第55話 第2階層へ(1)

 迎えた翌日。いつも通りにダンジョンへと向かう。

 第2階層へ挑戦するということもあって、装備の確認はいつもより入念だ。


「うん、問題ないな」


 一通り確認が済むとそう声に出す。実は意外と緊張しているのかもしれない。

 昨日のうちに佐藤さんに連絡して、自衛隊の巡回ルートの変更は依頼しておいた。連絡に漏れがない限り、今日からは第1階層を素通りできるはずだ。

 そんなことを考えつつ、ダンジョンへと足を踏み入れた。




「まあ、何事もないよな」


 無事に第1階層最奥の大部屋にたどり着き、ボスであるストーンゴーレムがいないことが確認できた。

 ストーンゴーレムを相手にしなくなる以上、今日からは再び無報酬でのダンジョン挑戦となる可能性が高い。

 だからといって、ストーンゴーレムを残してもらっても、無駄に時間を浪費するだけなのでそこは割り切るしかないだろう。まあ、早く第2階層に慣れて宝箱なり、ドロップアイテムなりで稼げるようになればいいだけの話だ。


 ゆっくりと大部屋を進み、先へとつながる扉の前に立つ。一度通ったことはあるので、特にためらわず扉を開く。まあ、警戒はしているが。

 扉の先は、当たり前だが以前来た時と同じく、ここまでと代わり映えのしない通路が続いていた。

 そのまま通路を進み、罠のある曲がり角で立ち止まる。

 確かこの罠は一定以上侵入すると矢を撃ってくるタイプの罠だったはずだ。前回はよけることができず、肩に傷を受けて引き返したが、レベルの上がった今の俺であればおそらく対処できるだろう。


「さて、と」


 そんなことをつぶやきながら、ゆっくりと、矢が飛んでくる右側の壁から距離をとりつつ曲がり角へと侵入する。

 一歩足を踏み入れた瞬間、視界の隅に映っていた右側の壁に音もなく穴が開いた。

 その数、3つ。


「なっ!?」


 矢の一本くらい余裕だと高をくくっていたが、さすがに3本となると少し焦る。あいにく、人には腕が2本しかないのだから。

 ひとまず、壁側へと体を向け、バックステップで可能な限り距離をとろうとする。

 だが、こちらの体勢が整うまで悠長には待ってくれないらしい。後ろへと下がっている最中に3本の矢が飛んできた。

 こちらを認識して放ってきたのかは知らないが、矢はそれぞれ頭、胸、腹を狙うような軌道で飛んできている。


「くぉっ」


 妙な声を出しつつ、右手に持ったメイスを振るう。

 上の2本を狙い通りメイスで叩き落すが、最後の1本が残る。装備を信じて体で受けても問題なのではないかという考えが頭をよぎるが、ダメ元で左腕を払うように振り抜く。


 コッ。


 運よく腕が矢に当たったようで、軌道がそれた矢が後方の地面に落ちる音が聞こえた。



「あー、びっくりした」


 罠探知に反応がないことを確認して、地面に落ちた矢を拾う。矢じりを確認するが、今回も特に毒などが塗られていることはないようだ。

 ここの罠が毒矢を放ってくることがあるのかはわからないが、矢の数が変わったことから、普通の矢が毒の矢に変わる可能性もある。油断せずに警戒すべきだろう。


 というか、これはダンジョンが成長した影響なのだろうか?

 矢が1本から3本に増えただけだが、変化は変化だ。ただ、自衛隊の隊員の人たちは特に変化がなかったと言っていたはずだ。ということは元から矢の数が変化するタイプの罠だったのだろうか?

 なんとなく、自衛隊の巡回チームの場合はこの程度の罠を気にしなさそうなので変化に気づいていないだけという気もする。

 まあ、たくさんの矢が飛んでくるかもしれない罠と思っておけばいいだろう。……馬鹿っぽい考えだが。

 ひとまず、今は先へ進もう。




「これが第2階層への階段か」


 曲がり角の先の通路をしばらく進んだところで出くわしたそれを見てつぶやく。

 どうやら、このダンジョンでは階段に対して扉をつけるということはしていないらしい。通路の突き当りの壁にぽっかりと穴が開いており、そこに第2階層への階段が続いていた。

 念のために周囲を確認するが、特に罠があるような違和感はない。まあ、階段はダンジョンの数少ない安全地帯らしいので罠があるとは思っていなかったが。


 無駄に突っ立っていても仕方ないので、警戒しながら階段へと足を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る