第77話 モンスターハウス(1)
正直、モンスターハウスという罠に反応しなかった“罠探知”スキルに思うところは色々とある。
外からわからなくても、せめて部屋に入ったときには反応しろとか、少なくとも発動前には反応しろとか。
だが、反応しなかったスキルのことは置いておいて、今は目の前のモンスターだ。
モンスターの召喚自体は終了したようで、部屋の中心付近で光を放っていた召喚陣は消えている。
岩のせいで全体としてどれだけの数がいるのかはわからないが、見えている範囲にいるモンスターは5体。見えていない分を考慮すると、少なくとも10体以上はいるだろう。
で、肝心のモンスターだが、どうやらゴブリンらしい。
ファンタジーの定番であるゴブリン。
最弱から最強まで色々な描かれ方をされるモンスターだが、この世界に現れたダンジョンの場合は弱い部類のモンスターだ。もっとも、ゴブリンにも階級があるので上の階級のやつは相応に強いそうだが。
とりあえず、見える範囲では岩の上にいるゴブリンアーチャー以外は最下級のゴブリンだけのようだ。ゴブリンアーチャーにしても、ゴブリンより1つ上の階級なので強さ的にはそこまで絶望的な相手ではない。せいぜい、スキル持ちだという点を気を付けるくらいだろう。
なので、ただただ、モンスターハウスという罠に引っかかった今の状況が厳しいというだけだ。
「ハッ!」
飛んできた矢を左手の盾で弾く。
扉を背にゴブリンたちの襲撃に備えているが、目の前にいるゴブリンたちが突っ込んでくる様子はない。今のように時折ゴブリンアーチャーから矢が飛んでくるだけだ。
「飛び込むしかないのか?」
部屋の中心付近、岩の隙間で並ぶゴブリンたちを見てつぶやく。
あいにくと、思いつく手段はそう多くない。というか、自身の手札を考えても“メイス”か“投擲”かの2択にしかならない。そして、岩という遮蔽物が立ち並んでいる環境的に、実質“メイス”一択だろう。
そうなると、結局は両手にメイスを持ってゴブリンたちの中に飛び込むということになりそうだ。
基本的にゴブリンの強さはコボルトと大差ないという話なので、目の前にいるゴブリンを相手にするだけであればそう難しくはないはずだ。
問題は、相手の総数がわからないこと、立ち並んでいる岩という障害物の中でうまく立ち回れるかがわからないこと、ゴブリンアーチャー以外の上位個体がいるかどうかがわからないことだ。
まあ、最後のゴブリンアーチャー以外の上位個体についてはいると考えておいた方が無難ではあるんだろうが。
「結局、突っ込んで確認するしか方法がなさそうなのがな……」
再び飛んできた矢を弾きながらつぶやく。
正直、自身の手札の少なさがつらい。気配を察知する系統のスキルを持っていれば、敵の分布や種類の確認も簡単にできるのだろうが、あいにくそういったものを持っていないので自分自身の目で確認するほかない。
なので、岩で見通しの悪くなっているこの部屋の場合は自らの足で確認に行くしかないとなる。
一応、壁際を回るようにすればある程度の安全性を確保した状態で確認できるだろう。だが、周囲からの確認だと、岩に隠れられて碌に成果が得られないという未来しか思い浮かばない。
「でも、やらないよりはやったほうがましか?」
ネガティブな考えを声に出して否定してみる。
岩に隠れられるとしても、その際に移動するなりの動きは出るはずだ。そのことを考えるとやらないよりはマシかなと思わなくもない。
「……いや、やっぱり無理か」
目の前に広がる光景を見て、再び考えを改める。
左右や奥にある岩の配置はわからないが、見える範囲の岩はまるでゴブリンたちが隠れるために用意されたかのような配置になっている。それを考えると、外周を回るだけではゴブリンたちの数はおろか、その動きすら十分に確認できないだろう。
まあ、部屋の中の岩の配置を確認するという意味では無駄にはならないだろうが。
そんなことをうだうだと考えるが、相変わらず向こうに動きはない。
焦って動くのもどうかと思うが、かといっていつまでもここで様子見を決め込むわけにもいかない。思い出したように飛んでくるゴブリンアーチャーの矢のせいで気を抜くことができないのだ。遠くない未来に集中力の限界が来て隙をさらすことになるだろう。
ただ、さすがに無策で突っ込むだけというのもバカな話なので、何らかの対策は打っておきたい。
まあ、そうはいっても俺にできることなんて限られているんだが。
投擲スキルを使ってけん制しながら突っ込むか、壁走りスキルを使って岩を利用しながら立体的に突っ込むかというところか。
いや、さすがに壁走りスキルをぶっつけ本番で試すのはなしか。
何度かダンジョンの通路で練習はしているが、この部屋のように岩から岩へと飛び移りながら戦うなんてことはできそうにない。
これは、次回以降に余裕を見ながら練習という方向だな。
となると、結局変わり映えのない投擲スキルを使いながらの突撃か。
我がことながら本当に芸がないな。
「まあ、行くしかないか」
もはや何度目かもわからない矢を弾きながら覚悟を決める。
だが、さすがに上から狙われている中に突っ込むのは気が進まないので、硬球を取り出して岩の上に陣取るゴブリンアーチャーを狙う。
倒すことはできないだろうが、岩の上から落とすことができれば上々だ。ただ防がれるだけに終わると困るが、岩の上のスペースは狭そうなのでおそらく大丈夫だろう。
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