第51話 宝箱と探索者支援(1)

 崩れ落ちたストーンゴーレムが光の粒になっていくのを眺めながら、少し離れた場所に腰を下ろす。


 長い戦いだった。

 間違いなく探索者になって最長の戦いだったはずだ。実際、時間を確認するとスライムを片付けた時間も合わせて2時間近く経っている。

 だが、その長い戦いの疲れとは別に充実感も感じている。思えば、何かを成し遂げるために必死になったのはかなり久しぶりかもしれない。


 社会人になってから、いや、学生時代のころからも、いつの間にか惰性で行動して何かに挑戦するといったことが少なくなっていた気がする。人間関係の疲れから会社を辞めてドロップアウトしたような形になってしまったが、ダンジョンへの挑戦を続けていけば何か得るものがあるのだろうか。

 ストーンゴーレムを倒した影響でハイになっているのかもしれないが、そんな風に思った。



 さて、戦闘中にばらまいた硬球と砲丸とゴルフボール、そして目についたパチンコ玉の回収は終わった。となると、次はアレに手を出すか。

 そう、宝箱だ。

 この宝箱は、ストーンゴーレムを倒したことで出現したようだ。投擲物を回収しに部屋の奥の方に行ったときに、先へと進むための扉の手前にポツンと置かれていた。


 ボス部屋やモンスターハウスなどでモンスターを全滅させると宝箱が出現するという話は知っていたが、出現方法はもう少しどうにかならないのだろうか。あまりの存在感のなさに、下手をすると宝箱に気づかなかったかもしれない。

 普通の探索者であればモンスターを全滅させれば、安全確認も兼ねて部屋の確認ぐらいはするのかもしれないが、俺みたいなソロだと戦闘がきつかった場合は部屋の確認なんかせずに即撤退を選択する可能性もあるわけだし。

 まあ、ちゃんと見落とさずに気づいたんだから別にいいか。次からは意識して部屋の確認をするようにすればいいだけだろうし。

 そんなことよりも、今は宝箱だ。


 問題の宝箱だが、いつか見た通路にあった宝箱と外見上は同じものだ。

 さすがにモンスターを全滅させた後に得られる宝箱だけあって、罠付きということはないらしい。近くで観察しても“罠探知”のスキルが反応する気配はない。


「じゃ、開けますか」


 期待を胸に、そう声に出して宝箱に手を伸ばす。留め金を外し、丸みを帯びたふたをゆっくりと開く。

 そのまま宝箱の中をのぞき込むと、中には金貨が1枚寂しげに置かれていた。


「……」


 なんなんだろうか、これは。

 一度部屋の中を振り返り、視線を外してから再度のぞき込む。だが、結果は変わらない。

 金貨が1枚。

 これが、俺がダンジョンの宝箱から初めて得た報酬だった。



 しばらく放心していたが、頭を振って金貨1枚のショックを振り払う。

 まあ、さすがに期待し過ぎていたんだろう。冷静になって考えてみると、こんな階層の少ないダンジョンの第1階層でそうそう貴重なものが手に入るはずがない。

 ダンジョンで、特に低階層では実入りが良くないというのは散々言われていることだ。宝箱に期待するのはもっと上の階層に進んでからにしよう。


 そう気持ちを切り替えて、次のことを考える。

 ダンジョンに入ってから2時間と少し。目的であったストーンゴーレムの討伐は完了した。

 さすがに今日は脇道にある大部屋でレベル上げという気分ではないが、せっかくなので第2階層を確認しておくべきだろうか?

 しばらくはストーンゴーレム相手にレベル上げを行うつもりなので、別に今日確認しておく必要はないんだが、やはり気にはなる。以前は矢の罠で引き返したが、今なら先へと進める気がするし。


 ひとまず、ステータスを確認する。HPは半分は超えているが6割には届かないといったところ。……正直、微妙だ。

 確認するだけなら問題ないという気はするが、第2階層に下りて初見のモンスターに遭遇すると危険かもしれない。後、ないとは思うが、確認後にストーンゴーレムがリスポーンしている可能性もないとは言い切れない。

 いや、リスポーンはないか。今までの経験上、自衛隊の巡回で倒されたモンスターは半日近くリスポーンしていないのだ。それを考えると1時間もかからないであろう確認後にリスポーンしているとは思えない。


 ……だがまあ、第2階層の確認はまた今度にしよう。

 今日の目的は果たしたし、いつもであればそろそろダンジョンの挑戦を切り上げている時間だ。別に第2階層は逃げるわけではないのだし、明日以降のお楽しみということにしておこう。

 そう結論付け、ダンジョンの出口へと向かった。

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