幼馴染みのソラハのことと、元書写師のネテイアさんを訪ねることになるまでのお話
ナゼク先生から元書写師のネテイアさんのことを教えてもらって、私はネテイアさんを訪ねたいと思いました。しかし、ネテイアさんの住まいは、私たちが住む都市リゴンブーフを出て、街道を南にむかって歩いておおよそ丸一日くらいかかる、というような村にあったのです。そんなところまで行くということになると、夜はどこかに泊まる必要があります。当時十四歳の私には、そのような遠出は、とてもかんたんにはゆるしてもらえるものではありませんでした。
母がゆるしてくれないというだけでなく、私もそのような遠出をするのは怖かったのです。一人で行くということは、絶対に考えられませんでした。しかし、どうしてもネテイアさんが持っている本は見てみたいと思っていたので、次のような方法を考えました。
まず、ナゼク先生からネテイアさんに手紙を書いてもらって、夜はネテイアさんの家に泊めてもらえるように頼んでもらいました。いきなり見ず知らずの子供に、家に泊めて欲しいと言われたネテイアさんが、そのときどう思ったのかは分かりませんが、「いつでも泊まってもらって構わない」というような返事をいただきました。そのときにはネテイアさんも、まさかそれから一年の間に、八十日ほども泊まられるようなことになるとは、想像していなかったと思いますが。
そして、村に行くまでの道中の用心棒を、幼馴染みのソラハにたのみました。
ソラハは、私がリゴンブーフに引っ越しをしてきた五歳のときからの幼馴染みで、私の住む家のすぐ近くの鍛冶屋さんの三男坊です。年が同じだということもあってか、知り合ってからこのときまでずっと、近所でいちばんの仲良しでした。
私がリゴンブーフから少し離れた村のネテイアさんのところに行きたがっているのを知ったソラハは、すぐに自分から用心棒を買って出てくれていました。ソラハは十一歳の頃から剣術教室にかよっていて、この頃にはずいぶんたくましくなっていました。ソラハの剣術の腕前はこの頃からすでになかなかのもので、私はソラハが一緒なら、都市をはなれて街道を一日歩くというくらいのことは、きっと大丈夫だろうと思えました。
こういう条件をそろえても、私の母もソラハのお母さんも、私たちがネテイアさんのところまで行くことには反対しました。私は、自分の母の反対であれば、それを押し切ってでもという気持ちがありましたが、ソラハのお母さんに反対されると、とても押し切るというわけにはいきませんでした。
そんな状況の私に助け船を出してくれたのは、ソラハのお父さんでした。
ソラハのお父さんがいうには、鍛冶屋の仕事をしていたって、いつなんどき大けがをするか分からない、それは街道を歩いてなにかよくないことが起こるよりも、もっとありえることだと。鍛冶屋の仕事だってそうした危険と隣り合わせでやっているんだから、昼間に街道を歩くくらいのことをそんなに怖がっていては、どんな仕事もできるようにならないと。だから、私とソラハを行かせてあげたらいいと、ソラハのお母さんを説得してくれたのでした。
そのときはソラハのお父さんも、まさか私たちがそれから一年の間に、二十回ほどもネテイアさんの住む村まで行き来することになるとは、想像していなかったと思いますが。
こうして私とソラハは、それから一年の間に、何度もネテイアさんを訪れることになりました。
そして私は、ネテイアさんのおうちで、私の一生を決めるようなことになる、ある一冊の本に出会うことになるのでした。
駆け出し追返士ファトの冒険 ロッコ @nkymked
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