第46話 ストーンゴーレムへの一当て(1)

 ここに来るのは1週間ぶりだろうか。

 第1階層の最奥、ストーンゴーレムの部屋の前に立ってそんなことを考える。


 正直、ストーンゴーレムに一当てするにあたり、いつもの大部屋をどうするか悩んだ。だが、結局いつも通り、大部屋を攻略してからストーンゴーレムに一当てしようという結論になった。

 ただ、今にして思えば順番を逆にした方が良かったかもしれない。なぜ、新しく挑戦しようという時に余裕をなくすようなことをしているのか。

 まあ、いつもの大部屋の方は特に危なげもなく、大して消耗することなく攻略できているので問題ないと言えば問題ないんだが。


「さて、行くか」


 そう声に出してから扉に手を当てる。そのままゆっくりと扉を開き、中の様子をうかがう。ひとまず、扉付近にモンスターはいない。それを確認してから部屋の中へ入った。



 改めて部屋の中全体を見渡す。

 とりあえず、モンスターの配置は前回とそう変わりはないようだ。部屋の奥にストーンゴーレムを中心としたレッドスライム3匹を含むスライムたちの集団。そして、その集団から距離をとるようにして3~5匹で固まっているグループが4つほど。


 前回はストーンゴーレムから距離をとっているグループを部屋の外に釣り出して処理してからストーンゴーレムへと挑んだわけだが、今回はそれをしないし、必要もないだろう。

 金属バットだった武器をダンジョン産武器である魔鉄のメイスに更新しているし、“投擲”スキルによる遠距離攻撃もある。何より、手前の大部屋を釣り出しなしで問題なく攻略できているという実績がある。

 もしこれで手前にいるスライムたちを処理できないのであれば、それは俺の力不足だろう。その場合は素直に諦めて、ダンジョンに複数回挑戦することでレベル上げをすることにしよう。

 まあ、前回のことから考えると距離をとっているスライムたちにちょっかいをかける分については、ストーンゴーレムもレッドスライムも無反応なので問題はないと思うが。




 結局、手前にいたスライムたちを処理しきるまでストーンゴーレムたちがこちらに仕掛けてくることはなかった。

 同じ部屋の中にいる仲間がやられているのにそれはどうかとも思うが、こちらとしては都合がいいので気にしないことにする。一応、グリーンスライムやブルースライムなんかはこちらに対して反応していたので気づいていないわけではないと思うが。

 なんにせよ、ここからが本番だ。幸い、手前にいたスライムたちを処理する際に受けたダメージはほとんどない。ストーンゴーレムの側にいるスライムたちが仕掛けてこないおかげで呼吸も整えることができた。

 後は思う存分、ストーンゴーレムに対して一当てしてみるだけだ。



 ボール袋から硬球を取り出し、ゆっくりとストーンゴーレムたちの方へと歩く。

 30メートルを切ったあたりで手前のグリーンスライムたちが反応しだしたので立ち止まり、投球モーションへと入る。まずは硬球による“投擲”スキルの効果を確認だ。


 ゴッという音をたてて硬球が弾かれる。狙い通り、ストーンゴーレムの胴体に命中したが、ダメージが入っているかどうかは疑問だ。はっきり言って、見た目的には石の壁にボールが弾かれただけにしか見えない。

 続けてサイズが大きい砲丸についても試したいところだが、こちらに反応したグリーンスライムとブルースライムが迫ってきている。確認はこいつらを処理してからだ。


 メイスを右手に持ち直し、左手で小石をいくつかつかむ。

 ストーンゴーレムの影響範囲から出てこないかもしれないと思っていたが、どうやらそのままこちらまでやってきてくれるらしい。スライムたちがほどよく近づいてきたところで、こちらもスライムたちへ向かって走り出す。

 ブルースライムが2匹、グリーンスライムが2匹のグループに対し、スライムたちの攻撃範囲に入る直前で小石をばらまく。先行してこちらへと飛びかかろうとしていたブルースライム2匹に小石がヒットしてその動きを止める。

 そこを見逃さず、右のブルースライムに向かってメイスを振り抜き、間髪入れずに残った左の1匹も蹴り飛ばす。

 次いで、遅れて飛びかかってきたグリーンスライムたちの攻撃をメイスで難なく受け止め、そのまま目の前で落下していくグリーンスライムに向かってメイスを連続で叩き込んだ。


 グリーンスライムが光の粒になったのを確認し、弾き飛ばしたブルースライムを追撃しようとするが、レッドスライムからの火の矢が飛んでくる。どうやらストーンゴーレムの陰に隠れて詠唱していたようだ。そのせいで気づくのが遅れた。

 仕方がないのでブルースライムへの追撃を諦めて、防御に専念する。無理をすればそのまま追撃できなくもないが、本命を前にして無理をすることもないだろう。

 メイスを身体の正面で構え、距離をとるために後ろへと下がる。弾き飛ばしたブルースライムが体勢を建て直し、ストーンゴーレムの方からも追加が来ているのが見えるが今は無視だ。


 飛んできた火の矢をメイスで打ち消す。どうやらけん制目的だったようで、飛んできたのは1発だけだ。

 だが、ストーンゴーレムの方に残っていたブルースライムとグリーンスライムが、先ほど弾き飛ばしたブルースライムに合流している。さらに、ストーンゴーレム自身もこちらへと向かってきているようだ。


 ゆっくりと後退し、部屋の手前側、ある程度扉に近い位置まで下がる。

 途中でストーンゴーレムは止まるかと思ったが、スライムたち同様、こちらに向かうのをやめることはなかった。俺から20メートルほどの距離から、なおもこちらに迫ってきている。

 だが、これ以上後退すると扉側の壁が邪魔になる可能性がある。さすがに硬球1発ぶつけただけで撤退というのはありえないので、仕掛けることにしよう。今度はメイスの確認だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る