第3話特別な存在

「ジャクリーンには気を付けて…。フランシスはちょっと脳筋だから気付かれないと思うけど…」

ナターシャは神殿の一室で僕に忠告のような事を口にする。

それに対して思うことがあったので一応口を挟んでみる。

「ジャクリーンって悪役令嬢の?彼女はジンにそこまで興味がなかったはずだけど?」

「いいえ…本心ではジンの気を引きたいのよ…でも素直になれない…貴族としてのプライドがあるから表立っての行動はあまりできないみたいだけど…。とにかくジャクリーンとふたりきりになるのはおすすめしないよ…彼女はジンの事を意外と深く知っているはずだから…正体がバレたら何をされるか…」

ナターシャの忠告を耳にして僕は一つ頷く。

「そういう情報が他にもあるのであればもっと教えてほしい」

我儘な注文をするとナターシャは僕の目を真っ直ぐに見つめて口を開く。

「デート一回で手を打つけど…」

足元を見るような発言に軽く嘆息するが頷いて応える。

「わかった。それで手を打つけど。大丈夫か?」

「何が…?」

「いや…なんでもない。大丈夫なら良いんだ」

それだけ言うと席から立ち上がった。

「デートするならこれからどうだ?」

「喜んで…」

ナターシャはそう言うと部屋の扉を明けて外に出た。

僕らはそのまま街に向かいその日はデートをして過ごすのであった。


デートから帰宅すると爺やに明日の予定を尋ねる。

「明日は学園の行事で学外授業があります。詳しいことは教師に確認してあります。どうやらダンジョンの一階層攻略がミッションらしいです。チームメンバーは、ジン様、フランシス様、ナターシャ様、ジャクリーン様。この四人編成だそうです。各チームの攻略状況で成績を決めるそうです。以上が概要です」

それに頷いて応えると現実世界で読んだ漫画のことを思い出していた。

そう言えばこの世界はダンジョンを攻略するような内容だったはず。

その中にラブコメなどの要素が組み込まれていたのだ。

現実世界では知らぬ明日の予定を確認すると自室で休むのであった。


そして次の日。

「それでは各班。ダンジョンを攻略してもらいます。一階層の深部にはボスも湧き出ますので気を付けて。命の危険を感じましたらワープアイテムで離脱してください。それではスタート」

教師の合図で僕ら生徒はダンジョンに望む。

中に入ると早速ジャクリーンが僕のもとを訪れる。

「ジン。最近元気ないね?何かあった?」

心配そうに問いかけてくる美女に僕は愛想笑いを浮かべると首を左右に振った。

「なにもないよ。至って平穏な毎日だよ」

「そう。なら良いけどしっかり自覚持ってね?」

「えっと?何についてかな?」

「自分の今の状況を」

その意味深な言葉に軽く頷くと微笑んで応える。

「ダンジョン内って今の状況を。ってことだよね。わかったよ」

ジャクリーンはそれに微笑んで頷くと僕らはそのまま奥に進んでいく。

ずっと進んでいき深部のボスを軽々倒すと僕らはワープアイテムで元いた場所に戻る。

教師は僕らを確認すると試験合格の知らせをした。

「それではジン・ジルクニスチームは自由行動で」

それに返事をすると僕らは揃って学校に向けて歩き出す。

その道中でジャクリーンは僕にそっと耳打ちした。

「昨日はナターシャと何をしていたの?」

その質問に僕は何とも言えずに首を傾げる。

「まさか…」

ジャクリーンは少しだけ訝しむ様な視線を送ってくるが、それには否定の言葉を口にしておく。

「特別なことは何もしていないよ?ただ街で遊んだだけ」

ジャクリーンはそれでも少しだけ怪しむ視線を送ってくる。

「気になるならナターシャにも聞いてご覧よ」

僕の言葉にジャクリーンは首を左右に振る。

「やめておくわ。争いは御免だから」

彼女はそれだけ口にすると隣を歩いて先を進む。

「それはそうと…。スピカは元気?」

「あぁ。最近は調子も良さそうだよ。心配ありがとう」

ジャクリーンは僕を試すような発言をした後に安心したように微笑んだ。

「良かった。最近のジンの様子が変だったからさ。試してごめんね」

「気にしていないよ。大丈夫」

それだけ応えると僕らは学校に戻るのであった。


帰宅すると自宅のベッドで休んでいる妹の元へ向かう。

「スピカ。調子はどうだ?ジャクリーンが心配していたぞ」

ベッドで横になっている妹は僕の顔を確認すると軽く微笑む。

「兄様。ありがとうございます。私は大丈夫です。ジャクリーン様にもそうお伝え下さい。私の病気は一生治ることもないのでご心配なく」

その少しだけネガティブな発言に僕は軽く微笑んで応えると希望の持てる言葉を口にした。

「病気が治るって言ったらどうする?」

「兄様。何を言っているのですか。私の病気は治ることがないのですよ。様々な医者が匙を投げたのです。戯言を口にするのはおやめください」

「そうだな。すまなかった。また明日来るからな。じゃあ」

妹のスピカの部屋を後にすると僕は現実世界で読んだ漫画の内容を思い出す。

スピカの病気と思われているものは呪いによるものなのだ。

それを知っている僕は呪いをかけた人物の元へ向かい、その人物に呪いを解いてもらう。

その人物は…。

「わかった…。もしものときのために脅しや人質のつもりで呪いをかけていたけど…もうジンじゃないんだもんね…。バレていたら私が不利になるから解呪するよ…」

目の前のナターシャは呪いを解くと僕に謝罪を口にする。

「ジンの魂に入った人間が悪い人じゃなくて良かった…。卑怯な真似してごめんなさい…」

それに頷くと足早に帰宅する。

帰宅すると久しぶりに元気なスピカの姿を目にする。

「兄様!何をしたのですか!?どうして私の病気は治ったのですか!?」

スピカは驚いているようで僕に抱きついてくる。

「僕は何もしてないよ。今まで辛かったね。大丈夫かい?」

スピカはそれに嬉しそうに頷くと僕の表情を確認していた。

「兄様…。本当に兄様なのですか…?」

その何とも言えない質問に僕は微笑んで頷くと何も言わずにスピカを抱きしめてあげるのであった。

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