第76話 大部屋の先(2)

「扉か」


 針山の罠を超えた先は、再度左へと曲がる曲がり角があっただけで、大部屋からは一本道が続いていた。

 そのまま第3階層へ向かう階段へと続いているのではないかという期待もあったが、あいにくとその前に別の部屋が待ち構えていた。



「小部屋か」


 いつも通り薄く開いた扉の隙間から内部を窺い、扉を閉めてからつぶやく。

 覗き見た内部は確かに小部屋の広さだったのだが、今まで見なかったものがあった。


 岩だ。

 高さが2m近い岩が小部屋内部に点在していた。そのせいもあってか、内部にいるモンスターを確認することができなかった。



 どうするべきか。

 一度扉から距離を取って、内部に入ってからの行動を検討する。

 扉から覗き見た限りでは、岩がうまい具合に視線を塞いで奥まで見通すことができない状態だった。つまり、いつものように投擲スキルを使っての挑発や牽制がやりにくいということだ。

 ただ、岩の上に立てば逆に高所から狙い放題になるのではないかという気もする。

 高さが2m程度なので上ること自体は難しくないはずだ。壁走りスキルを持っているうえ、岩には普通に凹凸があったので、スキルがなくても十分に上ることが可能だろう。


 問題があるとすれば、岩の上の空間が狭そうだということか。

 見た感じだと、上に立つことができないほど狭いということはなさそうだが、逆にそれ以上のことはできそうになかった。大きな岩でも半歩ずらせるかどうかなのではないだろうか。

 そうなると、モンスターの種類次第ではかなりつらいことになる。

 ここまでにいたモンスターで考えてみても、上空からインプに狙われた状態で、下からコボルトに攻め込まれると厳しいものがある。

 仮にトロールがいた場合には、あの狭そうな岩の上でやりあうのは無理だろう。

 まあ、トロールがいる場合は岩の上から上半身が見えているだろうから、この部屋にはいないだろうが。


「つまり、岩の上はなしか」


 結局そういうことになりそうだ。

 まあ、単純に考えて、この部屋のモンスターもインプとコボルトだろうし、多少やりにくさはあるものの地上で迎え撃つだけで十分なはずだ。せいぜい、コボルトから逆に頭上をとられないように気を付けるくらいか。

 後は、岩が密集している場所で壁走りスキルを使ったアクロバットを試してみるとかか?

 今まで試す機会がなかったが、三角飛びみたいなことができるかもしれない。


「まあ、なるようになるか」


 ある程度考えたところで、そうつぶやいて覚悟を決める。

 そして、軽く装備を確認してから、いつものようにゆっくりと部屋の中へと侵入した。




 部屋の中に入り、周囲から反応がないことを確認して扉から離れる。

 ゆっくりと、音をたてないように壁際を移動し、部屋の内部にいるモンスターの様子を窺う。



「モンスターがいない?」


 扉を離れ、側面の壁際まで達したところで小さくつぶやく。

 岩が点在していることで、上手く部屋の内部を見通すことができていないのだが、それを考慮してもモンスターの気配がなさすぎる。音についても、自分が歩く足音くらいしか聞こえてこない。


 改めて部屋の内部を見回す。

 慎重に見落としのないように見てみるが、やはりモンスターがいるような様子はない。


「ただの小部屋なのか?そういう場所もないわけじゃないらしいが」


 そう口にし、改めて気を引き締めてから、今度は部屋の奥へ向かって足を踏み出す。

 瞬間、部屋の中心から光が発せられる。


「くそっ、そっちかよ。罠探知に反応はなかったのにっ!!」


 そうこぼして、入ってきた扉へと駆け出す。

 だが、数歩駆けたところで、行く手を阻むように目の前を矢が通り過ぎた。


 矢が飛んできた方へと向き直ると、奥の岩の上で弓を構えるモンスターの姿がある。

 さらに、今もなお部屋の中心で光を放ち続けている地面の魔法陣からモンスターが召喚されている様子が岩の隙間から見てとれた。


「なんで、モンスターハウスに罠探知が反応しないんだよっ!!」


 愚痴りながら、ダメ元で入ってきた扉へと再度駆ける。

 途中、再度矢による妨害が入ったが、装備しなおした盾で防いだのでそちらの問題はない。


「やっぱり、ダメか」


 だが、駆けた勢いのまま飛びついた扉は予想通りビクともしなかった。



 モンスターハウス。

 侵入者を部屋に閉じ込め、召喚したモンスターによって蹂躙するという罠に捕らわれてしまったらしい。

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