第49話 ストーンゴーレム(2)
ようやく、お供として寄り添っていた最後のレッドスライムを倒すことができた。さすがにレッドスライムともなると、牽制目的の小石でチマチマと削って倒すなんてことはできず、直接メイスを叩き込みに行く必要があった。
だが、これでようやく目的であるストーンゴーレムと一対一だ。
「うわっ」
最後のレッドスライムを倒し、一息つくために距離をとろうとしたところにストーンゴーレムの拳が飛んでくる。
ここまで細かい休憩をはさむだけでスライムたちを相手に走り続けていたので、一呼吸置きたかったんだが、さすがにそれは許してくれないらしい。
メイスを構えてストーンゴーレムの拳を流すようにはじく。
少し後ろに弾き飛ばされるが特にダメージはない。だが、まともに受け止めたわけでもないのに、腕にはかなりの衝撃を感じている。
そのまま2発目3発目を叩き込んできそうなストーンゴーレムから急いで距離をとる。
レッドスライムを倒したタイミングでも、それなりの距離があったはずなんだが、さすがの巨体というべきか、リーチの差がひどい。俺の方からは懐に飛び込まないとメイスが届かないというのに、向こうはこちらの攻撃範囲外からでも余裕で攻撃できる。
ストーンゴーレムの動作が特に速いわけではないのが救いか。まあ、かといって遅いわけでもないので油断していると普通に食らってしまいそうなのが問題だが。
ストーンゴーレムの様子をうかがいながら、ゆっくりと後ろへと下がる。
今のところ、ストーンゴーレムが駆けるという姿は見ていないが、歩幅が大きいので普通に歩くだけでも移動速度はそれなりにある。俺が走るほどの速度ではないが、速足程度の速度ならありそうだ。なので、このままではすぐに距離が詰まってしまうだろう。
背後を確認し、壁までの距離が十分に開いている場所で止まる。
ストーンゴーレムはその歩みを止めず、一定の速度を変えることなくこちらに向かってきている。さっきまで散々近くでその巨体を見ていたはずだが、改めてこちらに迫ってくる姿を見ると思った以上の圧迫感を受ける。
一応、ダメ元で小石を握り、巨体を支える足に向かって投げつけてみる。だが、予想通りというかなんというか、ストーンゴーレムは何の意に介すことなくこちらへと向かってきている。
「……ですよねー」
そんなあきらめの言葉をつぶやきながら、小石による牽制を諦めてストーンゴーレムへと突っ込む。
“ブンッ”
まるでそんな音が聞こえるようなストーンゴーレムのラリアットのごとき腕の振り抜きを、足を止めずに身をかがめてかわす。
そのままストーンゴーレムの左に抜けるように駆け抜け、すれ違いざまにその脇腹へとメイスを叩き込む。
だが、返ってくる感触は地面でも叩いたのかというような強烈な衝撃だ。正直、攻撃したはずのこちらがダメージを受けているのではないかと思ってしまう。
駆け抜けた先で振り返り、ストーンゴーレムの様子を窺う。ちょうどあちらも振り返るところだったようで、攻撃した側の腹を見せるように回転していた。
まあ、外見としては何の変化もない。昨日までの経験やネット上の情報からわかってはいたが、傷や打撃の痕跡すらないというのは不安になる。
ネット上の情報を信じるのであれば、打撃を叩き込んだ際にストーンゴーレムを動かすための魔力のようなものが散るらしい。で、それがダメージとなっているはずである。
ただ、この魔力のようなものが散る現象については、魔力を感じることが出来なければ認識することはできない。“魔力感知”スキルや高レベルの魔法スキルがあれば分かるらしいんだが、俺はどちらも持っていないのでダメージが入っていることを信じるしかない。
レベルやらスキルやらでゲームみたいになっているのであれば、モンスターのHPも見えるようにしてくれていればよかったのに。“鑑定”スキルがあれば相手のHPも見えるそうだが、スキルを持っていない俺には関係のない話だ。
まあ、さすがにダメージが蓄積してくるとストーンゴーレムであっても身体が欠けたりといったような傷がつくようになるらしい。なので、とりあえずは目に見える変化が現れるまで地道に削っていくしかない。
再びこちらへと歩みを進め始めたストーンゴーレムへ再度突撃する。
先ほどと同じくストーンゴーレムの左に抜けるように進路をとり、今度はその巨体を支える右足を狙う。こういった巨大な相手に対して足を狙うというのは定番だろう。
ストーンゴーレムの正面に近づいたとき、ストーンゴーレムが両手を組み、振り上げた腕をハンマーのように叩きつけてくる。
正直、動きがおおざっぱで余裕をもって回避できるレベルではあるんだが、その破壊力に肝を冷やす。
普通に地面がえぐれているのだ。ストーンゴーレムの両手は無事だというのに。
横目に見えるその光景にビビりつつ、狙っていた右足へとメイスを叩き込んで距離をとるために駆け抜ける。
一撃くらいであれば食らっても立て直せるかと思っていたが、さっきの攻撃を見るとそんな考えは吹っ飛んでしまう。さすがにアレを食らうとしばらく動けなくなる気がする。そうなると、いくら動きの速くないストーンゴーレムといえど、タコ殴りにされるのは目に見えている。
ということは、これからストーンゴーレムを倒すまでに一撃ももらってはいけないということか。
……きついな。
まだ体力に余裕がある今であれば十分に回避ができるが、これから先、時間をかけていけばその余裕がなくなってしまう。回復するために休憩をとろうにも、向こうは体力という概念があるかもわからない存在だ。
今もこちらに向かってきているように、これからもこちらに休む暇を与えることなく攻め続けてくることだろう。そうなると部屋の外に撤退するという形でしか休息が取れない気がする。
「ははっ」
自嘲気味に笑う。
何を弱気になっているのだろうか。そんなことは、挑戦する前からわかっていたじゃないか。それでも挑むと決めたからこの場にいるのだ。
さすがに死ぬつもりがあるわけではないので、ヤバくなれば撤退するが、まだ一撃ももらっていない状態で弱気になるべきではない。正直、弱気と慎重の境界がいまいちはっきりしないが、まあいい。
最悪、一撃いいのをもらっても即死にはならないはずだし、その場合は遠慮なく奥の手を切って逃げよう。それだけ決めていれば十分だろう。あとは思う存分ストーンゴーレム相手に今の俺の力を試すだけだ。
考え事をしている間に目の前にまで迫っていたストーンゴーレムの右ストレートをメイスで受け流す。さっきと変わらず、かなりの重さだが問題ない。
そのまま続く左のパンチを潜り抜けるようにかわし、再び右足へとメイスを叩き込んで後方へと走り抜ける。
ここからは我慢比べだ。
俺の体力が尽きるか、ストーンゴーレムの体力が尽きるか。まあ、ヤバくなれば俺は逃げるので公平な勝負とは言い難いが、ダンジョン自体が非常識な存在なので問題ない。
メイスを両手で構え、こちらへと振り向くストーンゴーレムの様子をうかがう。
石の塊であるその顔からは、何の感情もうかがえないが俺のことをうっとおしく感じたりしているのだろうか。それとも単に機械的に排除しようとしているだけか。
こちらへと向かってくるストーンゴーレムに対し、こちらも駆けていく。
こちらが駆ける様子を見て、ストーンゴーレムが足を止める。その場で両腕を広げ、まるで俺を抱きとめようとするかのような姿だ。
だが、実際にはそんな平和な状況になるわけがない。俺が射程距離に入った瞬間、左右から挟み込むように両手をたたきつけてくる。
なかなかにいやらしい攻撃だが、直前で急ブレーキをかけ、バックステップでその攻撃をかわす。
あいにくこの距離ではメイスが届かないので、ダメ元で硬球を右足に向けて投げつける。
相変わらず、ダメージが入っているかわからないが、命中はした。
そのままストーンゴーレムを中心に円を描くように走り出す。
すぐにストーンゴーレムが腕を振り回すように体を回転させてくるが、腕の射程を外れた距離を走っているので当たることはない。近くに感じる風圧に若干の恐怖を覚えるが、それだけだ。
2周ほどしたところでうまく背後をとることができたので、ひざ裏を狙ってメイスを叩き込みに行く。人間と同じようにバランスを崩すかどうかはわからないが、ものは試しだ。結構な確率で無理な気はするが。
だが、近づいた瞬間にストーンゴーレムは回転を止め、逆回転でバックブローを放ってきた。
「くっ」
隙を突かれたような形になってしまったため、かわす余裕がない。慌ててメイスを構えて防御するが、その威力を殺し切れず後ろへと吹っ飛ばされる。
慌ててステータスを確認すると、HPが少し削られている。
そういえば、ストーンゴーレムの攻撃を正面からまともに受け止めるのは、装備を更新してから初な気がする。今まではかわすなり、受け流すなりしていて、ダメージを受けることはなかった。だが、正面から受け止めるとメイスで防御していてもダメージが通ってしまうらしい。
まあ、動けなくなるとか、HPの減少量が危険なレベルというわけでもないので問題はないか。むしろ、正面から受け止めても問題ないということがわかってよかったかもしれない。
問題は受け止めてもその場でとどまれないことか。そうなると、マンガやアニメよろしく正面に立って殴り合うみたいなことはできない。まあ、相手は両腕が使えるのにこちらはメイス1本という状況では、どう考えても殴り負けるのでやらないが。
考え事をしつつ、背後の壁までの距離に余裕があるところまで後退する。ストーンゴーレムも向かってきているので、止まって休む余裕はないが、後退していれば少しは間をとることができる。
とりあえず、疲れた場合はこんな感じで一息つくことにしよう。ただ、緩慢と同じようなことをしていると隙を突かれそうなのでそこは気を付けないといけないが。休もうと後退しているときに、急に走ってこられたりするとやばいし。まあ、ストーンゴーレムには遠距離攻撃がないのでそこは救いだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます