第74話 トロール戦(3)
「はっ!」
もう何度目かもわからない攻防で、気合とともにメイスを振り下ろす。
最初の攻撃から今まで、ほとんどやり方を変えることなく攻撃を仕掛けているのだが、何故か不気味なくらいにうまくいっている。
タイミング次第では手に持った丸太で防がれることもあるものの、8割くらいはうまく攻撃を加えることができている。
自身の防御力を信じて余裕を見せているのかとも思ったが、少し前から重点的に攻撃していた足に明らかなダメージが見えてきたことからそういうわけでもないのだろう。
「まさか、本当にただバカなだけなのか?」
再び距離を取ったところで、ふとそんな考えが口から出るが、実際、そうとしか思えないほどトロールの動きは単調だ。
特に走るでもなく、ゆっくりとした速度で距離を詰め、近づいたところで丸太による攻撃を加える。距離が近くなった場合は、腕や足による攻撃も加えてくる。
だが、本当にそれだけだ。
コボルトが残っていたころは、コボルトを投げつけるなんてことをしてきたが、いなくなった今はそういう攻撃はない。
かといって、2体いるトロールが連携をとってくるかというとそういうこともない。
むしろ互いに攻撃が当たらないように配慮しているせいで、邪魔になっているくらいだ。
……つまり、なんだ、要は攻撃力と防御力が高いだけのモンスターということか?
「くっ」
余計なことを考え過ぎた。気づいたときには既にトロールの丸太で攻撃を受ける直前だった。
どうにか盾で受けることができたが、今までのように受け流すということはできていない。
結構な衝撃を受け、後ろへと飛ばされる。
しかも相手にしているのは1体だけではないのだ。もう1体のトロールが距離のある場所から丸太を投げつけてきた。
「ちょっ!?」
盾とメイスで受け止めようとするが、丸太の速度が速すぎる。どうにか直撃を避けるのが精いっぱいだった。
丸太による衝撃で体勢を崩したところを、距離を詰めていたもう一体が再び丸太を振りかぶって攻撃してくる。
ここにきて連携をとってくるとは厄介なことこの上ない。まさか、さっきバカだとつぶやいたのが聞こえていたのか。
そんなことを考えつつ、今度は落ち着いてしっかりとトロールの攻撃をさばく。
だが、攻撃をさばいている間にもう一体にも距離を詰められ、トロールに左右から挟まれた状態になってしまった。
救いはもう一体が丸太を回収していないところか。無手になっている分、リーチが短くなっている。
まあ、3メートルを超える巨体なので無手であってもこちらよりもリーチは長いのだが。
とにかく、左右から繰り出される攻撃を無心でさばいていく。
左手のトロールのパンチを盾でいなし、右手のトロールの丸太をメイスで弾く。
数度繰り返したところで、こちらも多少の余裕を取り戻す。
どうやら、丸太を持つトロールの方が大ぶりな分だけ攻撃と攻撃の間の隙が大きいようだ。
それがわかったことで、この状況を抜け出すために右手のトロールを抜くことに決める。
だが、現状ほぼ一方的に攻撃されている状態なので、慎重にタイミングを計る必要がある。
攻撃を弾くタイミングや方向を調整しながら、突破するための隙を待つ。
こういったことができるようになったのは龍厳さんのしごきのおかげだろうか?
稽古中は龍厳さんの動きに対処することもできず、動きを追うことすら厳しかったが、ダンジョン内のステータス補正を受けた今はトロールたちの動きがよく見える。
さらに数度攻撃をいなしたところで、待ちに待った瞬間が訪れる。
トロールたちの連携がわずかに乱れて2体の攻撃が重なった瞬間、そのタイミングを逃さずに右手のトロールの丸太をもう一体の方へ流れるように思いっきり叩いて弾き飛ばす。
狙い通りにトロールたちの動きが乱れた隙を突き、右手のトロールの横を一気に走り抜ける。
トロールからのバックブローのような攻撃が後ろから飛んでくるが、前方に飛び込むように転がりそれをかわす。
すぐさま体勢を立て直してトロールたちから距離を取る。
このあたりの身軽さは壁走りの恩恵だろうか。そんなことを考えながらこちらへと振り返るトロールたちを見つめる。
「ふぅ」
再び、ゆっくりと距離を詰めてくるトロールを見ながらゆっくりと息を吐く。
さっきのような油断はしない。そう決意してメイスと盾をしっかりと握りなおした。
仕切りなおした後の戦闘は予想以上にあっさりとケリがついた。いや、トロールたちがタフだったので相応に時間はかかったが。
それでも問題といえるようなものは、その時間がかかったということくらいだ。
「さて」
そうつぶやいて、目の前に鎮座する物を見つめる。トロールたちを倒したことで出現した宝箱だ。
最近はストーンゴーレムの相手をしていなかったし、ダンジョンの封鎖があったこともあってかなり久しぶりに感じる。
「当たりだと良いんだが」
そう口に出して蓋を開ける。
「……まあ、そう都合よくはいかないか」
宝箱の中に入っていたのは銀貨が5枚。残念ながら外れに分類されるものだった。
ダンジョンの
何もなしというよりはマシだというのはわかっているが、ダンジョンの
まあ、テレビやインターネット上の情報からそういう変化がないということは知っていたが。
「しかし、どうしたものかね」
腕時計に目をやってつぶやく。
正確な時刻は覚えていないが、この大部屋に突入してからだいたい1時間近く経過している。ダンジョンに入ってからだと1時間半くらいだろうか。
そして、ステータスのHPに関しては6、7割といったところ。
時間的にもHP的にもある程度余裕はあるが、ここからどうしようかという話だ。
一応、当初の目的である大部屋の攻略は成功しているので、帰還するというのもアリではあるんだが……。
「まあ、確認だけしておくか」
結局、そういう判断をすることになった。
入ってきたのとは違う扉を使い大部屋から出る。扉の先はいつも通りの通路だ。まあ、こんなところで通路の外観を変えるなんていう無駄なことはしないだろう。
ただ、稀に部屋の次にも部屋があるなんていうダンジョンも存在するらしいので警戒は必要だろうが。
まあ、そっちも自衛隊のチームから特に注意を受けていないので少なくとも第3階層までは問題ないと思われる。
「罠か」
一本道の通路を進み、曲がり角を左に進んだ先にそれはあった。
違和感を感じるのは床。
小部屋の前にあったような落とし穴だろうか?そんなことを考えながら慎重にメイスで床を調べていく。
「!?」
膝をつきながらゆっくりと前に進みつつメイスで床を叩いていると、いきなり目の前に大量の針が生えた。
鉄の針山。
およそ1mほどの高さの針が目の前の通路を埋め尽くしていた。
「針山の範囲が狭くて助かった……」
メイスを使って目の前に並ぶ針山を叩きながらこぼす。
膝をついていたときには、目の前を埋め尽くすように針山が飛び出してきたように思えたが、落ち着いてから立ち上がって確認してみると、通路の幅いっぱいを埋め尽くしているものの前後の幅は1m程度といったところだった。
仮にこれが倍以上の幅を持つものであれば、俺の身体を針が貫いていたことだろう。ダンジョン産の防具を装備しているので即死するようなことはないはずだが、結構なダメージになったはずだ。
「壁走りを使えば先に進むのは難しくないが……」
針山の高さが1mで奥行きも1mほど。
であれば、何の問題もなく壁を走って超えることができる。
できるのだが――。
「帰るか」
結局、罠による大ダメージを負いそうになったことに精神的な疲れを覚え、撤退することに決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます