第59話 第2階層の小部屋(2)
残ったインプにもトドメを、と思ったが、残念なことにこちらから距離をとった位置で警戒されている。
途中で何度か確認していたのだが、しばらく地面に倒れていて、その後起き上がっても戦線に戻るわけでもなく空中から様子を伺っているだけだった。
こちらとしては好都合だったので放っておいたんだが、どういうつもりなんだろうか?
あっちとしてはコボルトに合わせて攻撃を仕掛けてくる方が効果的だと思うんだが。
しばらく様子を見ていてもそのままだったので、ひとまずインプについては放置することにした。
硬球なり砲丸なりを投擲スキルで投げつければどうにかなりそうではあるんだが、ひとまず通路への釣り出しがうまくいくかを確認することにしたのだ。
とりあえず、インプがこちらと敵対行動をとっていることは確かなはずなので、少し離れたところにいる2匹のコボルトにもちょっかいをかけて釣り出してみることにする。
ゆっくりと別のところにいたコボルトの方へと移動したが、インプは距離をとってついてくるだけで、こちらに攻撃を仕掛けてくることはない。
「うーん、どういうつもりなんだろうか?まあ、帰ってから調べてみるか、理由がわかるかはわからんけど」
そうこぼしつつ、近づいた2匹のコボルトに向かって小石を投げつける。すると、先ほどと同じようにこちらに気づいたコボルトたちが駆けてきた。
今回は通路へと釣り出すことが目的なので、メイスは構えず、後ろにある扉へと向かって後ずさりながら小石をこまめに投げつける。
正直、ダメージはほとんど入っていないだろうが、挑発としてはかなり効果的なのではないだろうか?気のせいかもしれないが、先ほどのコボルトたちよりも向かってくる表情に怒りが見える。
「うわぁ、キツイ表情してるなぁ……」
扉近くまで来た頃にはコボルトたちに距離を詰められており、メイスでテキトーにいなすことになっていた。
さすがにその距離にまでなるとコボルトたちの表情まで確認できるわけで。
さっきまでは攻撃を仕掛けつつだったので表情までしっかりと見ていなかったが、いなしているだけの今は表情まではっきりと確認できる。
牙をむき出しにしてよだれを垂らし、薄汚れたボサボサの毛並みで敵意をむき出しにした姿。
実際に見てみるまでは動物好きの人にはキツイんじゃないかなんて思っていたが、この姿なら問題ないだろう。よほどの犬好きでもこの姿のコボルトを愛でることはできないはずだ。
そんなことを考えながら扉を開いて通路へと抜け出す。
予想通りにすぐさまコボルトたちが扉をすり抜けて通路まで追ってくる。どうやら扉をすり抜けることができるのはスライムだけではないらしい。
そのまま扉から離れるようにさらに後ろへと下がり、扉から十分な距離をとったところで止まる。具体的にはインプが距離をとって様子見をしていたよりもやや遠い距離までだ。
その位置でコボルトをテキトーにあしらいながらインプが出てくるのを待つ。
「インプは無理なのか?」
体感で5分ほど待ってみたが、どうやらインプは通路へと出てこないらしい。そう結論付けて目の前の2匹のコボルトを倒しにかかる。
あしらっているだけでもそれなりにダメージが入っていたのか、コボルトたちは思った以上にあっさりと倒すことができた。
「うーん、合流するのか」
ステータスを確認し、思ったよりも余裕そうだとわかったので残りを片付けるべく小部屋へと侵入する。すると、先ほどのインプが残ったグループへと合流し、コボルト3匹、インプ2匹の集団になっていた。
「まあ、もう一度インプを含めて試してみるか」
そうつぶやいて奥にいる残ったグループへと近づいていく。
さっきの戦闘から考えると小部屋の中でそのまま相手にしても問題なさそうではある。だが、無理に焦ることもないだろう。多少とはいえHPが削られていることは確かなのだから。
先ほどと同じくらいの距離まで近づこうと考えていたが、その前にコボルトたちに気づかれてしまった。先ほどのインプが気づいたのだろうか?
まあ、どちらにせよやることは変わらない。最初に気を引くための一投がなくなっただけだ。
そう思っていたが、それは間違いだったらしい。というよりも、動きの速い奴らに広い空間を与えるのはまずかったらしい。
コボルトたちは正面と左右から挟み込むように分かれて駆け出してきた。こちらも小石でけん制しながら急いで扉へと後退しようとしたが間に合わなかった。
小部屋の中央を越えたあたりでコボルトたちに間合いを詰められてしまい、インプには上空から後方の扉への道をふさがれてしまった。
「厄介な」
コボルトとインプに囲まれてしまった状態でこぼす。
正直、コボルトやインプの攻撃自体は大した脅威ではない。だが、第1階層でストーンゴーレム相手に俺がやっていたようにヒットアンドアウェイの攻撃を仕掛けられているのが厄介だった。
正面のコボルトに攻撃を合わせると左右のコボルトが、右のコボルトを狙うと上空からインプが槍を突き出してくる。
さっきと同じようにダメージを無視して狙いを絞ろうとも考えたが、数が増えたせいか他の奴らに足を止められてしまい、攻め切ることができない。
一応、細かいダメージは与えられているはずだが、さすがにこの状態が続いていると不安になってくる。万が一の事態はないと思うが、HPに余裕があるうちにこの状況を打破するための行動に移るべきだろう。
ひとまず、相手の足を止めるところからだ。幸いにして、投擲スキルのおかげで足を止める手段はある。
メイスや腕を使って相手の攻撃をいなしながら、慎重に周囲を囲むコボルトたちの動きを見極める。狙うのは、コボルトたちが一定の範囲内に集まる瞬間だ。
「ここだっ!」
周りを囲むコボルトたちが同時に攻撃を仕掛けようとしてきた瞬間、そう声に出して俺も動き出す。
手に持ったメイスを手放し、両手で小石をつかみ取る。そのまま、周囲に広がるように上空へと放り投げる。
コボルトたちにも学習能力があるのか、小石を放り投げた瞬間に回避しようとしたが、こちらに突っ込もうとしていた勢いは殺し切れずに広がった小石の雨に打たれている。もちろん、上空から仕掛けてきていたインプたちも同じだ。
はっきり言ってダメージは期待できないし、動きを止めることができるのも一瞬だけだが、コボルトたち相手であればそれで十分だった。
手放したメイスをつかみ直し、目の前のコボルトに向かって思いっきり突き出して吹き飛ばす。
勢いそのままに向きを変え、すぐさま右側で動き出そうとしているコボルトに向かって突っ込む。
同じようにメイスで吹き飛ばし、今度はそのまま包囲を抜けるように追撃をかける。
背後から残りのコボルトとインプが攻撃を仕掛けようとしてくるが、こちらも離れるように移動しているのでまともな攻撃は届かない。
吹き飛んで地面に落ちたコボルトにトドメを刺そうとするが、すでに限界だったらしい。地面に落ちると同時に光の粒へと変わり始めた。
それを確認して体の向きを変える。
目の前に追撃に来たコボルトとインプが迫るが、余裕がなかったのか真正面から突っ込んできている。
そうであるなら、あとは簡単だ。最初にやったようにダメージを無視するつもりで個別撃破してやればいい。
先頭で突っ込んできたコボルトの攻撃をメイスで受け止め、そのまま1匹ずつ撃破していった。
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