第58話 第2階層の小部屋(1)
背中に背負ったリュックからペットボトルのお茶を取り出し、一息ついてから行動を再開する。まずは先ほど中断された罠の確認からだ。
慎重に、違和感を覚えたあたりの地面をメイスでゆっくりと叩いていく。
3度叩いたところで目の前の地面に大きく穴が開いた。
「うおっ!?やっぱり、久しぶりだと感覚が狂うなぁ……」
やや前のめりになってしまった体勢で思わず声を漏らす。第1階層の落とし穴で何度もやっていた作業ではあるが、最近は壁走りのスキルで避けていたので感覚が鈍っていたらしい。
「やっぱり落とし穴か。……というか、底が剣山みたいになってるし凶悪になってるじゃないか」
慎重に穴の中を覗き込んでみると第1階層の落とし穴にはなかった鋭い針というか槍のようなものが並んでいるのが見える。
矢の罠も本数が増えていたし、ダンジョンの成長で罠も成長したのかもしれない。帰りにでも第1階層の落とし穴を確認しておこう。
そんなことを考えつつ、落とし穴を避けて先へと進む。
幸い、その後はモンスターにも罠にも遭遇せずに通路の突き当りにある扉の前までたどり着くことができた。
「最初の扉か。さすがにこの距離でボス部屋はないとは思うけど、何が出るのやら」
そんなことを口にしつつ、メイスを握りなおして扉を薄く開ける。
覗き見た部屋の中には、先ほど遭遇したコボルトと背中から羽を生やしたコボルトよりやや小さなモンスターが飛んでいた。記憶が確かであれば、あれはおそらくインプだろう。
ゆっくり扉を閉めてから距離をとり、壁に背中を預ける。
覗き見た感じだと、この部屋はおそらく小部屋になると思われる。少なくとも見える範囲には先へと続く扉は見えなかったので、ここは枝分かれした通路の行き止まりの小部屋だと思う。
で、どうするかという話なんだが……、まあ試してみるか。
コボルトの方は、動きの素早さと生き物を相手しているという忌避感が厄介ではあるが、強さ的には問題なさそうだ。インプについては試してみないとわからないが、インターネット上の情報によると手に持った三つ又の槍と爪による攻撃をしてくるという話だったはず。
どちらも魔法による攻撃はないはずなので、近接の物理攻撃のみとなる。インプが空を飛んでいるのが厄介ではあるが、対処できないというほどではないだろう。
それに最初は第1階層でもやったように、扉の近くのモンスターを釣り出してきて数を減らすつもりだ。恐らくどうにかなる。
扉の近くにモンスターがいないことを確認してから静かに小部屋に侵入する。
どうやらコボルトもインプも、索敵能力はそれほどでもないらしい。小部屋に入った瞬間に敵意を向けられるということもなく、少し離れたところにいる奴らにすら気づかれていないようだ。
「スライムみたいに引っかかってくれると楽なんだが」
そう小さくつぶやいてから、一番近くにいる集団に小石をまとめて放り投げる。コボルトが3匹にインプが1匹の集団だ。
残りは離れたところにいるコボルト2匹と奥にいるコボルト3匹とインプ1匹の集団になる。小部屋全体でコボルト8匹とインプ2匹と考えると少なく感じるが、たぶん第1階層のグリーンスライムの数が多かっただけだろう。
そもそも、まだ第2階層なのだから量も質もそこまで大したことはないはずだ。
「っと、来たか」
距離をとったために山なりに放り投げる形になってしまったが、ダメージは期待できなくともこちらに気を引くという目的は果たせたらしい。俺に気づいたコボルトたちがイラついたようにこちらへと顔を向け、駆けだそうとしている。
扉へと近づくように後ずさりながら離れた位置にいる他のコボルトたちの様子を確認する。
離れた場所にいる2つの集団はどちらもこちらのことに気づいていないようだ。なんとなく、こいつらの索敵能力が心配になるが、こちらの都合がよくなる分には問題ないだろう。
そう考え、他の集団を放置して目の前の相手に集中する。
待ち構えていると、先頭を駆けてきたコボルトが両手の爪を使ってひっかこうと飛びかかってきた。
どうやら武器を持っていない個体もいるらしい。やや後ろの2匹はこん棒を持っているが目の前のこいつは手ぶらだ。だからこそ一番早かったのかもしれないが。
「はっ!」
コボルトの爪に合わせるようにメイスを打ち付ける。攻撃するというよりも弾き飛ばすための動きだ。
それに合わせるようにワンテンポ遅れて後ろの2匹が左右からこん棒で殴りつけてきた。
「ぐっ」
右手の1匹はメイスで、左手の1匹は左腕でガードする。
だが、さすがに腕でのガードではダメージが入るらしい。左腕に少しの衝撃を感じ、HPが削られてしまった。
ひとまず右手のコボルトにメイスで攻撃を、と思ったタイミングで今度はインプが空中からやってきた。
「うおっ!?」
コボルトたちに対処するために目線が下にいっていたので、インプの動きに気づくのが遅れてしまった。気づけば、目の前にインプの槍が迫っている。
すぐさま身体を大きくよじって槍の攻撃をかわし、そのままインプに向かってメイスを振り抜く。
狙い通りにインプをとらえるが、見た目通りの貧弱な防御力しかなかったのか、あるいは飛んでいたからか、インプは予想以上に吹っ飛んでいってしまった。
驚きに一瞬動きが止まってしまうが、目の前のコボルトたちは気にもとめないらしい。飛んで行ったインプの様子には構わず殴りかかってくる。
意識をコボルトたちに戻して身構える。
先ほどと同じようにこん棒持ちの2匹が同時に殴りかかってきたが、今度はダメージ覚悟で1匹に狙いを絞る。
右からの攻撃を捨て、左からくるコボルトに向かってこちらから逆に一歩踏み出す。
そのままメイスでこん棒を弾き、コボルトの頭を殴りつける。
右わき腹に衝撃を感じるが、ステータスを見る限り、ダメージは大きくない。
これなら問題ない。そう判断して左手のコボルトに対して畳みかける。
1撃2撃3撃と細かく打撃を叩き込み、体勢の崩れたコボルトに対して大きく振りかぶった4撃目を叩き込む。
その一撃でコボルトは後ろへと吹っ飛び、光となって消えた。
それを視界の隅に収めながら、武器なしのコボルトも加わった右手のコボルトたちに正対する。
先ほどのコボルトにトドメを刺すまでにそれぞれから1撃ずつ攻撃を食らってしまった。
よくよく考えてみると、通路への釣り出しを試そうと考えていたはずなのに、なぜ正面から相手をしているのだろうか?
まあ、必要なことではあるだろうし、無理でもなさそうなので今は置いておこう。
結局、この2匹についても同じようにダメージ覚悟で1匹ずつ倒すこととなった。
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