第78話 モンスターハウス(2)
「ふっ!」
気合と共に大きく振りかぶって硬球を投げる。投擲スキルとダンジョン内のステータスによる強化のおかげで、プロ顔負けの速度と威力だ。
一直線で向かっていく硬球に対し、ゴブリンアーチャーが反応して身体をずらすように回避行動をとる。
だが、狭い足場で取れる回避程度では投擲スキルによるホーミング機能は防げない。
硬球は変化球のように鋭く変化し、とっさに腕でかばったゴブリンアーチャーに命中、そのままバランスを崩したゴブリンアーチャーを岩の上から落とすことに成功した。
それを見た瞬間にゴブリンたちに向かって駆け出す。
右手にメイスを装備しなおし、今度は左手に小石を握る。
岩が邪魔なせいでどこまで効果があるかは不明だが、初手でばらまくくらいはいいだろう。
そう思い、ゴブリンたちとの距離が詰まったところで勢いよく投げつける。
岩の陰に隠れているせいで2体にしか命中しなかったが、そいつらは一瞬とはいえ硬直している。
「らぁっ!」
硬直した1体を狙って勢いに乗ったままメイスを叩きつけた。
ゴッという音と共に吹き飛ぶゴブリンを見送り、次のターゲットへと足を動かす。
硬直していたはずのもう1体へと向かうが、あいにくと相手は既に動き出していた。
こちらへと振りかぶってきたこん棒を左のホルダーから引き抜いたメイスで受け止める。
こん棒をいなし、すれ違いざまに右手のメイスを叩きこむ。
そのまま足を止めず、むしろ駆けるペースを速めて岩の間を駆けぬける。
初手で岩の陰に隠れていたゴブリンたちがこん棒を手に飛び出してくるが、左右のメイスで弾き飛ばす。
そして1列目の岩を抜けて正面から見えなかった位置へと飛び込んだ。
瞬間、目の前に銀の物体が突き込まれた。
「くぉっ」
無理やり体勢を崩すように体をひねり、目の前に突き込まれた物体をかわす。
同時にそれをしてきた相手へとメイスを振るうが、不安定な体制で振るったそれはあっさりと躱された。
「ゴブリンソルジャーか」
一度バックステップで距離を取ってから、目の前に立つ相手を見返す。
そこには、粗末なこん棒を持つゴブリンよりも一回り大きなゴブリンが鈍く輝く長剣を構えていた。
ゴブリンソルジャー。
その名の通り、ゴブリンの兵士だ。さっき見たゴブリンアーチャーと同じく、ゴブリンよりも1つ上のランクのスキル持ちと呼ばれるゴブリンになる。
目の前にいるのは長剣を持ったゴブリンソルジャーになるが、槍や斧を持ったゴブリンソルジャーもいるらしい。
だったらゴブリンソルジャーではなくゴブリンランサーとかになるんじゃないかと思ったりするが、こいつらはまとめてゴブリンソルジャーという扱いだ。
近距離のゴブリンソルジャー、遠距離のゴブリンアーチャー、魔法のゴブリンソーサラーという分類なのだとか。
一度距離をとったためか、目の前のゴブリンソルジャーはこちらの様子を窺うだけで攻撃してくる気配はない。かといって、こちらから攻めようにも隙を見せているというわけでもないので動きづらい状況だ。
だが、待っていても他のゴブリンたちに囲まれて不利になる未来しか見えないので、にらみ合いを続けるわけにはいかない。
「たぁっ!」
自らを奮い立たせる意味も込め、叫び声とともに小石を投げつける。
予備動作なしに太ももの小石をすくい投げるように目の前にばらまいて自身も突っ込むが、悲しいことにゴブリンソルジャーは小石のことなど一切気にした様子はない。振りかぶってから殴りつけたメイスをその手に持った長剣であっさりと防がれた。
右手がダメならと連続で左のメイスも叩きつけるが、そちらも長剣で流される。
ならばと連続で右、左とメイスを叩き込んでいく。
最初の内こそ長剣でうまくしのがれていたが、見た目の体格差通りに力はこちらが上らしい。
次第にメイスをさばく動きが遅れだし、ついに長剣を大きくはじくことに成功した。
「おらあっ!!」
気迫と共にがら空きの胴体にメイスを全力で叩き込む。
狙い通りの一撃がまともに入るかと思ったが、インパクトの瞬間にゴブリンソルジャーは後ろに飛ぶようにして衝撃をそらした。
メイスの一撃が届いた感触はあったが、残念ながらそこそこのダメージどまりだろう。
さらに悪いことに、遠巻きに見ていたゴブリンたちが距離を詰めだしている。
「くそっ」
そう吐き捨て、ゴブリンソルジャーが飛んだ方向とは逆のゴブリンを蹴散らして一時離脱を選択した。
「ゴブリンアーチャーにゴブリンソルジャーと来たからには、やはりゴブリンソーサラーもいるのか?」
壁際まで退避したところで思いついたことを口に出す。
確認できているのはゴブリンアーチャーとゴブリンソルジャーだけだが、この2体にゴブリンソーサラーを加えた3体がゴブリンの上位種としてワンセットにされている。なので、このモンスターハウスでもこの3体がワンセットになっている可能性は高いだろう。
そうなると、近接に遠距離、魔法の組み合わせというなかなかに厄介な構成になるのではないだろうか。
若干、近接が弱い気がするが、そのあたりはノーマルのゴブリンが数で補うと考えれば、バランスが取れている気がする。
「はあ」
いつの間にか岩の上に復帰していたゴブリンアーチャーから飛んできた矢をメイスで打ち払いつつ、ため息をついてしまう。
トロール戦については基本的に近接のみだったし、ストーンゴーレム戦は魔法を使うレッドスライムを先に排除してから本格的な交戦に入っていた。
だが、今回については、さすがにそういった連携を取らせないようにするというのは難しいだろう。
まあ、1体ずつ排除していくという形にはなるだろうが、岩という障害物が邪魔だ。相手の射線を塞ぐと考えられなくもないが、目の前のゴブリンアーチャーのように岩の上に陣取られると、ただ地理的な優位をとられるだけになってしまう。
これがゴブリンソルジャーとノーマルのゴブリンだけであれば、いつも通りにテキトーに数を削っていくだけで良かったのだが。
「まあ、どうしようもないことを考えても仕方ないか」
とりあえず、ここからどうやって攻めるかを考えないといけない。
敵の構成としては、予想も含むがゴブリンソルジャー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンソーサラーにノーマルのゴブリンが複数という感じだろう。
さすがに上位種3種が複数いるとは考えにくいが、万が一のことも想定しておくべきだろうか。いや、ゴブリンアーチャーからの狙撃が1体だけということを考えると、やはり上位種3種は1体ずつと考えるべきか。
まあ、いざというときに慌てないよう、その可能性を頭の片隅に置いておけばいいか。あまり考え過ぎても身動きが取れなくなりそうだ。
「結局、数を減らしていくしかないのか?」
正直、ノーマルのゴブリンであれば多少の攻撃はそのまま受けても無視できる気がする。問題はそのような状況で上位種に追撃を受けた場合だ。
いくらノーマルのゴブリンが弱いと言っても囲まれた状態になれば、その包囲から抜け出すのはそれなりに手間取るだろう。そこに上位種の連携を食らうとおそらく危ない。
さっきやりあった感じでは、ステータス的には結構余裕がありそうだが、一方的にやられて大丈夫だと言えるほど圧倒的な差はないはずだ。ノーマルのゴブリンの攻撃でもカスダメージが入るのだから、上位種の攻撃が積み重なってしまうとどうしようもない。
「まあ、結局はいつも通りにやるしかないのか……」
いい加減うっとおしくなってきたゴブリンアーチャーからの矢を叩き落し、悲しくなるような結論を出す。
ダンジョン攻略ともなれば、物語のようにもっと華々しいものを想像していたのだが、実際にやってみると泥臭いというかなんというか。
はっきり言って地味としか言いようがない。
これで魔法スキルでも持っていればもう少し違ったのかもしれないが、メイスと投擲ではファンタジー感がないからな。やはり、次は魔法スキルを増やしたいところだ。
「これを片付ければ宝箱も出るかもしれないし、それに期待したいところだな」
まあ、宝箱が出たとしても魔法スキルのスクロールが出る可能性は限りなく低いのだろうが。
そんなことを考えつつ、目の前のゴブリンたちに向かって再度の突撃をかけた。
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