第7話本

「ジン…最近スピカにベッタリじゃない?何かあったの?」

フランシスは僕らの近すぎる距離感に目を細めて詮索するような言葉を口にする。

「なにもないよ…」

明らかに動揺した感じで返事をすると傍に居たジャクリーンにも怪しまれる。

「怪しいな。何かを隠してない?」

それに対して首を左右に振って否定するとナターシャが割って入る。

「なにもないって言ってるんだから信じてあげよう…?兄妹で仲が良いだけだよ…」

ナターシャの発言で周りも仕方なく納得してくれると一つ頷く。

「それなら良いけど。程々にね」

フランシスはそれだけ言い残すと自席に向かった。

ジャクリーンも少しだけ疑問に感じているようだったが仕方なさそうに自席に帰っていく。

だがナターシャだけはスピカのもとに向うと二人は教室を後にする。

「スピカ…!」

僕の縋るような言葉にスピカは軽く微笑む。

「大丈夫。すぐに帰ってきますよ」

スピカはそれだけ口にすると教室を出ていくのであった。


「スピカ…やりすぎじゃないですか…?」

廊下の隅でナターシャはスピカに忠告のような物を口にする。

「良いじゃないですか。本当の兄様だったらこんなことはしませんよ」

ナターシャはスピカの言っている意味が分かっているので少しだけ苦い表情を浮かべた。

「でも…本物のジンが戻ってきた時のことを考えたら…」

「そんな時は来ませんよ」

スピカは断定的に答えると首を左右に振った。

「そんなこと…わからないじゃないですか…」

必死に食い下がるナターシャの言葉にスピカは余裕そうに首を左右に振る。

「私には何でも分かっていますから」

「完全版の本のおかげですか…?」

「そういうことです」

「そこには何が書いてあるんですか…?」

「それは教えません」

スピカはそれだけ答えると踵を返して教室に戻ろうとする。

「ジンが役に立たない状態ならもう一度貴女を呪うことも出来るんですよ…?」

ナターシャは脅迫のような言葉を口にするのだが振り返ったスピカの妖しげな表情を目にして撤回するように首を左右に振る。

「いいえ…やはりそれはやめておきます…」

ナターシャはそう言うとスピカに縋るような言葉を口にする。

「おこぼれぐらいは貰えませんか…?」

しかしながらスピカはそれを否定するように首を左右に振るだけだった。

教室に戻っていくスピカを眺めながらナターシャは意を決したような目で前を向くのであった。


誰も居ない神殿の一室でナターシャは不完全版の本を広げる。

そこには続きが記されていない白紙のページが広がっている。

「この先を知りたいのですが…」

ナターシャは嘆息するとこれから先のことを考えていた。

「スピカが明らかに有利…私に出来ることは何か無いでしょうか…」

頭を悩ませても答えは見えてこずに落胆したように項垂れた。

「どうしましょう…」

白紙のページを縋るように撫でてみても特にこれといった変化も起きず…。

そのまま紙片で指の腹を切ってしまうと赤い血が少しだけ流れた。

血がそのまま白紙のページに垂れると…。

ページから文字が浮かび上がってくる。

「これは…!」

一筋の巧妙の光が差し込んできたナターシャは満面の笑みを浮かべるのであった。


フランシスは帰宅すると本日の出来事を振り返った。

「やっぱり何か怪しいわね」

ジンの事を思い出すと納得できない現実に頭を悩ませた。

そこに部屋のドアをノックする音が聞こえてえ来て返事をする。

「フランシス様。荷物が届いています」

執事が荷物を部屋に運ぶと恭しく頭を下げた。

「誰から?」

「それが…差出人不明なのです」

「中身は?」

「本でございます」

「本?」

フランシスは荷物の中身を開けるとその本を表紙を撫でる。

本にすぅーっとほのかな光が差し込むとそこにはある出来事が記されていく。

「これは…!」

フランシスはその中身を一通り目にして驚きの声を上げるのであった。


「そこのお嬢さん…」

学校からの帰り道、怪しげな老婆に話しかけられる。

「どうしました?体調悪いですか?」

ジャクリーンは話に応じると老婆に近づく。

「お困りのようならこの本を差し上げますよ」

「何も困ってないですよ」

ジャクリーンは軽く微笑んで返事をするとそのまま帰ろうとする。

「恋にもですか?」

その言葉にピクッと反応するともう一度振り返る。

「どうぞ。お使いください」

差し出された本を受け取るとジャクリーンは感謝を告げて帰宅する。

自室で本を広げるが中身は白紙だった。

「何だ…誂われただけか」

苦々しい表情を浮かべると本を閉じる。

だが本が発光してジャクリーンは眉をしかめてもう一度本を広げる。

そこには先程とは違い文字が記されていて…。

ジャクリーンはそれを目にして怪しげに微笑むのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る