第48話 ストーンゴーレム(1)
「いい天気だ」
家を出て、晴れ渡った空を見上げてつぶやく。
ダンジョンに入ってしまえば外の天気など関係ないんだが、今日はストーンゴーレムに挑戦しようという日だ。じめじめとした雨が降っているような天気よりはよっぽど良い。
ストーンゴーレムを倒し、晴れ渡ったこの空と同じようにすがすがしい気分でダンジョンから帰ってきたいものだ。
そんなことを考えながらダンジョンへと向かった。
昨日と同じく、ストーンゴーレムのいる最奥の大部屋へと一直線に向かう。途中でグリーンスライムに2度ほど遭遇したが、軽く蹴散らした。かつては地味にてこずっていた相手だが、今となってはグリーンスライムが雑魚だと言われている理由がよくわかる。
「……ふーっ」
扉の前に立ち、心を落ち着かせる。昨日、一昨日もこの部屋に挑戦しているので今更な気もするが、今日はストーンゴーレムを倒すつもりなのだ。一当てするのではなく、倒すために挑むのであれば多少は緊張してしまうのも仕方ないだろう。
まあ、危なくなれば撤退すればいいだけではあるんだが、やはり心構えとしてそれは違う気がする。
やると決めたからにはやりきる。
何の準備もなしに臨んだ前回とは違い、今回は事前に十分な準備を行っている。そして、実際にストーンゴーレムを倒すだけの目途も立っている。
となれば、あとは覚悟を決めて挑むだけだ。そう決意し、扉に手をかけて部屋の中へと踏み込んだ。
まあ、気合を入れて部屋の中に入ったはいいものの、ダンジョンがこちらの気持ちを汲んでくれるはずもなく……。当然のことながら、いつも通りに周囲にいるスライムの対処からこなすことになる。
部屋の中にいるモンスターの配置は、今までとほぼ変わらない。せいぜい、ストーンゴーレムから離れた位置にいるスライムたちの数が変わる程度のものだ。大半のスライムがストーンゴーレムに従うように集まり、少数のはぐれグループが扉寄りの位置に存在している。
まずは準備運動がてら、離れたスライムたちを片付けよう。
そう決めて、一番近くにいるブルースライムとグリーンスライムのグループへと駆け出した。
やはり、ブルースライムとグリーンスライムだけのグループはもはや敵ではないらしい。部屋の扉側に存在した3つのグループが10分程度で片付いてしまった。部屋の外に少しずつ釣り出してから倒していたころからは考えられない進歩である。
だがまあ、余裕を出していられるのもここまでだろう。次からはストーンゴーレムの周囲にいるレッドスライムを含むスライムたちが相手だ。一応、昨日の時点でストーンゴーレム以外を倒し切ることができるようになったとはいえ、油断できるような相手ではない。
ストーンゴーレムたちから離れた位置で呼吸を整え、相手の様子をうかがう。
やはり、ちょっかいをかけずに離れている分には向こうから攻撃してくることはないらしい。これが一度でも攻撃を仕掛けると周囲にいるスライムたちが反応してきたり、ストーンゴーレムが向かってきたりするのだが。
昨日の挑戦でわかったことなんだが、どうやらゲームでいうところの“ヘイト”的なものが毎回挑戦するごとにリセットされているらしい。それは、前回の挑戦でこちらが仕掛けた攻撃について学習したことについてもリセットされるというわけで。
つまり、何が言いたいかというと、最初の一撃については相手の警戒が薄い状態で仕掛けることが出来るということだ。
一応、目の前にいるストーンゴーレムについては、俺はもちろん、自衛隊の巡回チームも倒していないはずなので前回と同じ個体になるはずなんだが。
なんにせよ、最初の一撃についてはストーンゴーレムの保護下に入る前のスライムたちに投擲し放題ということだ。
メイスを左手に持ち替え、右手にもてるだけの小石を持つ。
ストーンゴーレムたちが反応しないことを確認し、一気に駆け出す。
可能であればレッドスライムにも小石を叩き込みたいが、奴らはストーンゴーレムの陰にいる。あまり欲をかかずにまずはスライムたちの数を減らすことを考えるべきだろう。
距離が近づき、手前にいるブルースライムとグリーンスライムが迎撃態勢に入る。だが、投擲による遠距離攻撃には備えてはいない。
10メートルを切ったところで向こうからもこちらへと動き始める。
ここだっ!
すかさず右手に持った小石をスライムたちに向かって山なりに放り投げる。
そのまま空いた右手で素早く追加の小石を取り出し、さらに近づいた位置ですれ違いざまに今度は上から思いっきり投げつけた。
ストーンゴーレムの左に抜けつつ、後ろを振り返る。
後から投げた小石で動きが止まったスライムたちに、先に投げた小石が降り注ぐのが見える。
正直、こんなのでダメージになるのかとも思うんだが、スキルの力とはすごいものだ。軽く山なりに投げただけでも、きっちりと命中と威力に補正がかかるらしい。視界の隅でグリーンスライムが2匹、光の粒になるのが見えた。
さて、ここで止まるわけにはいかない。
ここにいるスライムたちは仕掛けるごとにストーンゴーレムの影響下へと逃げようとする。なので、できる限りばらけた位置にいる最初のうちに削っておきたい。
メイスを右手に持ち替え、軽く弧を描くようにしてUターンする。
次の狙いは先ほどはストーンゴーレムの陰に隠れて狙えなかったレッドスライムだ。
走りながら左手で小石を取り出す。
どうやら、まだスライムたちは守勢に回らないらしい。レッドスライムの1匹がストーンゴーレムの陰に入るように移動したが、残る2匹はこちらへの迎撃態勢を見せている。さらにブルースライムもストーンゴーレムの陰から出てくるのが見える。
今度は先ほどよりも近くまで近づく。
残念ながら、レッドスライムが相手になると小石ではほとんどダメージが望めない。なので、メイスでの一撃を叩き込みたいところだ。
飛び出してきたブルースライムたちの射程距離に入り、こちらに飛びかかろうとしているところに小石を投げつける。
狙い通り、飛び上がりかけたところに命中し、地面へと落ちた。
その光景を無視して、ブルースライムの背後にいたレッドスライムへと殴りかかる。
どうやら、1匹が迎撃、1匹が回避を選択したらしい。
とりあえず、こちらへと飛びかかってきたレッドスライムへメイスを合わせる。
だが、同時にストーンゴーレムの右腕が飛んできた。
「くっ」
一応、その動きも視界の中に入ってはいたんだが、相手が大きいとなかなかタイミングがつかみにくい。
上体を屈めて潜り抜けるようにその攻撃をかわす。
うまくストーンゴーレムの攻撃はかわすが、下から先ほど回避を選択したレッドスライムの体当たりが来る。
幸いそれほど大したダメージにはならない。
だが、体勢が微妙に崩されて走る勢いが落ちる。
再度の突撃はあきらめ、ストーンゴーレムたちから距離をとったところで立ち止まる。
振り返って、ストーンゴーレムの方をうかがうと、ばらけていたスライムたちがストーンゴーレムを中心に集まっているのが見える。
できれば、相手が落ち着く前にもう2、3度突撃を仕掛けたかったところなんだが。
そんなことを考えるが、今更どうしようもない。昨日までと同じように少しずつばらけるように突撃し、1匹ずつ倒していくしかないのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます