第52話 宝箱と探索者支援(2)

「うわっ、きっつ」


 ダンジョンから地上に戻り、家へと帰るために数歩踏み出したところで強烈な疲労感に見舞われる。

 最近は余裕が出始めていたので、ダンジョンエリアから出ても体が少し重くなったかなという程度だったが、今日はHPの半分近くが削られている。背中に背負ったリュックや腰に着けている装備の重さですらきつく感じるレベルだ。

 顔を上げ、道路の挟んだ向こう側、目指す自宅へと視線を向ける。いつもであれば意識することもない距離なのに、今日はとてつもなく遠く感じる。


「仕方ない、諦めるか」


 そうつぶやいて、前方に向けていた視線を右に移動させる。視線の先にはダンジョン管理機構によって用意された探索者用のロッカーが置かれている。

 ストーンゴーレム戦で装備に問題が起きていないかを確認しようかと思っていたが、自宅までの距離ですら億劫だ。2度手間になるが、今日はロッカーに装備を置いて帰って、回復してから改めて装備を確認しよう。とにかく、今は休みたい。

 そう決めて、装着していた装備を外してロッカーへと預ける。


 装備を外すと身体のキツさが幾分マシになった気がする。普段通りとはいかないが、風邪をひいて熱が出ているときくらいの状態だろうか。

 そう考えるとなんとなくダメな気がするが、1人暮らしであればその状態で買い物に出かけるくらいのことはしている。なので、この距離を歩くくらいであれば問題はない。






「とりあえず、装備は問題なしか」


 結局、家に帰ってから3時間ほど横になり、軽くダルさが残る程度にまで回復したところでロッカーから装備を回収してきた。

 で、装備を確認したわけだが、特にこれといった損傷はなかった。

 心配していたメイスについても、さすがはダンジョン産というべきか、特に問題があるようには見えなかった。さすがにレザーアーマーやリュック、ウエストポーチなんかについては汚れや小さな傷がついていたが、その程度だ。これなら、特に問題なく明日からもダンジョンへと挑戦することができるだろう。


 装備を片付けたところで空腹を覚える。休む前に軽くパンを食べていたが、もう結構な時間だ。いい加減お腹もすくだろう。

 だが、さすがに今日は夕食を作る気にはならない。なので、出前を取ることにして電話で注文する。どうやら、1時間半ほどで届けてくれるらしい。

 さすがに田舎だと注文してすぐには届かないか。仕方がないので、テキトーにお菓子でもつまみつつ、待っている時間で家の中のことを片付けてしまおう。



 届いた寿司にインスタントの味噌汁を用意してテレビを眺める。

 ちょうど21時のニュースが始まり、冒頭のニュースでダンジョンに関する話題が出ていた。どうやら、先週買い物に行ったときに食堂で見た探索者支援の法案が可決されたらしい。

 ずいぶんと急な話に思えるが、俺が認識していなかっただけで話自体は以前からあったのだろう。具体的にいつからどういう風な支援があるのかはわからないが、ありがたい話だ。


 正直、家のダンジョンの攻略にいくらかかるのかと心配になっていた。

 この前は勢いでスキルスクロールを大人買いしてしまったが、改めて考えるとかなり馬鹿なことをした気になってくる。

 一応、安全のために必要だと思って買ったわけではあるが、数百万の出費とか何を考えているのかという感じだ。投擲のための装備を準備したときの金額と比較して、フラッとしてしまった。

 まあ、そんなわけで、ダンジョン攻略のためにお金をかけ過ぎないように注意しようと決意していたわけなんだが、この探索者支援次第では多少余裕が出るかもしれない。


 今回のストーンゴーレムの件でよくわかったが、やはりダンジョンを攻略しようとするとそれに見合った装備が必要になる。

 だが、ダンジョン産の装備を用意するとなると、当然、相応の費用がかかってくる。その費用をダンジョンから得られるもので賄うことが出来ればいいのだが、現状の成果は金貨が1枚に銀貨が2枚という散々なものだ。

 だからといって、ダンジョン産装備を諦めると身の危険につながるし、安全なところでレベルを上げてからと考えても限界はある。


 とりあえず、この探索者支援で俺のこれからのダンジョン挑戦がより快適になることを願いたいところだ。

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