第47話 ストーンゴーレムへの一当て(2)

 手前にいるスライムたちのために小石を用意し、ストーンゴーレムへと駆ける。

 こちらの動きに気づき、スライムとゴーレムが足を止めて迎撃の体勢をとろうとしているのが見えた。


 先頭にいるブルースライムの射程圏内に入り、飛びかかってくるブルースライムに小石を投げつける。

 命中し動きを止めることに成功するが、1匹だけタイミングをずらした奴がいる。そいつはメイスでお出迎えだ。

 地面に落ちたブルースライムをかわし、やや離れた位置にいたグリーンスライムたちへと迫る。

 一応、こちらに対して身構えているみたいだが、ブルースライムに比べると反応が遅い。中途半端な体制のグリーンスライムに、腰からパチンコ玉を素早く取って放り投げる。

 投げるというより、腰をたたいて弾き飛ばしたようなものだが、これでもスキルの効果があるみたいなので問題ないだろう。命中した奴らがダメージを受けたのか、やや後ろにのけ反ったのが見えた。


 さて本命を、と奥に目を向けたところでストーンゴーレムが右腕を振りかぶるのが見える。

 まだ距離はあるが、このまま行くといいタイミングで腕が飛んできそうな気がする。しかも、レッドスライムが1匹詠唱し始めているし。

 だが、1度だけとはいえ、前回見た動きであれば躱すことができるはずだ。……レッドスライムの邪魔がなければ。

 詠唱している1匹を除いた2匹がストーンゴーレムの前に出てこちらへと迫ってくる。


 小石やパチンコ玉を取り出す余裕はない。メイスで防御するために左に抜けるように進路をずらす。

 元々すれ違いざまにストーンゴーレムにメイスを叩き込むつもりだったので問題はない。……抜けた先に腕が飛んできそうだということ以外は。

 そんなことを考えている間にレッドスライムがタイミングをずらしながら飛びかかってきた。

 地味にいやなことをしてくれる。1匹目はメイスで払うことができたが、2匹目が潜り込むように腹に向かってくる。

 左腕を前に出して受け止めるが、やや衝撃を感じる。しかも、前を向くと次はストーンゴーレムの一撃だ。


 ストーンゴーレムの動きを見て、腕の軌道を見切る。

 かっこいいことを言っているが、相手の動きがそこまで早くないからこそできる芸当だ。これ以上早い動きをされると、なすすべなく吹っ飛ばされる自信がある。

 迫りくるストーンゴーレムの腕を屈むようにしてかわし、そのまま駆け抜ける勢いそのままにメイスを叩き込む。


「!?」


 返ってきた衝撃に、危うくメイスを取り落としそうになる。

 まさに石の塊を殴りつけたような強烈な衝撃だ。前回は金属バットが折れ曲がったことで衝撃が吸収されていたんだろう。この衝撃を前回受けていたら、武器を取り落とした状態でそのまま終わっていたかもしれない。


 驚きで足が緩んだところで後ろから不穏な気配を感じる。

 背後を振り向くと、ちょうどレッドスライムが詠唱を終えたところだった。

 落ちた速度を戻して可能な限り距離をとろうとする。

 2歩も進まないうちにファイアーアローが迫り、振り向きざまにメイスで撃ち落とす。

 メイスを前にしたまま、素早く相手の様子をうかがう。

 さすがにまだ追撃の体勢には入っていない。こちらへと向きを変えたところのようだ。

 そのことに安堵し、ゆっくりと後退して距離をとる。


 とりあえず、ストーンゴーレムを殴りつけてみたが、スライムの邪魔が入ると危険かもしれない。

 今までのように食らうのがスライムの攻撃であれば、そこまで気にしなくてもいいのかもしれないが、ストーンゴーレムの攻撃を食らうのはまずい。前回はそれで死にかけたわけだしな。

 そうなるとやはり、先に周囲にいるお供のスライムたちを片付けないといけないのか。

 まあ、“投擲”スキルもあることだし、色々と試してみるか。




「そろそろ終わりにして、撤退するか」


 ストーンゴーレムを相手にし始めてから30分ほど。周囲のスライムたちを片付けるためにいくつか試してみたが、さすがに疲れた。


 “投擲”スキルで遠距離から狙えばすぐに片付くんじゃないかという甘い考えはすぐに捨てさせられた。

 威力重視で砲丸を使い、離れた位置からレッドスライムを狙った1投目は上手くいった。さすがに1発で倒すことはできなかったが、そこそこのダメージが入ったように見えたし。

 だが、2投目からはダメだった。

 スライムたちがストーンゴーレムの陰に隠れるように移動してしまい、投げてもストーンゴーレムに防がれるようになってしまったのだ。

 ストーンゴーレムを中心に円を描くように走りながら投げつけてもダメ。すべてストーンゴーレムに防がれる。防いでいるストーンゴーレムにダメージが入っているのではないかと思わなくもないが、正直、防がれている姿を見ると期待薄だ。


 次に、いつもやっているようにヒットアンドアウェイでスライムを削る方向にシフトした。さすがにこれならいけるだろうと思ったんだが、これもなかなかに厳しかった。

 最初のうちは、こちらの動きにつられてスライムたちがばらけるようになっていたんだが、2、3匹も倒すとストーンゴーレムの攻撃範囲から外に出ることがなくなった。そうなると、攻撃しに近づくたびにストーンゴーレムからの一撃を警戒しなければいけなくなり、かなり精神的に疲れる結果となってしまった。


 で、最後に試したのが、この2つを合わせた戦法だ。ヒットアンドアウェイをメイスではなく、“投擲”スキルでやると言えばわかりやすいだろうか。

 スライムたちの中を駆け抜け、小石やパチンコ玉をばらまく。さすがに駆け抜けながら近距離で投げつければ、ストーンゴーレムであってもすべてを防ぐことはできない。

 まあ、駆け抜けながらの投擲なので威力もかなり落ちてはいるみたいなんだが、スライムたち相手であれば一応のダメージは入っているみたいだ。繰り返すうちにグリーンスライムから順に倒していくことができた。

 そうなるとスライムたちも考えるようで、俺が突っ込むと果敢に攻めてこようとするようになった。そうなると今度はメイスの出番だ。相手の出方に合わせることでより効果的にダメージを入れることができるようになったと思う。


 ただ、この戦法は結構疲れる。

 終始走りっぱなしになっているし、近づいた時はストーンゴーレムを警戒しないといけない。かといって、休憩しようかと考えて休もうとするとストーンゴーレムが出張ってくるという辛さ。

 全力で距離をとればある程度は休憩できるんだが、その場合はレッドスライムが火の矢を撃ってくることがある。まあ、弾数に限りがあるので、ある程度耐えればいいだけの話ではあるんだが。

 とりあえず、そのあたりの確認も明日でいいだろう。

 まだ、ストーンゴーレムの他にレッドスライムが2匹、ブルースライムが3匹残っているが、とりあえずのめどは立った。今日のところはここまでにして、明日万全の状態からどこまでできるかを確認しよう。

 そう決めて、ストーンゴーレムから慎重に距離をとって大部屋から撤退した。




 翌日。

 前日に試した戦法でどこまでやれるかを確認するため、ダンジョンへと入ってストーンゴーレムの部屋に挑戦した。結果、ストーンゴーレム以外のスライムたちをすべて倒すところまで成功し、ストーンゴーレムとの1対1というところまで持っていくことができた。

 ただ、準備というか、覚悟が決まっていなかったので、ストーンゴーレムを倒しきるところまで粘ることはせず、少しやりあっただけで撤退したが。

 代わりに、後回しにしていた脇道の大部屋でスライムたちを相手にレベル上げは行った。


 とにかく、今回の挑戦でストーンゴーレムを倒すための準備はできたと言っていいはずだ。次はストーンゴーレムを倒し、第1階層の突破を目指すことになる。

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