第67話 ダンジョンの更新と美冬の頼みごと(1)

「おはようございます」


「おはようございます、森山さん。朝早くから申し訳ありません」


「いえ、事情はわかっているので大丈夫ですよ。それに、もう朝早くというような時間でもないですし」


 ダンジョンの“更新バージョンアップ”に関するニュースを眺めながら朝食をとっていると自衛隊の巡回チームの訪問を受けた。訪問理由には予想がついているので、ダンジョンの“成長レベルアップ”があった前回とは違って特に戸惑うこともない。


「やはり、事情は承知されていましたか。まあ、確認された昨日の深夜からずっとニュースでやっていましたからね」


「ええ、今もちょうどそのニュースを見ていました」


「そうですか。では、すでに承知のことかもしれませんが、森山さん宅のダンジョンに関する決定をお伝えします。このダンジョンも他の公開ダンジョンと同様に10日間の封鎖を行います。申し訳ありませんが、森山さんもダンジョン内へ立ち入らないようにお願いします」


「わかりました。しかし、10日間の封鎖とは長いですね。やはり、ダンジョンの“更新バージョンアップ”はダンジョンの“成長レベルアップ”とは違いますか」


「違うというか、よくわからないというのが我々としても正直なところですね。ダンジョンの“成長レベルアップ”であればいくつものケースが確認できているんですが、ダンジョンの“更新バージョンアップ”は2回目ですから。上としても万が一のことがないよう、慎重を期したいのだと思います」


 その後、少し雑談を交えてから彼らはダンジョンの方へと戻っていった。

 封鎖期間中はダンジョンを監視するために自衛隊の隊員が常駐するそうなので、その監視任務に戻ったのだろう。ただでさえ、人手不足と言われている状況ですべてのダンジョンを監視するのは厳しいと思うが、今回は普段ダンジョン攻略を担当していない隊員たちも動員しているらしい。

 封鎖期間中の10日間だけとはいえ、彼らには頑張ってもらいたいものだ。一般の探索者でしかない俺はニュースなどから経緯を見守るしかないのだから。




 家の中へと戻り、改めて今回のダンジョンの“更新バージョンアップ”について考えてみる。

 ひとまず、現時点で確認できているのは次の3つの変化だ。


 ・ダンジョンクリスタルの情報に階層数だけでなく現在の最高到達階層が表示される

 ・ステータスの情報に各人の最高到達階層、累計モンスター討伐数が表示される

 ・上記に加え、ダンジョン挑戦ごとに当該探索者の到達階層、モンスター討伐数が表示される


 正直、この情報を見るだけであれば、ダンジョン挑戦が少し便利になったかなという程度で特に危険性は感じられない。

 モンスターの討伐数が表示されるようになったことについては、経験値の算出などを頑張っている研究者たちが喜びそうだとは思う。だが、所詮はその程度で、俺みたいな一般の探索者に影響があるようには思えない。その日のダンジョン挑戦でどれだけのモンスターを討伐したかを簡単に把握できるのは便利だとは思うが。


 それに、到達階層に関しては必要なのか?とも思う。これに関しては、把握していない探索者の方が少ないと思うし。

 必要とするのは、複数のダンジョンを頻繁に移動している探索者くらいなんじゃないだろうか?


 なんにしても、現状確認できている変化だけを見ると、10日間もダンジョンを封鎖するという政府の判断は慎重すぎるのではないかと思う。実際、海外では碌な調査もせずにそのままダンジョン挑戦を続けている国もあるくらいだし。

 ……いや、さすがに無策の国と比較するのはおかしいか。


「しかし、どうするかね。ダンジョン挑戦が強制的に休みになったわけだけど、装備の更新とか買い物に関してはこの前やったばかりだしな」


 ひとまず、ダンジョンに関することは政府からの調査結果を待つしかないだろう。ただ、そうなると突然できてしまった休日の過ごし方が問題だ。

 いや、そもそもここに引っ越してきたころはのんびりと過ごしていたので問題というのもおかしいのだが。

 気づけば、ずいぶんとダンジョンを中心にした生活になっていたようだ。


「とりあえずは素直に身体を休めつつ、龍厳さんに稽古をつけてもらうか」


 そう結論付けて、思考をダンジョンから日常のものへと切り替えた。

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