要するに、男は単純なんだってことだ
小野上
というわけで、まず一人目いってみよう。金髪ツインテールのアシュリーは、自身たっぷりに口火を切った。
<アシュリー案>
男子があいつを嫌いになるようにすればいいんでしょう?なら、事実をありのまま伝えればいいじゃない。
あいつって生徒会のメンバーを自分好みの男子で揃えているでしょう?そのことを伝えればいいのよ。あいつはお嬢様気質で自分の執事を周りに侍らせている。まずそれだけで感じ悪いでしょ?
陰では椅子みたいに座ったりしてるのよ?ケンジ君が可哀そう......あ、私が付き合ってた人なんだけどね。あんな人を人とも思ってない行いは絶対に皆に晒されて失墜するべきだわ。
しかも身の回りのことをすべてそいつらにさせているのよ?生徒会の活動がどのように成されているのかってのは一般の生徒には分からないから、今こうして見てくれの支持を集めているけれど、この情報を流せば一発で呆れられてイメージガタ落ちだわ!
「駄目だな。」
俺はこの案を一言で投げ捨てた。アシュリーの彼氏が生徒会のメンバーになっていたため、彼からその情報を聞いたことで、そういう考えに行きついたそうなのだが、これでは、駄目なのだ。
アシュリーが眉間に皺を寄せて問い詰める。
「何がダメなの?」
「アシュリーさんが言っているのは、確かに事実だろう。しかし、そのこき使われている生徒会メンバーがそのことに文句を言っていないと、論拠として破綻してしまうんだ」
男子達は彼女の虜になってしまっている。だから彼女の手足になることを惜しまない。となれば、仮にその情報が広まったとしても、生徒会メンバー自らが否定してしまうだろう。
「う、確かに」
アシュリーはがくっと肩を落とした。だがもう一つ理由がある。
「それに、好きな人にこき使われるなんて、男冥利に尽きるだろうからな。むしろより支持が集まることが予想される。もっと椅子になりたい、なんなら自分の舌を是非靴磨きにお使いくださいってな。だから却下だ」
一瞬、生ごみにわいた虫を見る目で見られたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
二人目。立花さんは落ち着いた口調で、聞いている人が分かりやすいように、ゆっくりなペースで話してくれた。
<立花京案>
男子が小野上を嫌な奴だって思えばいいんだよね、なら、いじめの話はどうかな?
あの人、皆の前ではいい人のように振舞っているけれど、影では男子と交流しようとする女子に嫌がらせをしているのよ。
この前笹原さんがサッカー部の山根君に告白したって聞いたんだけど、それから彼女の文房具が泥水で汚されたり、上履きに画鋲を刺したり、お弁当がトイレに捨てられてたりしたの。彼女凄く泣いてた。
しかも笹原さんは一念発起して犯人を探したんだけど、その実行をしていたのは山根君自身だったの。というのも、生徒会長からの支持でそうせざるを得なかったんだって。それを知って笹原さんまたへこんじゃったの。
このエピソードが広まれば、あの女の悪さがより広まると思うんだけど、どうかな?
「うん、悪い感じが出ていていい。だが駄目だ」
「え、何で!?」
結構自信があったようだが、これには穴がある。
「多分みんなそれは承知の上で好きなんだと思うよ」
立花さんは目を見開いて、口を両手で押さえた。そんなのあってはならないという風だ。
「そもそも、実行していたのがそのサッカー部の山根君っていう時点で、既に男子は小野上の命令を受けてしまっている。つまり山根君は小野上がそんな人間であることを知っている。にも関わらず支持は下がらないんだろう?なら、男子は彼女のそんな汚点さえ受容していると思っていい。」
ここまでは一般的な視点。現に新伝もうんうんとうなずいている。だが、男子的な目線でいうと、もう一つある。
「それにあーいう女は、飴と鞭を使い分けるものだ。どんなに酷いことを実行させようとも、女の子からの『よく頑張ったねよしよし~』って頭を撫でてくれれば、男子はどんなこともできるのさ」
立花さんは両手を口から離し、でも表情は驚きしかなかった。口が小さく「キモ」となったような気がしたけれど、きっと「ひも」と言いたかったのだろう。そうに違いない。
最後。金城さんは腕をブンブンと振り回し、発表の途中で殴られるんじゃないかという勢いを載せて語ってくれた。
<金城姫案>
別に事実に基づく必要はねーだろ、あいつは女子から見ればかなりの悪なんだ。ならでっち上げてやればいい。
私が考えたのは、あいつが薬をやっているってことだ。整形とかもいいな。とにかく、あの見てくれが作られたものだってわかれば、男心も揺らぐんじゃねーか?
なんたって偽物なんだからな。実際の顔はもっと不細工で薄汚くて、でもってぶちょって太っているのと良い。とにかくみすぼらしい見た目を作り替えて、今の自分を作ったってエピソードがあれば、評判がた落ちだぜ!
と、金城姫はケバケバしい髪の毛を振り乱し、楽しそうに気崩した制服を揺らしていた。だが、これもまた難しい。
「難しいだろうな、整形とかは特に」
「はぁ?なんでだよ!」
「マイケル・ジャクソン、って知ってるかな?」
その名前を出した時、皆が困惑していた。新伝でさえ、その面々を見て口をつぐんでいる。
「彼は超有名なミュージシャンでな、彼の歌やダンス、特にムーンウォークというダンスは皆がこぞって真似する程人気だった。
そして、彼は薬をやっていたという噂もある。しかも整形をしていた。それでも彼の人気は留まるところを知らないんだ。それほどまでのカリスマ性があったんだよ。多分小野上も同じだ。カリスマ性なのかは分からないけれど、人を心酔させる程の魅力を持つ人間にとって、その程度は汚点にはなり得ないんだ」
人は一度良いと思ってしまうと、汚点よりも良点を見てしまう。第一印象というのは、人間が人間に下す評価においてそれほどまでの意味を見出す。面接でも、会場に入って数秒で結果が決まってしまうという逸話があるくらいだからな。
「それに、かわいければ整形でも許容できるだろ?かわいいキャラクターの二次創作でも俺は受け入れられる。チュイッターでそれを見つけたならば秒で保存してるね。それ用のフォルダには今まで集めた宝物が眠っているのだが、見せられないのが残念だ」
四人とも唖然としていた。やはり男子目線の意見というものは、女子にとっては新発見なことが多分にあるのだろう。ここはフォローを入れておかねば。
「おいおい、別に知らなくても恥じゃないさ。男子って生き物にとっては、それほど女子の魅力は大きいってことだよ。俺なんて、一瞬小野上のパンツを見ただけで意識が飛びそうになったんだからな」
何も言われなかった。ただ、彼女たちの冷たい視線が痛くて、いたたまれないばかりだった。
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