第75話 大部屋の先(1)

 トロール戦を終えた翌日、前日とほぼ同じ時間にダンジョンへと向かう。

 まあ、ダンジョンへ向かう時間をキッチリと決めているわけではないので、いつも通りともいう。


 ダンジョンに入ると、昨日と同じように最短コースで第2階層の大部屋へと向かう。

 昨日はトロールを倒し終えた後にそのまま奥へと進もうとしたが、今日のダンジョン挑戦でそうするつもりはない。

 なぜなら、昨日の針山の罠で思い知ったからだ。俺の実力はまだまだだと。



 トロールを比較的余裕をもって倒せたことから、レベルやステータス的なものに関する安全マージンは十分に取れているとは思う。

 ただ、ダンジョン攻略に対する心構えというか、慣れみたいなものが足りていない気がする。


 ソロで挑戦している以上、他のパーティーメンバーによるフォローが期待できないということはわかっているが、それ以前にダンジョン攻略の方法に問題ないのかが気になった。

 一応、インターネット上の情報を調べたりして、モンスターや罠の調査はしている。ただ、それでも俺のやり方が我流で手探り状態であることは否定できない。

 そう考えると、時間をかけることでどうにかなるレベル的な安全マージンを取れるだけ取っておくのもアリなんじゃないかと思ったのだ。


 まあ、それなら先駆者の知恵を借りればとも思うのだが、意外なことに自衛隊の実地指導は予約が全て埋まってしまっていた。

 希望すればいつでも受けることが出来るだろうと、ダンジョンの封鎖が解除された日に誘われた巡回チームとの同行を辞退したが、あれは早まった行動だったのかもしれない。



 とはいえ、しばらくすれば美冬ちゃんがパーティーに加わってくれるということもある。そうすれば、またダンジョン挑戦のやり方も変わってくるだろう。

 なので、ひとまずはレベルを上げて安全を確保することにした。

 意地というか見栄でダンジョンを先まで把握して案内したいという気持ちもないではないが、それ以前に倒れてしまっては元も子もない。


 それに、トロールを倒したといってもまだ1度だけだ。ストーンゴーレムのときもしばらくは同じ場所でレベル上げをしたのだから、それほどおかしなことではないはずだ。

 まあ正直、昨日の件で多少弱気になっていることは否定できないが。


 そんなことを考えつつ、第2階層の大部屋へと到着する。

 昨日と同じように薄く扉を開き、近くにモンスターがいないことを確認してから部屋へと侵入した。




 光の粒子となって消えたトロールと引き換えに現れた宝箱の中身を確認する。

 中身は昨日と同じく銀貨が5枚。まあ、そんなものかという思いを抱きつつ、先へと続く扉へと視線を向ける。


 一度倒したことで、より危なげなくトロールたちを討伐することができた。今日は油断することなく、集中力を切らさずにいたため、ダメージも昨日よりも少ない。


 だが、視線の先にある扉に背を向け、入ってきた扉へと向かう。

 もう少し、もう少し何かきっかけとなるものが欲しい。具体的に言えばレベルアップだろうか?あるいはより強力な装備やスキルでもいいかもしれない。


 たかが第2階層レベルの罠相手にビビりすぎだという気もするが、不安を抱えたまま進むつもりはない。

 まずはレベルというわかりやすい基準を求めて、第2階層の小部屋、第1階層の大部屋へと経験値を稼ぐために向かうことにした。






 トロールを初めて倒してから5日目。

 4日目となる昨日、レベルが上がったのでそろそろ大部屋の先へと向かおうかということになった。レベルが上がったことで、現在のレベルはLv.12になったわけだが、実はそちらが理由ではなかったりする。


 都合よくというか、やっとというべきか、スキルのレベルが上がったのだ。昨日のレベルアップで初期スキルである“罠探知”のスキルがLv.2にレベルアップした。残りのスキルについては相変わらずLv.1のままなわけだが、懸念のあった“罠探知”がレベルアップしたのでちょうどいいということになった。

 正直、延々とレベル上げのために経験値稼ぎをするのに疲れたというのもある。

 まあ、そんなわけで今日は第2階層の大部屋の先へと進む予定だ。



 ここ数日のレベル上げで対処に慣れたトロールたちをサクッと倒し(相応の時間がかかったが)、宝箱の中身を回収して大部屋の先へと歩みを進める。

 一本道の通路を進み、曲がり角を左に進んだところで前回と同じように通路の床に違和感を覚えた。


 “罠探知”がレベルアップしたことで、何か感じ方が変わるかとも思ったが、特に変化はないようだ。そういえば、第1階層の罠に対しても同じだったのだから当然かもしれない。



 そんな考えをひとまず脇に置き、罠を確認するために砲丸を取り出して違和感の感じるあたりへと放り投げてみる。

 地面に落ちて小さくバウンドしてゆっくりと転がったところで、地面から反応が返ってくる。

 “罠探知”で罠を探知したときに感じる違和感とは異なる反応。何らかの音が聞こえたとか、そういうわけではないが、強いて言えば何らかの気配を感じ取ったという感じだろうか。とにかく、罠が起動する気配を感じ取り、警戒して後ろへと飛び下がる。

 瞬間、目の前の地面から鉄の針が無数に飛び出してきた。



「さっきの気配みたいなのは“罠探知”がレベルアップしたことでわかるようになったものなのか?」


 なんとなく違うだろうという思いを抱えつつ、口に出してみる。

 “罠探知”で感じる違和感とは違うものだったし、何より、仮に“罠探知”でしか罠の起動が察知できないのであれば他の探索者はどうやって罠を回避しているのかという話になってくるからだ。

 まあ、レベルの高い探索者になれば、罠が起動してから見て回避するということも可能なのかもしれないが。


「まあ、注意していれば罠の起動がわかるようになったのだと思っておくか」


 とにかく、罠の起動がわかるようになったことは、どう考えても良いことだ。今後もダンジョンの攻略を進めるうえで有利になることだろう。

 “罠探知”で罠の有無が事前にわかる以上、モンスターに追われているような状況でない限り、しっかりと見極めることができるということなのだから。

 そう結論付けて、針山の横の壁を走って奥へと抜ける。

 なんとなく一度針山を振り返り、再びダンジョンの奥へと歩みを進めた。

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