第54話 ダンジョンの成長とアイテムの売却(2)

「ダンジョンアイテムショップ北山ダンジョン支店の出張買取です。森山様のお宅で間違いないでしょうか?」


 インターホンの音に気づいてモニタから応答すると、大きな声でそんな言葉が返ってきた。どうやら依頼していた出張買取の担当者がやってきたようだ。

 魔鉄の大斧がなければアイテムショップへ持ち込んでの買い取りも可能だったんだが、さすがにあのサイズの武器を持ち運ぶことはできない。なので出張買取を依頼した。


 ついでに言うと、依頼したアイテムショップもいつも行っている隣町のアイテムショップではない。あの店ではダンジョン産の武器や防具の買い取りを扱っていないからだ。なのでそれらの取り扱いがある別のアイテムショップに依頼することになった。

 こちらはダンジョンに併設されている店なので買い取りも問題ない。というか、普通は併設のアイテムショップですぐに不要なアイテムを買い取りしてもらうものらしい。


 とりあえず、いつまでも待たせておくわけにもいかないのでモニタ越しに応答して玄関へと向かう。



「ふむ、アイテムは電話で聞いていた通りのようですね。銀貨が24枚、紫水晶の原石が1つ、魔鉄の大斧が1つ、魔鉄のブーツが1つ、と。特に問題もないようですし、公開されている買い取り価格になりますね。これらすべての買い取りで間違いないですか?」


「あっ、はい。すべて買い取りでお願いします」


 買い取り価格は、公開されている通りの価格になるようだ。

 ダンジョン管理機構のアイテムショップだとアイテムごとに買い取り価格が公開されていて、基本的にその価格から外れることはない。よほどの状態であれば買い取り価格が下がることもあるらしいが、ダンジョンから出たアイテムであれば基本的にそんな状態になることはないので、本当に稀なケースらしいが。

 買い取り担当の男性が持ってきたノートパソコンを操作して見積書を印刷している。それを待ちながらボーっと作業を見ていると男性から話しかけられた。


「いやー、それにしても良いタイミングでしたね。もう少し遅かったら買い取り価格が下がっていたかもしれないですよ」


「えっ、値段が変わるんですか?」


「ええ、探索者支援の発表があったでしょう?その影響で、財源確保のためにも不良在庫になるようなアイテムの買い取り価格は見直しを行うことになったんですよ。今回のケースだと魔鉄の大斧と魔鉄のブーツが買い取り価格見直しの対象でしょうね」


「……探索者を支援しようっていうのに、アイテムの買い取り価格を下げるのはどうなんですか?」


「ああ、お客さんはここの非公開ダンジョンで専属で活動しているんでしたか。だったらわかりにくいかもしれませんが、他の一般の探索者だと基本的にダンジョンでアイテムを手に入れることはめったにないんですよ。だから買い取り価格を下げても大多数の探索者にとっては影響しないんです」


「でも、それだとアイテムを手に入れているような探索者が不満を持つのでは?」


「まあ、まったく不満が出ないということはないでしょうけど、基本的にアイテムを手に入れるのは高位の探索者か自衛隊の探索部隊ですからね。彼らの場合は不良在庫になるようなアイテムではなく、有用な高価なアイテムがメインの稼ぎになるんですよ。有用なアイテムについては、特に買い取り価格の改定がされるようなことはありませんから影響はないということです」


 そこで話を切って印刷された見積書を手渡してくる。

 受け取って確認してみるが、事前に計算していた額と同じだ。そのままサインしてお金を受け取る。


「ちなみにその買い取り価格の改定はいつ頃行われるかご存知ですか?」


 買い取ったアイテムを運ぼうとしている男性に向かって声をかける。


「うーん、私もそういう動きがあるという話を聞いただけですので、具体的な時期まではわからないですね。まあ、実際に価格が改定されるときには事前に発表されるんじゃないですか」


 彼は作業する手を止めずにそんな答えを返してきた。






 買い取り担当の男性を見送ってから家へと戻り、さっき受け取ったお金をテーブルの上に広げる。

 8枚のお札が並び、その額は53,000円。

 ……正直、多いのか少ないのかよくわからない。

 宝箱を手に入れた10日間だけで考えるのであれば日給5,300円ということになるが、ダンジョンに挑戦し始めた日からの日数で考えると日給が1,000円を切る。

 別にダンジョンで稼ごうとは思っていないが、モチベーションを保つためにはそれなりの報酬が欲しい。装備を揃えるために使ったお金を考えるとなおさらだ。


 加えてアイテムの買い取り価格が改定されるかもという話。買い取り担当の男性は、ほとんどの人には影響がないなんて言っていたが、俺の場合は影響をもろに受けそうだ。

 今後もダンジョンに挑戦していくとしても、しばらくは低階層の宝箱しか手に入らないだろうし、そうなると手に入るアイテムも基本的には今回売ったものと同じようなものになるだろう。ということは同じ労力なのに得られる報酬が減るという悲しい事態が起きるということだ。


 ……まあ、嘆いていたところで何も変わらないのだし、諦めて気持ちを切り替えよう。とりあえず、明日からダンジョンの第2階層に挑戦するのだから。

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