3章・六節
いつの間にかOECも合流し、一行はレウラを連れて再び半円型の遺跡へ足を運ぶ。彼女の自己紹介に銭湯だけでなく歴史ある家系の魔導技術も受け継いでいるという話があったため、魔法の鍵がかけられた遺跡の錠を開けられるのではという事になったのだ。
「魔動機類の解錠なら任せるニャ! ミリヤムが開けられなかった扉をアタイが開けて見せるんニャ~」
「…はぁ、全く、そういうところだぞ、友達が少ないの。」
お前に言われたくないニャ!!と痴話げんかに入る二人。ミリヤムの今までにない反応は新鮮だったようで、一行は和やかな雰囲気のまま遺跡へと進んでいった。
遺跡には人の姿も、アンデッドの姿もなく、静寂に包まれていた。意匠を凝らした彫刻扉は相変わらず存在感を放ちながら一行を出迎えていたが、魔法の錠は本当に一瞬で解錠され、力なく開場の音を鳴らす。満足顔で構えるレウラを褒め称えつつ中を確認すると、閉ざされた先に在ったものは、またしても扉であった。
「おい! なんだそれ!! ナメてんのか!!」
苛立ったシャロームが思い切り扉を蹴るも、鈍い音と共に衝撃がそのまま本人に跳ね返ったようで、右足を押さえて悶え苦しんでいる。鋼鉄製の銀の扉は先程とは逆に簡素な造りとなっており、見るからに扉というものであった。よく見ると中央左部分に窪みが出来ている。
「…それ、引き戸ね。見た目的にもこの扉が遺跡本来の扉じゃないかしら。彫刻扉は何か違う意味が…?」
「さ、先に言えよ! チキショウ!」
立ち上がったシャロームが窪みに手を入れ開けようとすると、窪みから電流が流れだし、シャロームの身体を走る。んがっ!!という悲鳴と共に再び丸くなる紫の戦士。
「…何を、やってるんだ。お前それでも
ミリヤムが前に出て罠の解除を行い始める。仕掛自体は単純だったようで、簡単に引き戸を開くことが出来た。OECに爆笑されながら治癒を行ってもらうシャロームは、だが少しだけ笑顔がこぼれていた。
「ふん、冷静じゃねぇか、ミリヤムの野郎。バカな俺とは、やっぱ違うか。」
「カッコつけてるけど、魔動機が分からないだけでしょ。ウケル~」
「うっせぇ! ぃいんだよ、これで! 気ぃ遣ったんだよ俺は!!」
細かいものが苦手な彼にとって、魔動機類は本当に駄目な相手であった。
†
石造りの見た目とは異なり、遺跡内部は壁・床・天井の全てが魔動機に覆われていた。チカチカと光り続ける機器類に囲まれた形で、中心に操作盤が置かれている。1~9までのボタンと、縦横4マスに穴開きで並べられた12の数字が光る板の上に表示されていた。
「うーわーすげぇ! なにこれ!」
「目、目が痛くなりそうですな。某も魔動機は苦手で…少し離れておりまする。」
「…なるほど、『見ればわかる』ってこういう事だったのね。これは確かに、口では伝えづらいわ。」
エンレイは細かく動く魔動機を注視しつつ、外見的特徴を絵にしてまとめていく。シャロームが一人外で監視していたので、ルミナリアは変なボタンを押しそうなOECを引きずって外に出ていった。ミリヤムはレウラと共に操作盤の構造を確認、アメジストは表示されている12の数字と4の空白が気になるようでじっと見つめていた。
「…凄いわね。旧魔動機時代の遺物で間違いなさそう。大破局を絶え切ったのね。」
「今んとこ、居るだけなら危険はなさそうニャ。問題はこの
「確か、ノマリ族は数字を入れるとか言っていたよな。3番目は2だ、とか。」
「あぁ、多分だが法則で考えれば4・2・2・3だろうな。」
「「「えっ」」」
調査していた3人が同時にアメジストの方へ振り向いた。その事に逆に驚いたアメジストは少しびくっとしていたが、あらためて3人に説明する。
「縦列同士に隙間があるし、縦の数字に共通項があるとすれば、左から引算、掛算、素数、累積数だろう? こんな謎かけのような入れ方で良いのかは分からないが…」
見ると確かに、アメジストの言ったように数字が並んでいた。この操作盤は、数字を入力すると何かしらの効果が起動するのかもしれない。いつでも脱出できる体制を整え、ミリヤムが順にボタンを押した。すると魔動機達はそれぞれが細かく振動し始め、
「"承認されました。ゲートの再稼働を開始します。"だ。ゲートというのは…」
「入口の事でしょうね。ノマリの方が言うには、湖へ続く道の。」
「おお! 凄いニャ! 起動したミャ! アメジストさん、凄いニャ!」
「ぃや、まさか子どもの頃やらされた謎解きが役に立つなんて思わなかったよ。」
様子の変化した内部の状況を気にしてルミナリアが覗きに来たが、特に外部にも問題はないとの事。再びゲートを閉じられないよう侵入時にかけられていた罠や鍵を再度かけ直し、一行は閉ざされた坑道があるという山岳地域の中心部へと向かう事にした。
†
パルアケ―トゥルヒダール間の街道から外れ中心部へ進んでいくと、道中の状況は少しずつ変化していった。人の手によって整備された道路が徐々に小さくなっていき、山岳本来の荒々しい土壌が顔を出し始める。すれ違っていた冒険者の姿も見なくなり、探検色が強くなってくる事にレウラは「一人じゃ絶対無理だったよ!ニャ!」と興奮を隠せないでいた。
夜になると魔物の気配も出始めたが、物影で捉えた蛮族をOECが美味しくいただいた程度で強力な魔物の姿は無い。主を討伐した影響で、蛮族達の進軍速度は大きく衰退したようだった。山岳地域が日常を取り戻す日も近いだろう、砦集落での戦いを思い出しながら一行は小洞窟で野営を行った。
夜襲もなく、翌日もまた山岳を進む。正午の日差しが照りついた辺りで、ようやく目的の建物が見えてきた。
「あれが山門…なんというか、あまりにも不自然な色だな。少し不気味だ。」
剥き出しの崖が多い山岳の地に、先の遺跡にあった意匠を凝らした扉と同じ紋章が扉面に彫られた、一面蒼色の山門がそびえ立っている。門の奥は崖となっており、さらに先には以前の集落付近から連なる巨大な河川が勢いよく流れている。山門を開かないと、内部や奥を調査出来そうにない。
様子を伺いながら山門に近づくも、敵や罠の気配はない。門自体は鉄などの金属で造られており、力ずくで開くには骨が要りそうだ。レウラとミリヤムを中心に、一行は周囲の散策に当たる。適当に調査し始めたあたりで、当たりを引いた者がわざとらしく大きな声で叫びだす。
「おお!? これは絶対開閉ボタンだな! 開け~マタ!!」
よりによってOECが見つけてしまった開閉ボタンはなんの躊躇もなく押され、同時に大きな地響きを立てて門が内側に開かれた。幸いにも内部から敵や毒などが発生する事はなかったが、あまりにも迂闊な行動を見た冒険者達は今後OECとシャロームを魔動機に近づけてはいけないと心に誓うのであった。
「遺跡の魔動機を起動した事によって通電したのかしら…この距離を繋げる、何かがある? 地中に線…いえ、衝撃波的なものを空気伝いに…それは無理があるわね…」
「空気だけで電波を伝える魔動機も存在するニャ。間違ってないと思うニャ。」
「ですが、山々が乱立するこのような地域においては厳しいのでは…? 地下水や河川を伝った可能性もありますぞ。エルフ様は水の扱いが素晴らしいですからな、きっとその程度余裕で出来ましょう。」
考察を進めながらも山門の先を確かめる。開かれた道は一切の光が無い暗闇となっており、足を踏み入れなければ確認のしようもない細道であった。
「"ヴェス・ヴァスト・テ・リル。シャイ・テルア―アレステル"…一応、光源は確保したわ。行きましょう。」
「ニャ! アタイもできるニャ! "フラッシュ・ライトォ"!!」
エンレイの使い魔が持つ石片が周囲を照らす灯りとなり、レウラのマギスフィアは前方向に照らす探索誘導灯となる。その後レウラは唐突に雄叫びをあげたかと思うと顔を雪豹に変化させ、リカントの特異能力により暗視を確保した。
先頭にレウラ、次いで暗視持ちスカウトのミリヤム、同じく暗視を持ちリカント語の分かるOEC、光源のエンレイ、魔導士のアメジストとルミナリア、殿をシャロームで隊列を組み、一行は坑道内部へと侵入していくのであった。
†
仰々しい門構えとは裏腹に、坑道内は一面灰色であり、床・壁・天井が硬質の物体で造られた石製様式だった。紋様等もなく直線の道が続き、エンレイがつまらなそうに周囲を見回している。先頭を歩くレウラとミリヤムは暗視を活かして暗闇の先を視認しているが、特段変化もなく同じ道が続いていく。外様から考えるに河川の下を通っていると思われるが、水流の音も一切聞こえない虚しい遺跡であった。
やがて入口の光が見えなくなるほどの距離を進んでいくと、ようやく形状が変わり、広間のような空間が見えてきた。獣変貌を解いたレウラが誘導灯を消し、ミリヤムが先導して広間内を確認すると、左右の壁に大砲のような魔動機が複数台設置されているのが見える。
入れ違いでOECが確認した結果、どうやら侵入者に対し上から砲弾で出迎えてくれる仕組みの魔動機・シールンザーレィのようだ。
「遠距離攻撃で壁面との接着部分を破壊すれば無力化できそうだな。エンレイ、気付かれる前に撃ち抜けるか?」
梟のファミリアは感覚共有により
「…無理ね、二方向に展開されてる。両方を正確に撃ち抜ける魔法はないわ。」
「ちょっとお~、アタイの職業、忘れてニャいかぁ?」
自慢げに銃を担ぎ自己主張をする雪豹のリカント。だがミリヤムは冷めた口調で言葉を返す。
「いや……獣変貌しなければ見えないのに、変貌すると魔導機術使えないだろう。」
「甘い、甘いにゃあミリヤムは。魔導機は万能ニャよ。」
そう言いつつレウラは袋から手探りで道具を取り出した。黄色いレンズが嵌ったゴーグルは彼女が顔に付けると少しだけ光る。すると彼女は見えてないはずのミリヤムの鼻を的確につつき、後退したミリヤムに顔をズイと近づける。
「この"ナイトゴーグル"があれば暗闇もニャんのその。片側の狙撃は任せるニャ。」
「わ、分かったよ。・・・はぁ、調子狂うな。」
鼻歌を歌いながら位置取りを始めるレウラに合わせ、エンレイもマナリングに魔力を込め詠唱の準備を始める。ミリヤムとOECは狙撃後の急襲に備えて狙撃手二人の近くで待機する。魔動機は魔法知覚機能が付与されている事も多いため、光源の必要な3人は少し離れた場所で成り行きを見守っていた。
「おまえホント、可愛いなぁ。」
手持無沙汰のシャロームの見つめる先にはエンレイの使い魔、梟のえんちゃんが床でホウホウと鳴いている。暗視能力を付与したため飛行能力は長時間機能出来ず、いつもはエンレイの肩にずっと留まっていた。ファミリアで形成された遣い魔には意思が無いため正確には梟のような何かなのだが、シャロームは共に蛮族を追い回して以来この遣い魔の事を非常に気に入っていた。
「(…アイツ、分かってるのかしら。)」
梟の眼越しに真正面から可愛いと言われたエンレイは特段気にすることも無く、光の束を形成し始めていた。レウラに合図し、狙撃箇所に移動する。エンレイの詠唱終了と共に、レウラが同時射撃する算段だった。呼吸を整え、魔力を編んで詠唱を開始する。
「いくわよ……"ヴェス・フォルス・ル・バン。シャイ・エルタリア―"な、ちょっと、ややめなさい!! いや!!!」
詠唱中に突如エンレイが取り乱し、光の束があらぬ方向へ吹き飛んでしまう。当然シールンザーレィ達も異変を察知し、こちらに向けて全砲台を構え始めた。咄嗟にエンレイを引っ張ったミリヤムのおかげで知覚はされず砲撃までは行われなかったが、警戒中の魔動機特有の点滅する光は暫く収まりそうにない。
誤発射前、エンレイの不可解な言動をいち早く察知したアメジストが遣い魔の方を見ると、シャロームがふさふさの鳩胸を指で撫でていたところであった。魔動機が襲撃してこない事を確認したのち、アメジストが顔を真っ赤にしながら何も理解していない男に詰め寄る。
「シャローム! おまえ、おまえぇ!! 何してるんだ!! 遣い魔はエンレイと繋がってるんだぞ!! バカ!! 本当にバカ!!」
アメジストはエンレイより取り乱し、涙目でシャロームに叫んでいた。話を聞いてもなおあまり理解していない男は、少し不可解な顔をしながらも全力で叱責されとりあえず謝っている。
「え、あ、悪かったって。なんでだ? なんかしたのか俺。」
「はぁあ~、皆まで言わせるおつもりですか、これだからエロ爺ぃ殿は。」
魔法知識を意図的に教えられずに育ったシャロームは、遣い魔と魔力的に繋がっている事は理解できても、エンレイのリアクションも見えないため感覚全てを相互共有している事を知る由もなかった。人間女子二人に詰められているナイトメアに対し、落ち着いたメリアの女性は冷静に言葉をかける。
「ごめんなさい。私が外してしまったせいで魔動機達が警戒態勢に入ってしまったの。もう一度狙撃するためには、誰かが魔動機の注目を集める必要があるわ。…そう、誰かが、あの広間の奥で注意を引き付けてくれればいいの。どうすれば、いいと思う?」
「いや~、ははは、あの数の砲撃を全部躱すのは流石に無理じゃねぇかな。」
「誰が、どうすれば、いいと思う?」
「…はい……」
笑顔の表情に一切の優しさが無い名案は、全員の賛同を持って受け入れられた。
†
「っはぁ、…はぁ、し、死ぬ、、てか2・3回は死んだ…っはぁ、はぁ、、」
「オレに感謝しろよぉ? 的確に回復してあげたの、凄かっただろ?」
「いや、っホント、胸撃ち抜かれながら、肉体が再生してくのは、貴重な体験だったわ、二度としたくねぇ、はぁ、はぁ、、」
周囲には破壊された魔動機達が転がっている。シールンザーレィ達から放たれるおびただしい数の光条を必死に舞い流した
広間の先に道は続いておらず、行き止まりとなっていた。魔動機達の他に大小様々な大きさの腐敗した木箱や錆びた金属が乱雑に置かれており、数百年間放置されていたと言われても納得は出来る。先に進むための手掛かりを得るため、一行は探索を行っていた。
「~んエルフ~♪ エルフ様の香り~♪ 何となくこの辺からしますぞ~♪」
謎の歌と共に木箱をどかしたルミナリアが、床に小さな取っ手がある事に気付く。
ミリヤムを呼び、罠が無いかを確認する。特に危険はないと判断し、取っ手を少し持ち上げてみると、そのまま床の一部が四角く持ち上がり、外せそうな状態だった。
「…ちょっと待て、ダメだ、一回戻してくれ。ヤなモン見えた。」
全てを開こうとしたところで、シャロームが制止した。曰く、床と蓋の隙間から黒い魔力が漏れ出てきたとの事で、先に魔物か何かがいるだろう、との話だった。
全員が臨戦態勢を整え、敵に備えつつあらためて取っ手を引っ張り上げた。
「……何も出ないな………」
「ぃや、いやいやいや、なんだよ、この形。」
垂直に開かれた蓋の先は隠し通路のように水平に道が続いており、先程と同じような灰色の壁が暗がりから僅かに見えていた。一先ずの戦闘は無いと一息つく一同。一見するとただの暗闇だが、一人だけ全く違うものが見えているようだ。
「おい、これ、、、魔域だぜ。」
シャロームの言葉に全員が驚き、再び緊張感が走る。よく見ると確かに、暗闇の中で渦巻いているような流れを感じなくもない。レウラがフラッシュライトをつけたマギスフィアを放り投げると、光はまるで吸収されるように闇の中に消えていった。
「山岳地域じゃ、魔神は殆ど見られていないと言っていたな。この封じられた場所に魔域があったという事か。」
「…東の湖側に道が開いていたとしても、こちら側に来れなければ、エサが無い場所にわざわざ異界から来ない。それで数も少なかった。」
「つまり、ここを開けたままだと私達が魔神を解放した事になる…のか…?」
アメジストが頭を抱える。もし自分達が失敗してしまったら、確かに開放する事になるだろう。しかしだからと言って、このまま魔域を放置するわけにもいかない。悩む冒険者達の中で、リカントの女性が元気に手を挙げた。
「ワタシが残…アタイが残るニャ! この中じゃアタイが一番戦闘経験ないし、足を引っ張ると思うし! 山門の鍵も閉められるし! それに、皆が無事かどうかもアタイなら分かるしニャ! …そ~れ、"ライフシグナル"!」
レウラがミリヤムに行使した魔法によりマギスフィアの一つが変形する。光る板の上に細かい文字が並びだし、最後に人型の画像が表示された。
「これでミリヤムの居場所も健康状態もバッチリ監視できるニャ! 効果時間は1週間まで延長したし、この"体力ゲージ"が動くのをハラハラドキドキしながら見つめてるニャ! …だから皆、頼んだニャ!」
声を張り上げて元気に振る舞っているが、最後の方で少し震えているのを何人かは見逃さなかった。仕方なし、とため息をつきつつ、美しき女性がリカントの傍に寄る。
「…某も残りましょう。彼女一人をここに残すわけにはいきませぬし、辛い仕事を押し付ける訳にもいきませぬ。"暗き底"がうっかりここから出てきたら速攻でぶん殴れますしな。…皆様、頼みましたぞ。」
2人の言葉に他全員が納得した。話がまとまり、侵入の準備を整える。矢の本数を数え直していたミリヤムに、レウラが静かに近づいていった。他の誰にも聞こえない声で、そっと言葉を呟く。
「……ひとりは、嫌だよ。帰ってきてね。」
「……分かってる。こんなところで、死んでたまるか。」
言い終わるや否や、勢いよく床にある闇の中へ飛び込んでいくミリヤム。それに続いて、残る二人に挨拶を交わしながら、冒険者達は次々と奈落の魔域に吸い込まれていった。
†
全員の侵入を確認した後、取っ手を再度垂直に持ち上げ、蓋をするルミナリア。マギスフィアの周囲以外は暗闇に包まれた広間にて、2人は簡易的な拠点を作成し始める。ライフシグナルを持ちつつ別のマギスフィアに光を付けながら、レウラはルミナリアに感謝を述べた。
「ルミナリアさん、心配していただきありがとうございます。正直、一人は不安でした。何かあったらどうしようかと。」
「やっぱり、普通に話せたのですな…じゃあ私も。気にすることはないですよ。元々私は一人でいる事が多かったですし。一つ、お願いしたい事もありまして。」
「お願い?」
そう言うとルミナリアは袋から複数枚の紙を取り出す。一枚ごとに同じ人の絵が方向違いに描かれており、それらはまるで視界を切り取ったような精巧な描かれ方をしていた。
「これは、ある絵師の方にお願いして作成いただいたものなんです。魔導機術には確か変装魔法があったかと思うのですが、この写真の方々に変装する事は可能ですか。どうしても一度この目で見てみたくて。」
絵を渡されたレウラはその精巧な出来に感動しながら、複数枚に写る精悍な顔つきの人物をじっと見つめる。少しのち、灯り用のマギスフィアを自らの身体に寄せると、自信を持って回答した。
「これなら、お安い御用ですよ。"ディスガイズセット"。ふふ、どうです…か…? ルミナリアさん? あれ?」
変装したレウラを見るルミナリアの表情は先程までの凛々しさが消え恍惚した目に変わっており、口からは少しよだれも垂れそうになっていた。あまりの変わり様にレウラが驚いていると、何か大事なものが切れたかのように、唐突に叫び出すルミナリア。
「うおおおおおおおおおお!!!!! んエルフ!!!! 私の考えた理想像たる完璧で究極なエルフ様が今目の前に!!!!!! が、我慢出来ませんぞ!!!!!! エルフ様あああああ!!!!!!」
「えっちょっ!! え!? えええええええええ!!!」
飛び込んできた変態に一切の抵抗も出来ず、もみくちゃにされるレウラ。「あれ、ここが一番危険だったのでは?」と気付いたのは、魔動機術の効果が切れた一時間後の事であった。
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