『R-18』の向こう側

愛須どらい

プロローグ

「パパー?『R-18』って何ー?」


当時のボクは、そのカーテンのように長いのれんに向かって、

父の手を引っ張りながら無邪気むじゃきたずねた。


「『大人だけしか入れません。』

 ってことだよ。

 だから、春人はるとはまだ入れないんだ。」


父は言いながら、

ボクがその長いのれんをくぐらないよう、

グイッとボクの手を引っ張り返した。


「大人だけ?

 じゃあパパは入れるってこと?

 ずるい!」


ボクは地団駄じたんだんだ。


「パパも入らないよ。

 ママや春人がいるから、入らない。

 大丈夫だいじょうぶさ。ハハハ…。」


と父は笑っていた。


商店街にある本屋、『オシリス』の店内だった。




それからほどなくして、父はいなくなった。


ある日、会社へ出かけて、

そのまま帰って来なかったのだ。




「パパどこ行ったの?いつ帰って来る?」


ボクは、何度も母にたずねた。


そのたびに母が、


しょうさんは遠いところへ行ったのよ…。

 春人が良い子にしてたら、

 もしかしたら帰って来るかもしれないわ…。」


と、静かに答えていたのを覚えている。


当時のボクは、

どうして父が帰って来ないのか、

どうしてボクがたずねるたびに母が泣くのか、

分からなかった。




ある日ボクは、


「(もしかしてパパは、

  『R-18』の向こう側に行ったのかも!

  ボクに内緒ないしょで!

  ずるいや!)」


と、小学校の帰りに急に思いつき、

ランドセルを背負ったままでオシリスに向かった。


今にして思えば、本当に純粋じゅんすいだったのだ。




当然だが、

『R-18』の向こう側に父はいなかった。


女性があられもない姿で表紙をかざる本が並んだコーナーから、

店員さんに引きずられるようにして、

ボクは追い出された。




今のボクは、18さい


父のことを母にたずねるのも、

今では逆に、こわくなってしまった。




何気なく入ったこの本屋で、

そんなのれんを見かけ、思い出してしまった。




バサッとのれんをくぐる。




「異世界へようこそ!勇者ショウの息子、ハルトよ!」


王様のような人物が、ボクに向かってさけんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『R-18』の向こう側 愛須どらい @cck230da

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ