第57話 第2階層へ(3)
降り立った第2階層は第1階層と同じような通路だった。
岩肌むき出しのままの壁に、土を強く踏み固めたような地面。通路の広さも第1階層と同じようで、1車線の道路程度の幅だ。
軽い確認を終わらせ、通路の先へと歩みを進める。
しばらく進んだところで、分かれ道に遭遇する。直進か左折かの2択だ。
そういえば意識していなかったが、自衛隊の巡回チームからダンジョンの各階層の地図なんかは提供してもらうことは可能なのだろうか?公開ダンジョンなんかでは、低階層の地図は普通に提供されているそうだが。
まあ、急ぐわけでもないし、自分で確認しながらの方が身に付きそうなので地図なしで問題ないか。
とりあえず、今日は左の道へ行ってみることにする。
以前は金属バットで行き先を決めた気がするが、武器を手放すのは微妙だったのではないだろうか。低階層でモンスターの姿が見えない状況なので別段問題になるほどではないとは思うが、不用心なのは変わりないだろう。
左手の通路を進むと再び分かれ道に遭遇する。今度は左右に道が分かれていた。
軽くそれぞれの先を確認してから、特に考えずに再び左の道を選ぶ。今日はなんとなく左の気分だ。
進み始めてすぐに地面に違和感を覚える。この感じは落とし穴だろうか?
だが、そのままメイスで地面を確認しようとしたタイミングで前方にモンスターの姿が見えた。
1メートルほどの小柄な体格に犬のような頭を持った毛むくじゃらな姿、どうやらコボルトと遭遇してしまったらしい。
数は2匹で、手にこん棒を持っているのが1匹とナイフを持っているのが1匹だ。
「タイミングの悪い……」
そうこぼしながら対応を考える。
まだ距離があるので地面の罠の確認を先に済ますべきか、それともいったん退いて罠から距離をとってからコボルトに対応すべきか。
インターネット上の情報が正しいのであれば、コボルトは大した敵ではないはずだ。ただ、初遭遇ということで慎重に行くべきかもしれない。
そう考えてゆっくりと後ろへと下がる。
だが、それを見てこちらが弱腰だと感じたのか、ゆっくりと警戒しながら近づいていたコボルトがこちらに向かって駆け出してきた。
「っ、意外に速い」
それなりに距離があったので硬球を取り出して投げつけようかと思ったが、その余裕はなさそうだ。後ろへと下がりながら、慌てて左手を腿に着けたビスカップへと伸ばす。
コボルトが罠があるであろう場所を何事もなく走り抜けたのを確認し、左手で掬い取った小石を投げつける。
コボルトはそれぞれの武器で小石を弾こうとするが、すべてをはじくことはできない。はじき損ねた小石がコボルトへと当たる。
小石が当たって動きが止まった瞬間、こちらから距離を詰めた。
当たった数が少ない右側のコボルトが反応してこん棒を構えなおそうとするが、こちらの方が早い。
距離を詰めた勢いそのままにメイスを突きこみ後ろへと吹っ飛ばす。
そのままメイスを左へと薙ぎ払うように振り抜こうとするが、さすがに左のコボルトも動き出していた。手に持ったナイフでメイスを受け止められてしまう。
だが、体格で勝るこちらの方が力が強いのか、コボルトは体勢を崩している。
間髪入れずに2度3度とメイスを素早く叩き込む。
けれど、速さを重視したせいで威力がなかったのかコボルトはまだ倒れない。
そうこうしている間に、後方で吹っ飛ばしたコボルトが起き上がるのが見えた。
「もう一回飛んどけっ!」
その言葉とともに、コボルトを掬い上げるようにメイスを振り抜く。
狙い通り、吹き飛ばしたコボルトが後ろのもう一匹を巻き込んで転がっていく。それがトドメとなったのか、吹き飛ばしたコボルトは光となって消えていった。
そのまま追撃に入ろうかと思ったが、罠感知の反応が足を止めさせる。このまま突っ込むと罠に引っかかってしまいそうだ。
追撃を諦め、ゆっくりと後ろへと下がりながら硬球を取り出す。コボルトがこん棒を拾いながら起き上がるのを見て、思い切り投げつける。
バンッといい音をたててコボルトの頭に直撃するが、倒すには至らない。
2球目を用意して再び投げつけるが、今度は腕で防がれてしまった。
さらに3球目を用意しようとしたところで、コボルトは体勢を低くしたままこちらへと駆け出してきた。最悪、逃げられるかもと思っていたが、こちらに向かってくることを選んだようだ。
メイスを正面に構えて待ち構える。
あと数歩の距離となったところでコボルトは右手に持っていたこん棒をこちらへと投げつけてくる。
顔を狙ってきたそれをメイスで流すように弾き飛ばすが、コボルトはさらに低い体勢となって突っ込んできていた。
「くっ」
地面スレスレにまで低くなってくるコボルトに対し、バックステップで距離をとろうとする。
が、同時にコボルトが勢いよく飛びかかってきた。
血走った目に、よだれを垂らしながら牙をむき出しにして噛みつこうとする口。その醜悪な顔に思わず目をそむけたくなってしまう。
けれど、ここで目をそらせばいらぬダメージを負ってしまうことは明らかだ。龍厳さんとの稽古を思い出し、コボルトへの恐怖を押し殺して相手を見据える。
そのままメイスをコボルトの口へと突きこむように差し出し、突撃の勢いを殺す。
勢いが止まって地面に落ちたコボルトが四つん這いの体勢からすぐさま再度の攻撃に移ろうとするが、それを待ってやるつもりはない。
仰ぎ見るように持ち上げたその頭に対し、両手で振り上げたメイスを思い切り叩きつける。
狙い通りコボルトの頭にメイスの一撃が直撃し、トドメを刺すことに成功した。だが、同時に何とも言えない嫌な感触をも味わうことになってしまった。
「あー、モンスターが消滅してくれるのがマジでありがたい……」
ついでにコボルトが持っていたこん棒も光となって消滅していったが、まあそういうものなのだろう。確認するともう1匹が持っていたはずのナイフも見当たらない。
使い道のなさそうなこん棒やナイフなんかより、意外とグロイ姿になってしまったコボルトの死体が消えてくれたことの方がよほどうれしい。
「そういえば、生き物っぽいのは初なのか」
コボルトが消えた地面を見ながらつぶやく。
第1階層で遭遇したのは各種スライムとストーンゴーレムだ。正直、生き物を相手にしたという感覚はない。
だが、先ほどのコボルトは明らかに生き物を殺したという感覚をもたらした。
1匹目は必死だったのと割と軽めのダメージの積み重ねで倒したので実感がなかったが、2匹目にトドメを刺した攻撃は結構クルものがあった。さすがに、生き物の頭を叩きつぶす感触なんていうものは味わいたくなかった。
「今からでも遠距離武器にしようかな……」
そんな弱音を声に出してつぶやいてみるが、スキルスクロールまで買って得たメイスのスキルを放棄するのは現実的ではない気がする。
というか、仮に遠距離武器に持ち替えたところで、叩き潰す感覚がなくなるだけで視覚的なグロさはなくならないだろう。それを避けようとするのであれば、そもそもダンジョンへの挑戦を諦めるしかない。
「まあ、そんな弱音を吐いてもしょうがないか……」
ひとまず先ほどの件は今後の課題とすることにした。というか、コボルトにトドメを刺した直後は、その瞬間の感触が何とも言えない気持ち悪さを感じさせたが、今はそれほどでもなかったりする。
これもダンジョン適応の効果なのだろうか?あるいはステータスの恩恵か?
まあ、どちらにせよ、今のところダンジョン攻略を諦めるつもりはないので生き物を殺す忌避感が軽減されてありがたいということにしておこう。
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