第50話 ストーンゴーレム(3)

 ストーンゴーレム相手にヒットアンドアウェイの戦法で攻め続ける。

 時折、タイミングよくカウンターを合わせてきたりするので油断できない。まあ今のところ、うまく受け流したり、防御したりできているので大丈夫だが。

 ただ、体力的なものや集中力的なものがそろそろ辛い。徐々にストーンゴーレムの攻撃を正面で受ける頻度が上がってきている気がする。


 一応、HPはまだ7割近く残っているので、一撃でどうこうということはないはずだ。しかし、集中力が落ちてきていることを考えると撤退も考慮すべきなのか。

 そんなことを考えつつ時間を確認すると、ストーンゴーレム相手に戦い始めてから1時間近く経っていた。道理で、色々ときつくなるわけだ。

 しかし、いまだにストーンゴーレムに外見的な変化はない。さすがにここまでやって、何の変化もないというのは不安になる。


 撤退か続行か。

 安全策をとるのであれば、当然撤退ということになるのだろう。しかし、撤退するというのは気分的に微妙だ。1時間もかけて何をやっていたんだという気分になる。実際には1時間かけても倒せないということが分かったので無意味ではないんだが、やっぱりモヤッとしてしまう。

 とりあえず、HPが半分を切るまでは続行してみるか。

 ストーンゴーレムの攻撃をノーガードで受けた場合、おそらくHPの2割くらいを持っていかれると思われる。そう考えると、5割あれば2発は大丈夫という計算になるのでどうにかなるだろう。



 いい加減に見飽きたストーンゴーレムの進撃に合わせ、こちらもメイスを構えて突撃する。

 殴りつけてくる拳をかわし、すれ違いざまに右足へとメイスを叩き込む。

 この戦いの間、可能な限りストーンゴーレムの右足を狙うようにしていたが、よくよく考えるとダンジョン産防具のように全体を防御するようなシステムになっているのであれば意味のない行動なんじゃないだろうか。

 ストーンゴーレムから離れた位置で振り返りつつ、いやな考えを頭を振って打ち消す。

 仮に右足を狙わなかったとしても、体格的な問題でメイスが届く位置はせいぜい胸の位置程度だ。頭部が狙えるというのであればまだ違うかもしれないが、胸の位置程度であれば狙いが定まっているだけ足の方がやりやすいと思っておこう。


 こちらへと足を進め始めたストーンゴーレムに対し、今日何度目かわからない突撃を行う。


「いい加減に壊れろっ!」


 いろいろと溜まってきた鬱憤を言葉にし、すれ違いざまにメイスを叩き込む。


「!?」


 言葉にしたことが良かったのか、あるいは願望が見せた幻か、視界の隅で石の破片が飛ぶのが見えた。

 それを目で追おうとして足が緩み、いつもより近い位置で止まってしまう。

 気づいた時にはストーンゴーレムの拳が目の前にまで迫っていた。


「くそっ」


 メイスを掲げてガードしようとするが間に合わず、腕を使ってガードする。合わせて衝撃を受け流すために軽く後方へと飛ぶ。

 自ら飛んだこともあり、結構な距離を吹き飛ばされて地面を転がる。だが、そのおかげでストーンゴーレムが近づいてくるまでに体勢を立て直すことができるはずだ。

 立ち上がり、メイスを正面に構える。予想通り、ストーンゴーレムと接触するまでにまだ余裕がありそうだ。その猶予を使ってステータスのHPを確認する。

 さすがにメイスでガードした時よりもダメージが大きいみたいだが、一応腕でのガードが間に合ったのだろう。まだ、HPは6割をキープしている。

 そのことに安堵し、正面のストーンゴーレムを見据える。

 先ほどの破片が見間違いでないのであれば、もう少しでストーンゴーレムのHPを削りきれるはず。ネット上の情報を信じるのであれば、残り1割を切っているはずだ。

 単純計算でどれくらいだ?

 早ければ5分程度か?まあ、かかっても順調に削れば10分くらいか。……10分と考えると、まだそれなりにかかりそうな気がするな。

 まあどちらにせよ、まずはさっきのが見間違いじゃないことを確認すべきだろう。

 程よく距離を詰めてきたストーンゴーレムに対して駆け出す。

 足を止め、両腕を広げた状態で待ち構えるストーンゴーレムの懐へと飛び込む。

 いつも通り左右から両手を使ってつぶしに来るかと思っていたが、その気配がない。

 その違和感に警戒しつつメイスが届く距離まで詰める。

 瞬間、ストーンゴーレムの右足が飛んできた。


「うおっ」


 驚きつつも、警戒していたおかげでメイスを使って受け流すことに成功する。

 そのまま通り過ぎた右足にメイスを叩き込む。

 今度ははっきりと右足から破片が飛び散るのが見えた。


「よしっ」


 喜びを声に出しつつ、追加で飛んできた腕をバックステップでかわす。そのまま後退し、ひとまず距離をとる。

 とりあえず、ストーンゴーレムのHPが残り1割を切ったのは間違いなさそうだ。

 いきなり蹴りという新しい動作を繰り出してきたことには驚いたが、対処できないような理不尽な攻撃ではない。これが、HPを削ったことによる特殊行動なのかはわからないが、まあ問題ないだろう。このまま、今までのように削り続けるだけだ。



 ようやく見えた終わりに、テンションを上げながらストーンゴーレムのHPを削っていく。

 先ほどまでとは違い、文字通りストーンゴーレムの身体が削れていくので、今までの疲れを忘れたかのように気持ちよく身体が動く。足に胴体、腕と狙いやすい部位にメイスを叩き込み、その都度破片が飛んでいく。

 数分繰り返した今では、目で見てわかるくらいにストーンゴーレムはボロボロの姿になっている。

 あともう一息。その思いを胸にストーンゴーレムへと駆ける。

 ストーンゴーレムから放たれた右ストレートをかわし、その胴体へとメイスを叩きつける。

 同時にストーンゴーレムが動きを止め、一瞬の後、力なく崩れ落ちた。


「っしゃああああっ!!」


 柄にもなく喜びの叫び声をあげた。

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