第65話 訓練と分かれ道の先(1)

 ダンジョンに入る前に装備を確認する。

 昨日買ってきた特殊警棒は、左右の太ももにホルダーを括り付ける形で装備した。常に手に持ったままにするのではなく、必要に応じて使用する予定だ。

 先のことはわからないが、今はまだ“投擲”スキルのために片手を空けた状態にしておきたい。


 装備に問題ないことを確認してダンジョンへと足を踏み入れる。

 多少歩きにくくなるかもと思っていたが、すでに小石用のビスカップを太ももに着けていたので特に影響を感じることはなかった。



 第1階層の正規ルートを外れ、以前レベル上げに利用していた大部屋を目指す。

 特殊警棒を使った二刀流について、まずは第1階層のスライムたちで試したい。恐らくは、第2階層の小部屋でも問題ないだろうとは思うが、できるだけ余計はリスクは負わないようにしたい。



「相変わらず多いな」


 静かに部屋の中に入ると、ポンポンと飛び跳ねたり、転がったりしているスライムたちの姿が目に入る。いつも通り、ただ部屋の中に入るだけではこちらを認識しないらしい。


 ゆっくりと部屋の中を見回して最初のターゲットを探す。

 レッドスライムやブルースライムは部屋の奥の方に固まっており、手前側にはグリーンスライムがいくつかのグループに分かれている。

 まずは特殊警棒の手ごたえを確認したいので、無難に1番近くにいたグリーンスライムのグループに狙いを定めた。



 小石を投げて気を引いたグリーンスライムたちが近づくのを眺めながら、右手で特殊警棒を抜く。そのまま勢いよく振り出すと、問題なく特殊警棒が展開された。やはり、ダンジョン内のステータスであれば難なく展開できるらしい。


 奥にいる他のスライムたちにも気を配りつつ、グリーンスライムへと近づく。

 飛びかかってきた最初の一体を特殊警棒で受け止めるが、特に問題はないようだ。

 続けざまに飛びかかってくる他のグリーンスライムも同じように特殊警棒であしらっていく。


 スライムたちが2、3巡したところで、今度は攻撃に回る。

 飛びかかってきたスライムたちに合わせて特殊警棒を叩きつけていく。

 さすがにメイスのように1撃ということはなかったが、2発も叩き込めばグリーンスライムたちは光の粒となって消えていった。




「バランスが悪い」


 一度扉近くまで戻り、先ほどの感想を口に出す。

 とりあえず、本来想定してい使い方である特殊警棒で相手の攻撃を捌くというのは問題なさそうだ。グリーンスライムが相手ということでどこまで参考になるかわからないという懸念はあるが、扱う感覚としては問題ない。


 問題は攻撃の方だ。

 まあ、これも使い方が悪いだけな気もするが、左手にメイスを持った状態で右手の特殊警棒で殴りかかるのは長さ的にバランスが悪かった。

 バランスというだけであれば、特殊警棒の両手持ちでもいい気がするが、メイスよりも攻撃力が落ちることは確実なのでやはり予備の域を出ないだろう。


「……」


 なんとなく、左手に持ったメイスを見る。

 特殊警棒だけの場合、どの程度戦えるのだろうか?ふとそんなことを考えてしまった。


「まあ実験だしな」


 メイスを壁に立てかけ、特殊警棒を両手に持って次のスライムたちのもとへと向かうことにした。




「金属バットより上で、メイスよりも下って感じか」


 レッドスライムたちも含めて、大部屋にいたスライムたちをせん滅してみた。

 メイスと比べると攻撃力が落ちるようなので相応に時間がかかってしまったが、金属バットを使っていたころとは比べ物にならないほど早く終わっている。


 おそらく、“メイス”スキルの補正によって、金属バットを使っていたころとは比較にならないくらいの攻撃力になっているのだろう。もちろん、レベルアップでステータスが上がったことも影響しているのだろうが。

 それに、単純に手数が倍になっている効果も大きいはずだ。一部防御に使っているとはいえ、スライム程度であれば両手の特殊警棒でメッタ打ちということも可能だったのだから。


 とりあえず、特殊警棒の二刀流であれば左右のバランスに問題ないことが分かったのでそれはよかった。

 ただ、これで攻撃しようとすると長さが足りないと感じることがあった。

 メイスの半分とまでは言わないまでも三分の二程度の長さしかないと、敵との距離感に違和感を感じてしまう。まあ、これも慣れの問題かもしれないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る