私ファトが魔法治療士になれるかどうかを賭けて魔法適正試験を受けたことと、思い出の市場の店主さんのお話その一

 教会の学校を出てすぐの頃に、魔法適性試験マギレールを受けることになりました。

 皆さまの時代でもきっと、子供のうちに魔法適性試験を受けただろうと思います。とくに、私のこの読み物を読むくらいに教育のある方であれば、きっとそうだったろうと思います。

 魔法というのは、使えるなら使えるにこしたことはありません。魔法使いの専門家になるかどうかはさておき、どんな仕事をして生きていくときでも、魔法はとても役に立ちます。

 じっさい、私の仕事は追返士リパルサーですが、魔法使いの追返士というのもときどきいます。追返士はたいてい、四、五人のグループで行動しますが、そのうちに一人魔法使いがいると、それだけでもとてもありがたいものなんです。

 暗いところで地下人ダーダと戦わないといけない、というようなとき、魔法使いがいないと、誰か一人がたいまつなんかを持ってその場を照らしていないと、なかなかじょうずに戦えません。ところが、魔法使いがいると、暗いところを太陽の下みたいに明るく照らすことができたりもします。

 それに、地下人はたいてい火に弱いので、魔法使いが火球を飛ばして攻撃するのが、効果てきめんだったりもします。他にはなんといっても、怪我をした人を、一瞬のうちにとはいきませんが、かなりはやく治すことができたりまでします。

 私は魔法適正試験マギレールを受けた十一歳のころには、自分がいつか追返士リパルサーになるというようなことは、まったく考えていませんでした。その頃、追返士というのは、あまり子供たちが憧れるというような仕事ではなかったのです。それから十年くらい経ったいまでも、そのことはまったく変わっていないのですが。

 私は、もしも自分に魔法の才能があったら、修道院に入って、修道院の病院で魔法治癒士ヒーラーをするのもいいかもしれない、というようなことを考えていました。

 しかし、当然といえば当然のことなんですが、私は残念なことに魔法適正試験に合格することはできませんでした。私には、魔法の才能はなかったのです。

 魔法の才能というのは、あるかないかしかなくて、ちょっとだけあるというようなことはないといわれています。才能はないけれど頑張ったので、ほんのちょっとだけど魔法が使えるようになりました、というようなことは、どうもぜったいにないらしいのです。

 とにかく、私には魔法の才能がなかったので、修道院の病院で魔法治療士ヒーラーになるというのは、幻の夢になりました。


 そういうわけで、残念なことに魔法の才能はありませんでしたが、教会の学校で読み書きをみっちり教わったことと、学校を出たあとも手にすることができる読み物を手当たり次第読んでいたことで、私はこの国の大衆語については、ずいぶんじょうずに読んだり書いたりできるようになっていました。

 大衆語を話すみたいに読めるようになったのはいいのですが、そうなると、手にすることができる読めるものはみんな読んでしまって、なんども読んだ読み物しか身近には見つからない、というように、十三歳くらいの頃にはなっていたのでした。

 その頃の私は、何でもいいから読めるものを手にしたいと、いつでも思っていました。

 この国のどこかには、読み物を売っている「本屋」というものがあるらしいのですが、私が住んでいるこの都市リゴンブーフには本屋はありません。当時もなかったし、いまもありません。それに、たとえ本屋があったとしても、たぶん本はとても高価なもので、当時の私が買えただろうとは思えません。まあ、いまの私でも買えないのですが。

 露天の市場でごくたまに、掘り出し物として書物が売られていることがありました。しかし、そういうものはやっぱり例外なく高価なもので、私が買えるようなものではもちろんありませんでした。買えないけれど、どうしても読みたくて、お店の人の目を盗んで何度も読もうとしていました。そのたびにひどく怒られたけれど、幼い私は懲りずに何度も同じことを繰りかえしていました。

 あるとき、やっぱり同じように、お店の人の目を盗んで本を読んでいました。そうすると、お店の人が声をかけてきました。

「もし、お嬢さん」

 私は、見つかってしまったと残念に思い、本を置いて、謝って立ち去ろうとしたのですが……、

「そんなところで立って読んでいても、寒くて頭に入らないでしょう。こちらの焚き火の前で座って読んだらどうですか?」

 と、言ってくれたのです!

 私はその店主さんの顔をまじまじ見入ってしまいました。

 その当時はおじさんと思ったのですが、振り返っていま思い返すと、その店主さんは、けっこう若い店主さんだったような気がします。

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