第79話 モンスターハウス(3)
あれから数度の突撃を敢行して、ノーマルゴブリンの数を減らすことには成功した。だが、その結果としてすぐにゴブリンソルジャーとかち合うことが多くなった。
まあ、ノーマルゴブリンの数を減らしていけば、ゴブリンソルジャーから離れた場所にいる奴らが少なくなるので仕方ないのだが。
で、そんな状態でとうとう懸念していた最後の上位種が出てきてしまった。
ゴブリンソーサラーがゴブリンアーチャーと同じように岩の上から魔法攻撃を仕掛けてきたのだ。
使ってきたのが見慣れたファイアアローだったのは幸いだったかもしれない。比較的動揺することなく対処できた気がするから。
ただ、その対処で体勢を崩したのはいただけない。
やりあっていたゴブリンソルジャーが一気に攻め立ててくる。
「ぐっ」
二刀流装備のメイスで受け流そうとするが、崩れた体制では上手くいかない。
しかも、そんなこちらの状態を好機と見たのかゴブリンアーチャー、ノーマルゴブリンの追撃が入る。
飛んできた矢をメイスで払い、ノーマルゴブリンの攻撃はそのまま身体で受ける。
常に表示させているウィンドウでHPが減ったのが見えるが、微々たるものなので気にしないことにする。
ノーマルゴブリンが追撃に来たことでできたスキをついて大きく後ろに下がって体勢を立て直しに図る。
ゴブリンソルジャーが反応するが、間にいるノーマルゴブリンのおかげでどうにか一気に畳み込まれることは回避できた。
「ふう」
目の前のゴブリンたちを見ながら一息つく。
周囲を囲まれた状況は変わらないが、体勢を立て直せたので危機は脱したと考えていいだろう。
ゴブリンアーチャーだけでなく、ゴブリンソーサラーからも追加の攻撃が来るかと思ったが、さすがに連続して魔法は撃てないのか。あるいは、MPを節約している可能性もあるが。
まあいい、距離を取ったことで背後に岩を背負うような形になってしまったが、この数であればゴブリンソルジャー以外の突破は容易だ。何なら攻撃を受けながらの突破でも大した問題にはならないだろう。
半ば膠着したような状況で相手側の様子を確認する。
正面にゴブリンソルジャーが陣取り、その左右にノーマルゴブリンが2匹ずつ。その背後の岩の上にゴブリンアーチャーとゴブリンソーサラーが控えていると。
この場から脱して、先ほどまでのようにノーマルゴブリンを削るべきか否か。
ここまでのダメージから考えると、おそらくこのまま乱戦に持ち込んでも勝つことはできる。岩の上の2匹が若干不安ではあるが、さすがにHPを削りきられるほどのダメージを受けるとは考えにくい。
それに慎重にノーマルゴブリンを削っていたのは、姿の見えないゴブリンソーサラーを警戒していたという側面もある。
ならば、このまま乱戦からのせん滅に移行してもいいんじゃないかと思ったところで、左右のノーマルゴブリンたちが動いた。
同時に頭上からは矢が飛んでくる。
「……やってみるか」
迫る矢をメイスで払いのけ、向かってくるノーマルゴブリンに対して逆に攻撃を仕掛けにいった。
乱戦に持ち込んだことでノーマルゴブリンはあっさりと片が付いた。すでにダメージが溜まっていたこともあったのだろうが、少し拍子抜けするくらいには早々に脱落していった。
だが、目の前にいるゴブリンソルジャーをはじめとした上位種にはかなり粘られている。
実力差というかステータス的にはかなりこちらが有利なはずなのだが、ゴブリンソルジャーは守りを固めて、頭上のゴブリンアーチャー、ゴブリンソーサラーと連携を取りながらチクチクと攻撃してきている。
さすがにうっとおしかったのと状況を変えるために投擲スキルで落としにかかったのだが、岩の上を狙おうとしてもゴブリンソルジャーが詰めてくるし、ならばと距離を取ったところから投擲して岩から落としても徹底的に守りを固められてこちらが攻め切る前に復帰される。
だが、さすがに何度も繰り返すことで岩から落とした2体が復帰するまでのタイミングやゴブリンソルジャーの攻めやすいところなどがわかるようになった。
そもそもステータス的にはこちらが有利なのだ。
であれば、わずかにでも隙ができればそこから強引にこじ開けることは可能だ。
「いい加減に倒れろっ!」
そう声に出して、体勢を崩したゴブリンソルジャーへと殴り掛かる。
そろそろ先に落としたゴブリンソーサラーが復帰しそうだが、あちらは攻撃する前に詠唱という名のタメが必要だ。
その前に一気に押し切る。それができる程度にはゴブリンソルジャーも削れているはずだ。
「!?」
連撃の後にひと際気合を入れた一撃を入れようとしたタイミングで矢が降ってきた。
それに驚き、後ろへと飛び下がる。そのせいでゴブリンソルジャーを倒し切ることができなかったのだが、岩の上にゴブリンアーチャーの姿はない。
「ここにきて曲射かよ」
そうつぶやき、念のためにさらに距離を取ってから奥を警戒する。
とりあえず、2射目はやってこない。
どうやって先ほどの矢を射ってきたのかと疑問に思うが、おそらく岩の上にいるゴブリンソーサラーからの指示があったのだろう。
魔法ではなくそういう行動をしてきたことについてどう考えるべきか。
楽観的に考えるのであれば、単純にMP切れのために魔法を撃つことができなくなったので戦法を変えてきたケースが考えられる。
逆に嫌なのは、まだ魔法が撃てるのに攻撃のバリエーションを増やすために戦法を変えてきたケースだ。
ゴブリンがそこまで頭を使うのかとも思うが、正直、ダンジョンのモンスターが単なるバカとも思えない。普通に連携はとってくるし、囮を使ってきたりするケースもあるのだから。
「まあ、深く考えても無駄か」
あいにくと今の俺には有効な対策がない。
一応、投擲でけん制することは可能だが、それは結局先ほどまでと同じことをするだけになる。だったら、ゴチャゴチャ考えずに一気に押し込んだ方がマシな気がする。
そう考え、再度ゴブリンソルジャーへと突撃を敢行した。
「結局、ゴブリンソーサラーはMP切れで良かったのかね?」
あの後の突撃であっさりとゴブリンソルジャーは落ちた。その後はゴブリンアーチャー、ゴブリンソーサラーをそれぞれ個別に距離を詰めて片を付けるだけだった。
こちらは後衛のモンスターだけあって、そう時間がかからずに倒すことができたのは良かった。
そのときにゴブリンソーサラーは魔法を使ってこなかったのだが、それを素直にMP切れだったからと考えてもいいものかどうか。
若干、ひねくれすぎという気もするが、どうなんだろう?やはり考え過ぎなのだろうか。
「まあ、これから挑戦を続けていればわかるか」
部屋の中心、召喚陣が発生したであろう場所に現れた宝箱を前にそうつぶやく。
この宝箱を見つけたからという理由もあるが、しばらくはこの部屋でレベル上げをするつもりだ。
終わってみれば割と楽勝だったと思えるが、モンスターハウスに引っかかってすぐはかなり焦ってしまった。
その焦った状態でも余裕をもって対処できたのは出てきたモンスターよりもレベルが高く、ステータスが上だったからだろう。
つまり、レベルを上げておけば余裕をもってダンジョンに挑むことができる。
うん、普通のことだな。というか、単にビビっているだけな気もする。
ただまあ、ソロでダンジョンに挑戦している以上、レベルによる安全マージンは必要だ。
そんな言い訳をしつつ、明日以降の予定をモンスターハウスでのレベル上げに決める。
ちなみに、宝箱の中身はいつもの銀貨5枚だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます