介したいのですが、よろしいですか?」
「ラギオスって、さっきの白いドラゴンのことよね?」
お母様がおびえた様子で部屋の中を素早く見渡している。よっぽど怖かったんだな。大きくなっても、ラギオスのかわいさは変わらないのに。
「今は子犬くらいの大きさになってもらっているので、怖くないと思います」
「魔法生物って小さくなることができるのね。分かったわ。紹介してちょうだい」
ゴクリとつばを飲み込むと、キリッとした目で俺の目をしっかりと見つめた。どうやら覚悟が決まったようである。こんなとき、お母様は決断が早いよね。だからこそ、競争に勝ち抜いて王妃殿下になることができたのだろう。
「この子がラギオスです」
子犬サイズのラギオスを両手で抱えて、驚かせないようにソッとお母様に見せた。お母様の目が見開かれているが、今度は気絶することはなかった。事前に俺が召喚スキルで呼び出したと言っていたからなのだろう。廊下での出会いは運が悪かっただけなのだ。
「これが……ラギオスちゃん。触っても大丈夫かしら?」
「もちろんですよ。ラギオス、お母様を傷つけたらダメだからね」
『かしこまりました。我が主よ』
「まあ! まあまあ! お話しできるのね。とってもお利口さんだわね」
お母様にラギオスを差し出すと、まるで生まれたての赤ちゃんを抱きかかえるかのよういに、天使のようなほほ笑みを浮かべて抱えていた。
なんだかまずい気がしてきたぞ。このまま持ち帰るとかないよね? さすがにそれは無理だからね、お母様。そのモフモフ、俺のだから。
「お母様、実はもう一体、召喚した魔法生物がいるのですよ。ピーちゃん」
『ピーちゃん! 俺、参上!』
ブレないな、ピーちゃんは。むしろ安心する。俺の肩にとまっている文鳥を見て、お母様の口が半開きになっている。普段は扇子で隠れていて、見せない顔である。見てよかったのかな? あとで目潰しされたりしない?
「ルーファス、ピーちゃんも触ってみてもいいかしら?」
「もちろんですよ。ピーちゃん、お母様をつつかないようにね」
『モチのロンじゃよ!』
そう言ってピーちゃんがラギオスの頭の上に乗った。それをお母様がかわいい物をめでるかのようになでている。
うーん、ピーちゃんが一体何を考えているのかサッパリ分からないな。考えても無駄なんだろうけどね。何せ、召喚スキルは分からないことだらけなのだから。
「ルーファス、ラギオスちゃんとピーちゃんちゃんを私に預けてくれないかしら?」
「ダメです。そんなかわいらしく口をとがらせても、ダメなものはダメです。それは私が召喚スキルを使って呼び出した魔法生物ですからね。所有権は私にあります」
何やらブツブツとお母様が言っていたが、どうやらなんとかあきらめてくれたようである。
定期的にモフらせることを条件に、俺たちを解放してくれた。もちろん今回の騒動は不問にしてもらうことができた。やったぜ。
でもこれからは気をつけないといけないな。魔法生物に乗って王城内を移動するのが一つの目標だったけど、何かしらの対策が必要になりそうだ。
ラギオスからの提案があったように空を飛ぶか? 幸い、廊下の天井は高いので、飛んでも問題なさそうな気がする。
それともヤモリのように、壁や天井に張りついて移動するか? ここは考えどころだな。
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