第61話 第2階層初挑戦の反省(2)

「パーティーがダメなら、とりあえずは戦い方か」


 テレビのニュースが次の話題に移ったので思考を先ほどの考えに戻す。

 すぐに探索者支援が開始されることはなさそうなので、しばらくはソロでの挑戦ということになりそうだ。そうなると、いかにしてソロでも安全にダンジョン挑戦を行っていくかという話になる。


 安全を確保するための方法としては、万が一のときのための逃走手段を確保する、余裕を持ったレベルで挑戦する、不測の事態にも対応できる立ち回りを身に着ける、といったところだろうか。

 今できているというか、行っているのは2つ目だけ。であれば、単純に1つ目と3つ目の方法も用意すればそれだけダンジョン挑戦の安全性が高くなるだろう。



 まず、逃走手段について。

 これについては、ダンジョン産のアイテムに帰還用のマジックストーンがある。あるが、正直あまり現実的ではない。性能的には、ゲームなんかの帰還用アイテムと違って戦闘中でも使用が可能な非常に優秀なアイテムではあるのだが。


 まあ、現実的ではない理由は単純で、そもそも俺なんかが入手できるようなアイテムではないからだ。

 一般のアイテムショップには置いていないし、そもそも売りに出されることがほとんどないらしい。数が少ないので手に入れた探索者は保険として自分たちのために確保するし、稀に売られるものは自衛隊の部隊へと流されるという噂だ。

 なので俺がこのアイテムを用意しようとするのであれば、確保できそうな高レベルの探索者への伝手を用意するか、自力で入手するかということになるんだが……。そもそも高レベルの探索者の知り合いもいないし、ダンジョンの1桁の階層で手に入ったという話も聞かないので、無理だという話になってしまう。


 まあ、縁のないアイテムは置いておいて、現実的な方法を考えよう。

 敵から逃走するために必要なことというと、足止めと速度だろうか。足止めして相手がもたついている隙に逃げるか、相手を振り切るだけの圧倒的な速度で逃げるか。

 まあ、実際にはその両方を用いて逃げることになるとは思うが。


 となると必要になるのは、足止めのための手段と相手を振り切るだけの速度を得るための何かということになる。

 幸いなことに俺にはその2つについて心当たりがある。足止めについては“投擲”スキル、速度については“壁走り”スキルが使えると思う。


 “壁走り”スキルは単純に速度が上がるというわけではないが、アクロバティックな動きができるようになれば十分な逃走手段になりうるだろう。そこまでスキルを成長させることができるのかという問題があるが。


 また、“投擲”スキルについてもどこまで通用するのかという問題がある。

 通常の投擲物ではストーンゴーレムのような強敵相手には通用しないことがわかっているので、これについては低階層の弱いモンスターにしか通用しないだろう。そうなると、こちらもスキルの成長に期待するということになるのだろうか。


「……先が長そうな感じだな」


 まあ、さすがにいつになるかもわからないスキルの成長を待つわけにもいかないので、とりあえずは万が一のために足止め用の投擲物を用意しておこう。ダンジョン産アイテムであれば、まったく通用しないということもないだろうし。……ダンジョン産の鉄球とかないのだろうか。



 次に、不測の事態にも対応できる立ち回りについて。具体的には、今回のような敵に囲まれた場合の対処だろうか。


「……どうすればいいんだ?」


 今の時点でも、そういう立ち回りができるように努力してはいる。龍厳さんに稽古をつけてもらっているし、毎日のダンジョン挑戦でも実戦を通して鍛えているつもりだ。

 その上で足りないとなるとどうすればいいんだろうか。


 ……まあ、鍛え方がぬるいというのは理解している。どう考えても、週1の稽古と1日に2、3時間のダンジョン挑戦では劇的な効果は期待できないだろう。そもそも、ダンジョン内の戦闘時間に関しては1時間にも満たないだろうし。


「稽古を増やすか?」


 すぐに思いつくのはそういう考えだ。だが、これも当たり前の話だが、稽古してすぐに効果が出るようなことはない。さっきのスキルを成長させるというのと同じだ。


「どっちにしても長期戦を覚悟しないといけないか……」


 俺としては今すぐにどうにかできるような手段が欲しかったのだが。

 まあ、スキルにしろ、自分自身にしろ、その成長を待つというのであれば時間がかかるのは仕方がない。

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