第10話 祐加理の闘い
昼食を食べ終え図書室へ戻ると桐谷先生はすでにいなかった。
しばらくテスト勉強をしていると背後に誰かの気配を感じた。
「なんとなくここにいそうな気がしたよ」
ニコニコと笑いながら彼は私の横にしゃがみこんだ。
「テスト勉強?」
そう聞かれ、私は無言でこくんと頷く。
偉いねと、いつものように彼は私の頭をぽんぽんと撫でる。
「勉強終わったら音楽室においで」
私の耳元でそっと囁くと、静かな足取りで図書室を出て行った。
私は再びノートに目を落としシャーペンを走らせた。
しばらくの間、私は勉強に没頭した。気が付けばグランドに落ちる校舎の影が長くなっている。いつしか図書室には私しか残ってなかった。
私は荷物をまとめ音楽室へと足を向ける。
静まりかえった廊下。人の気配は全くない。
北校舎に誰も来ないような時にしか、あいつは私を呼ばない。
――きっと姉の時もそうだったんだろう。
音楽室が近づいてくると私はスマホのボイスレコーダーをオンにする。そしてそれをそっとカバンに忍ばせた。あいつと会う時はいつもこうしている。でもまだ私が聞きたい言葉は手に入れてない。
静かに扉を開けるといつもの場所にあいつはいた。音楽室の隅っこの机に腰掛け、窓の外を眺めている。
私が来たことに気付くとゆっくりこちらに振り向いて軽く微笑んだ。
体中に寒気が走る。私は立ち止まりカバンを持つ手にぎゅうっと力を込める。
ふーっと静かに息を吐き、軽く俯き目を閉じる。
――
すっと顔をあげ遠くからあいつの目を見る。
いつも通りの笑みを浮かべ私は歩き出した。
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