第60話 第2階層初挑戦の反省(1)
最後に残ったインプが光の粒となって消えていくのを眺める。これで小部屋にいたモンスターは全て討伐できた。
とりあえず、挑戦初日で第2階層の小部屋を攻略できたのは良いことだろう。それは間違いない。
ただ、それが小部屋からの釣り出しに失敗したことによる成り行きの結果だというところは反省すべき点だろうか。
1つ息をついてから、モンスターのいなくなった小部屋をゆっくりと歩いて見回る。
入り口から見た限りでは先へと続く扉があるようには見えなかったし、戦闘中にもそのようなものは見かけなかったが念のためだ。
「……やっぱり、行き止まりの小部屋か」
小部屋の中を1周した後、扉の付近の壁にもたれかかってこぼす。
小部屋には、先へ続く扉はもちろん、宝箱やモンスターからのドロップアイテムなどもなかった。まあ、扉以外はそもそも期待していなかったが。
「どうしたものかね」
これからのことを考えてそんな言葉が口からこぼれる。今日これからのことはもちろん、今後のダンジョン挑戦のこれからについても含めた言葉だ。
だが、今後のダンジョン挑戦については、この場で考えることでもないだろう。
「時間的には微妙、と」
腕時計を見て時間を確かめると、小部屋についてから1時間以上経っていた。今から引き返せば大体いつもと同じくらいの時間になるだろう。
ここに来るまでにあった分かれ道の先が気にはなるが、ここが行き止まりだった以上はどちらかの先が第3階層へと続く道になっているはずだ。初日から無理して確かめる必要もないだろうし、ここは素直に撤退することにしよう。
そう決めて小部屋を後にした。
「さてと」
その日の夕食を終え、テレビで流れるニュースを眺めながらこれからのことについて考える。というよりも、今日の反省といった方が正しいだろうか。
「やっぱり、モンスターに囲まれた状態になるのはまずかったよなあ」
今日のダンジョン挑戦の反省点を考えて、最初に出てきたのがこれだった。
まあ、小部屋からのモンスターの釣り出しを試したことについては間違っていたとは思わない。ソロで活動している以上、自分にとって有利になるように状況を整えることは重要なことだ。
ただ、その有利な状況を作り出そうとして不利な状況に陥ったのがダメだったというだけで。
「でも、初めての相手だったしなあ」
そう口に出して言い訳してみるが、そんなことは関係ないということはわかっている。初めての相手だろうがなんだろうが、やられてしまえばそれは等しく死という結果につながるだけだ。
もちろん、その最悪の結果につながらないように余裕をもってダンジョンに挑戦しているが、それがいつまで保てるかはわからない。
今のところはレベルも順調に上がっているが、レベルが2桁に到達した以上、今後のレベルアップの間隔はさらに長くなっていくだろう。そうなると、今日のようにレベル差でごり押しするような戦闘はできないようになるはずだ。
であればどうすべきかというと……。
「やっぱりソロは無理なのか?」
そういう結論になってしまう。
世界的に、というか日本に限ってみても別にソロの探索者がいないわけではない。いないわけではないが、数が少ないのも事実である。
加えて、ソロの場合はある程度の階層で伸び悩むようになるというのも有名な話だ。
この世界に出現したダンジョンは、アニメやマンガによくあるようなモンスターの数で押しつぶすというようなものではない。どちらかというと、ダンジョン内の迷宮エリアや各階層の長距離移動により疲弊したところをモンスターやトラップで排除しようとするものが多い。
もちろん、モンスターが大量に発生するダンジョンというものも存在するが、その系統のものは逆に階層数が少なかったり、各階層の広さがそれほどでもなかったりで割と攻略しやすいダンジョンとなっている。
なので、階層間の階段がセーフエリアとなっているとはいえ、何日もかかるようなダンジョン挑戦にはソロの探索者は不向きなのだ。
パーティーを組んだ場合のように複数人でカバーできるケースとは異なり、1人で常に気を張っておく必要があるというのは体力的にも精神的にも長期間の探索に向いていない。ソロであれば、5日程度が1回のダンジョン挑戦の限界だと言われている。
もちろん例外はあるらしいが、俺の場合はこの日数を基準に考えておくべきだろう。
一応、現時点の階層数とレベルアップの速度を含めた攻略ペースを考慮すれば、5日以内での攻略が可能だと思っている。……もちろん、今後もレベル上げが順調に進むことと、ダンジョンが急激に成長しないことが条件だが。
「前にも思った気がするけど、ダンジョンを舐め過ぎていたか……」
テレビの特集なんかを見ていた限りでは、1桁の階層数しかないダンジョンなんて大したことはないと思っていたんだが。
まあ、そもそも攻略しようとしている俺自身がダンジョン初挑戦だったのだから、すでに経験を積んでいる探索者たちと同じように考えることの方が間違っていたんだろうけど。
「誰かとパーティーを組むか、戦い方を見直すか、か」
以前にも考えたことだが、パーティーを組もうと思った場合、誰と組むのかというのが問題になってくる。
正直、会社を辞めたことで以前の交友関係はほぼなくなっているし、そもそも毎日のようにダンジョンに通っている俺と同じようなことを週末だけ探索者をやっているような兼業探索者に求めるのは厳しい。
そうなると専業探索者をパーティーに、ということになるのだが、今度は俺のレベルの低さがネックになってくる。
今現在、現役で専業の探索者をやっているような人は、ダンジョン発生当初から探索者をやっていた人がほとんどのはずだ。俺と同じようなタイミングで専業探索者になったような奇特な人はまず見つからないだろう。
であれば、俺とパーティーを組むよりも自分たちだけでダンジョンを攻略したほうが良いということになってくる。さっきも考えたように探索者は基本的にパーティーを組んでいるはずなのだから。
「とりあえず、パーティーに関しては探索者支援が始まってからかな」
ちょうどテレビから聞こえてきた探索者支援の話題を聞いてそんなことを考える。
実際に行われる支援内容次第ではあるが、支援が開始されたタイミングで、ある程度の人数が専業での探索者活動を考えるのではないかと思う。そのタイミングで佐藤さんにでもパーティーメンバーの相談をすれば良い人を紹介してもらえるかもしれない。
なにせ、俺とパーティーを組めば専用のダンジョンがついてくるのだ。碌にモンスターと遭遇することがないという一般の公開ダンジョンよりも魅力的だと考える探索者もいるだろう。
そんなことを考えつつ、テレビからの情報に耳を傾ける。
一応、ある程度の探索者支援の内容が出てきてはいるらしい。内容としては、大きく下記のようなもののようだ。
1.ダンジョン攻略の貢献度に応じた報奨金
2.ダンジョン産装備の無料貸与など新人探索者への優遇措置
3.財源確保のためのダンジョン税の導入
2つ目と3つ目についてはほぼ決定しているらしい。というか、3つ目は支援ではないような気もするが、まあ財源をどうするかというのも大事な話なのだろう。
しかし、目玉となるはずの1つ目に関する調整が難航しているらしいのが気になる。まあ、ダンジョン攻略の貢献度といっても、それをどうやって算出するのかということだとは思うが。
有力なのはダンジョンへ挑戦した日数と時間から算出するものらしいが、どう考えてもただダンジョンで過ごすだけの不正が横行する未来しか見えない。さすがにそれはマズいということで、何らかの算出基準を作るために難航しているのだろう。
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