第64話 買い物(2)

 次に向かったのは、地域で一番大きな公開ダンジョンだ。正確には、そのダンジョンに併設されているアイテムショップだが。


「いらっしゃいませ」


 先ほどの店とは違い、普通の声で迎えられる。さすがに地域で一番大きいだけあって、客がいないということはないらしく、店内には2組の客がいた。

 何度か買い物に出かけたアイテムショップのように店員が接客に来るかとも思ったが、この店ではそういうことはないようだ。それならと、のんびりと店内の見て回ることにする。



「……」


 一番大きな店ということでそれなりに期待していたのだが、残念ながらめぼしいものはなかった。

 いや、消耗品や剣や槍などの一般的な武器なんかは結構並んでいたんだが、期待していたようなスキルスクロールはなかった。魔法スキルはもちろん、有名な補助スキルなどもだ。

 まあ、以前もらった取り寄せ可能なリストに載っていなかったのだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。


 結局、いくつかのマジックストーンを購入しただけで店を後にすることになった。






「というわけで、どうにかなりませんか?」


「何が、というわけでじゃ。どうにもならんわ、修行しろ」


 買い物前に連絡を入れていた通りに龍厳さんの家を訪ねて相談してみたわけなんだが、すげなく切り捨てられてしまった。

 まあ、てっとり早く集団戦闘がうまくなる方法はないかと聞いたらそういう回答にもなるだろう。こちらとしても本気で期待していたわけではない。


「まあ、そうですよね。では、稽古日を増やしてもらっていいですか?」


「それであれば構わんよ。前にも言ったように、儂は基本的に暇をしているんでな」


 そう言って目の前の湯飲みに手を伸ばす龍厳さん。つられるように、俺も自分の湯飲みに手を伸ばす。


「しかし、そんなことを言うんであれば、今日も稽古の用意くらいしてきてほしいもんじゃがな」


「……ハハハ」


 半目でこちらを見つつそんなことを言う龍厳さんに乾いた笑いを返す。その通りだとは思うが、今日は休息を兼ねてのんびりとするつもりだったのでそこは勘弁してほしい。



「ひとまず手数を増やしてみようかと思うんですけど、どう思います?」


 出してもらったお茶とお茶菓子でまったりしつつ、考えていたことを聞いてみる。

 すでに特殊警棒を買ってしまっているので、ダメと言われると微妙なのだが、その場合は完全な予備としてリュックに入れておくことになるだろう。


「手数を増やす?どうやってじゃ」


「一応、両手に武器を持つことを考えています。とりあえずは、メイスを攻撃用に持って、特殊警棒を防御用に使おうかなと。無理そうなら素直にメイスと盾でもいいんですけど、機動力が落ちそうなのが嫌だったんですよ」


 龍厳さんの疑問に簡単に答え、そのまま昨日の第2階層の小部屋での話と反省点について伝える。



「ふーむ。基本も出来てないもんが余計なことをするのはあまり賛成できんのじゃがなあ。儂じゃあ、ダンジョン内でのステータスとやらがどの程度影響するのかもわからんし、試してみるしかないんじゃないかのう。まあ、刀と違ってメイスのような打撃武器であれば、お前さんの言うように振り回すだけでも多少はマシかもしれんしな」


 龍厳さんからの回答はこんな感じだった。消極的な賛成といったところだろうか。

 ダンジョン内での俺の様子というか、“ダンジョン適応”によるステータスの影響がわからないので確かなことは言えないらしい。ただ、「どちらにせよ、基本を身に着けないとどうしようもないがの」という言葉ももらったが。



 その後は追加の稽古日の日程を相談したり、最近話題の探索者支援の話をして過ごした。相変わらず、龍厳さんのダンジョン挑戦の欲求がすごかったが、それについては家族と相談してくださいとしか言えない。


 稽古日については、毎日稽古をつけるという龍厳さんと、とりあえず1日追加でという俺との間で激論が交わされた。いやまあ、お茶を片手に少し熱くなっただけだが。

 結局、お互いに譲歩する形で月、水、土の週3の稽古ということになった。


 まあ、週3であれば許容範囲だろう。たぶん。

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