駆け出し追返士ファトの冒険
ロッコ
序章
私ファトが追返士になる以前のお話
私ことファトは読み書きの神童ではなかったけれど読み物は大好きであることと吟遊詩人が追返士の物語をしていたときの話
私は子供のころから、読み書きということに、母に言わせると「異常な」関心をしめしていたらしいのです。ぜったいに読めるはずがない文字が書かれているものを、一時間でも二時間でも、じっと見ているというようなことが、しょっちゅうあったそうです。
母も兄も読み書きができなかったので、私がおうちで読み書きを学ぶということはなかったのですが、私が五歳の時、どこからか拾ってきた紙に書いてあった文字を指さして、そこに書いてある単語を声に出して読んだんだそうです。もちろん母は文字が読めないので、私が本当にその文字を読んだのかどうか、その時には分からなかったのですが、教会で司祭さんに確認をしたら、私の読み方が間違っていないことが分かって、ずいぶん驚いたそうです。
それで母は、私が神童なのではないかと勘違いをして、私たちは職人の家系なのに、私に読み書きの教育を受けさせたのでした。私は七歳から十歳まで教会の学校に通って、読み書きや宗教のことや歴史のことなどを学びました。
学校に通いはじめたらすぐに、私はまったく神童なんかではなかったことが分かりました。私は、「職人さんのおうちの娘さんにしては、よく文字が分かりますね」という程度でしかなくて、教会の学校では、ありきたりな生徒でしかありませんでした。
でも、得意かどうかと、どのくらい好きかということは、あまり関係がなくて、私はたしかに他の生徒にくらべてよく読み書きができる生徒というわけではなかったのですが、なんであれ書かれているものを読むということについては、誰よりも好きな子供だったように思います。
私はずっと、「自分くらい読み物が好きな人っていないんじゃないかな?」と思っていたんですが、のちに追返士ギルドの事務員のバゼルさんという方を知った時に、「負けた」と思いました。バゼルさんのことは、またのちほど。
教会の学校に通っていた八歳の頃、ちょっと珍しい物語を聞く機会がありました。
とても暑い日だったので、おそらく聖ワブロチカの祝日のときだったのだろうと思います。旅芸人の吟遊詩人がいくつか語ってくれた物語のうちの一つが、子供心にも「珍しい物語だな」と思うようなものだったのです。
吟遊詩人が語ってくれる物語はたいてい、神話だったり、伝説の英雄のお話だったり、歴史的に重大な出来事に関係するお話だったり、有名な騎士の人たちのお話だったりします。
ところが、その時に聞いたお話は、無名の
追返士の仕事というのは、もちろん
吟遊詩人の語る物語の主人公が、そうした追返士だったということに、私はそのとき、ひかえめに言っても「驚いた」のでした。
吟遊詩人の語るときのその口調は、伝説の勇者の物語が語られているときのような口調でした。ところが、語られている物語の内容はというと、どちらかというとあまりしっかりしていない、もっとはっきり言えばかなりどんくさい
そのとき、その物語を聞かされていた人たちがどんな風に思っていたのかはもちろん分かりませんし、そのときにみんなどんな様子だったかも少しも覚えていないのですが、私自身はというと、最初は驚いたんですが、そのあとは、なんかちょっと面白いような気がしていたのでした。
それはたとえると、教会で説教中の司祭様が、説教に力が入りすぎたときにおならが出てしまって、司祭様もみんなもそれに気がついていても、気がついていないふりをしなきゃいけない、みたいな雰囲気のときのなんともいえないおかしい感じみたいな。あまり上手にたとえられなかったですけど、こういうおかしさって何かって、いまならちょっと分かる気がするのです。
八歳の頃には知らなかった言葉ですが、こういうのはつまり「
私はそのときに聞いた
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